テスターですけど、このネトゲ学園が難しすぎるとか言うのやめれる? 「これ絶対クリアできないんですけど、責任とれそ?」
三章 ①
──入学式の翌日。
テスト時代にはなく、授業が始まってから知ったことはいくつもあった。
その中の一つとしてオーバーカム学園には完全下校時刻が設定されてる。
ゲームとしてはずっとサーバーをオープンしていてもいいんだろうけど、学校としては深夜までずっと学生が居るのも問題だし、それを監督する先生も大変だ。
プレイ時間に制限がないと、毎日深夜までログインする生徒のレベルが上がりすぎる、という意図もあるんだろう。
そこで夜の20時から朝の5時まではゲームにログインできない、登校できないようになっているんだ。
さて、するとどうなるか。
「おはようございますラグ君! さあさあ、実績解除の時間ですよ!」
そう、朝からやるのが一番なんだよねえ!
「朝から元気だなあ、リアは」
「発売直後から完全攻略本があるんですよ? ウキウキでゲームできるに決まってるじゃないですか!」
「俺のこと攻略本だと思ってる?」
「まさかそんなはずないじゃないですか完全攻略本君」
「言ったな? 完全に言ったな?」
二文字の名前を無駄に長くするんじゃありません。
っていうかそもそも。
「リア、攻略本とか見たことあんの?」
「ええと……読み物としてなら……」
ですよねー、そんなもんだよな。
矛盾した話だけど、攻略情報を求めているなら攻略本は手に取らないもんね。
SNSとか動画サイトとか、企業wikiで情報は集めるはずだ。
「そういう意味では、俺も攻略情報よりも、豆知識とか世界観とかを聞いた方が役にたつかも。実績は自分で集めてこそかもしれないし──」
【実績:はい、二人組作って!】
二人だけのPTを一定時間維持した証。
もう二人組なんて怖くない。
「って言ってたら!?」
うわ、実績が解除された!
PTから抜けておくのをすっかり忘れてた!
「やっぱりですか! 帰り際にPTを解散しようとしたら、ラグ君が微妙なリアクションをした気がして。こういう実績もあると思ったんですよ!」
「俺のリアクションで気づいたの!? エスパーかよ!」
「安心してください、ラグ君は普通に過ごしてるだけでいいんですよ。それだけで十分に攻略本として仕事をしてくれますから、ふっふっふ……」
ご機嫌な笑顔の美少女なのに、ただひたすらに怖い。
すでに十数の実績を解除し、リアはコンプへの道を突き進んでいた。
††† ††† †††
本日一時間目は、まだ授業ではなくホームルームが予定されていた。
さて、今日はどんな楽しいイベントが待っているんだろう。
そうわくわくと長椅子に腰掛けた俺に、先生はとても冷静な声で言った。
「今日の午前中は、実力テストをする」
なんか普通の学校みたいなことを言い出したー!
「入学翌日に実力テスト!? ちょっとガチ過ぎない!?」
「まさか進学校とか気取るつもりかよ、オーバーカム!」
ぶーぶーと生徒達から溢れ出す苦情に、先生は眉すら動かさずに答える。
「オーバーカムは普通の学校。もちろん進学校でもある。ゲームで遊ぶだけの場所だと思っているのなら、しっかり考えを正すように」
「…………」
「ぇぇぇ……」
とんでもないド正論に固まる俺達。
そ、そうだよね。普通に授業もあるし、成績だってつけられるんだもんな。
その姿に満足そうに頷いて、では、と先生が続けた。
「インベントリに用紙アイテムを配布してる。すぐにテストを始めて」
「うわー、しんど……!」
オーバーカムへの進学に向けて勉強はしていたけど、試験のあとはさっぱり何もやってない。
俺の頭をひっくり返しても数式の一つだって出てこないぞ!?
「って言ってても仕方ないし、やるしかないか……」
「──ラグ君ラグ君」
と、テストを解き始めた俺に、小さな囁き声が聞こえた。
学園内のボイスチャットじゃない。隣のリアからの声だ。
そう、リアは今日も俺と同じ部屋から接続してる。
隣の部屋でいいんじゃって話もしたんだけど、俺が失言やうかつなプレイでバレそうになった時、とっさに相談できた方がいいってことで。
気遣いは嬉しいけど、ちょっと緊張はしてたりする。
「もしかしてこれ、私達は普通に答えを教え合えばいいんじゃないですかね?」
そんな俺の緊張を無にするような、とんでもない発言が聞こえてきたんですけど!
「普通にカンニングだから普通にダメだと思う」
「でもみんなは普通に家なので、普通に調べながらやるんじゃないですか?」
普通の顔してクラスメイトをカンニング犯扱いしないように。
「小テストで満点を取る、なんて実績があるかもしれないので。ここでその辺りは潰しておきたいんですよー」
「そんな実績はなかったはずだけど!?」
後から追加されてなければ、そんな学校の成績依存の実績はなかったはず!
「──全員、テストは始めた?」
ミュート状態で話し合う俺達を見透かしたように、先生が口を開いた。
「HUDの左上を見て。スキャン中、と表示があるはず」
「あれ、本当ですね。なんでしょう、これ」
「なんか見慣れた表示かも。テストプレイ中はずっと出てたよ、これ」
「──ということは、まさか……」
何かに気づいたのか、息を吞むリア。
まるでその声を聞いていたかのように、先生は小さく頷いて言う。
「これは試験中など特殊な状況において、デバイスが生徒の瞳や唇の動きを検知する機能。不正行為は許さないのでそのつもりで」
ぞっと背筋が寒くなった。
本気だ、この学校……!
リモートだけど、本当に普通の学校みたいに運営する気なんだな!
慌てて必死に挑んだミニテストは、さすが仮想空間の学校だけあって、その場で採点が戻ってきた。
その結果は──まあ、うん。
とてもじゃないけど、試験に実績があったら取れそうになかった。
††† ††† †††
「実力テストぐらいに満点の実績はないみたいですね。あとは定期テストで確認しましょっか」
テストが終わった昼休み、なんてことのない様子で、リアはそう言い放ちやがった。
「なんでリア、成績良いの? ちょっと詐欺じゃない?」
「だから! どうして私にポンコツのイメージを持ってるんですか!」
やっぱり出会いが独特だったから! 仕方ないじゃん!
「それでですね。とりあえず目についたイベントはクリアしてますし、プランそのものは順調だと思うんです」
リアはバイザーを外し、備品の椅子に腰掛ける。
割と気に入っているのか、今日もオーバーカムの制服姿だ。
「今は自分のレベルを上げつつ装備も揃えて、プレイヤースキルの向上を目指しています。ここからは優秀な仲間の確保にも取り掛かりますよ!」
「ほー、自己紹介で言ってた、みんな力を貸して、っていうのは本気なんだ?」
「このゲーム、一キャラしか作れないところは本当にクソゲーですからね。一人でコンプとか無理でしょう!」
「ま、まあ俺がテストしてた時にはなかった仕様でして……」
学校であるオーバーカムは、当然だけど一キャラクターしか作成ができない。
突然見知らぬクラスメイトが増えてる、なんて困るからね。
テスト中に俺がコンプできた理由は、一人で全ての要素をテストしたから、ってだけなんだ。
「私が倒した敵でラグ君の実績が獲得できたように、PTやギルドでも部分的に実績は共有できるんですよね?」
「できるはず。パリィ成功! みたいな個人依存の実績は無理だけど、なにかを討伐する、みたいな条件はPTでも達成できるよ」



