テスターですけど、このネトゲ学園が難しすぎるとか言うのやめれる? 「これ絶対クリアできないんですけど、責任とれそ?」

三章 ⑥

 思い出してみると、ユーザーが始めに倒すと想定されたボスエネミー、って説明ぐらいは聞いたような気がする。そういうことかあ、って納得しかない。

 ──招かれざる客よ

 スーペリアナイトが動き出し、頭上に会話文が表示された。


「さっそく拒まれてますよ」

「強引に侵入したしな」


 ──神の使徒。お前たちは我が敵ではない。ここで去るならば背は追わぬ


「紳士です! この騎士、ちゃんと騎士ですよ!」

「騎士道ってやつなんだろうなー」

「こういうエネミーも居るんですね。エネミーは生物じゃありませんってHOWTOに書いてありましたけど、理由がわかります」


 だけど、とリアは両手の剣を軽く投げ、くるっと一回転して摑み取る。

 え、なにそのテクニック!? 俺もそんなのできないよ!?


「ラグ君は嫌だと言っても、倒せるものなら倒した方が時間の節約です! コンプリートクリアはいつだって、スケジュールとの戦いなんですから!」


 ──愚かな。その蛮勇、後悔するぞ

 戦う意思表示に取ったのか、スーペリアナイトが起き上がる。

 その背中から立派な大剣を抜き放ち、こちらを睥睨した。


「行きますよ、ラグ君! モードチェンジ、オーバートラッキング!」


 リアが口頭で指示すると、足元のベアリングのロックが解除された。

 直後、隣で強く踏み込み振動が伝わり、


「よいしょーっ!」


 瞬く間に敵の横を取ったリアが、片手の剣を騎士の腰へと振り抜く。

 その攻撃は防がれもせず、直撃するが──。

 ──フンッ!


「わわっ!?」


 被弾したことを意に介さず、騎士が反撃に出る。リアが慌てて距離を取った。


「き、効いてないんですが! 直撃しましたよね?」

「硬い鎧だし、ダメージが少ないんだろうなー」

「攻撃力不足ってことですか?」

「……どうだろうねー」


 そう聞かれても、俺には言葉を濁すことしかできません!


「む、なにかあるんですね? 謎解きですか? 弱点? それともフラグ不足ですか!?」

「いやあ、なんだろうなあ」

「別に言ってもよくないですか!? ネタバレ許可! 許可します!」

「こちらの判断でまだ早いとする」

「こっちはいいって言ってるのにぃぃぃ!」


 いやー、別にギミックとかないんだよ、こいつ。

 ボスクラスのエネミーはデフォルトで硬く、弱点でもない場所に通常攻撃を打ち込んでもあまりダメージが入らないことが多い。

 弱点部位を狙ったり、弱点属性で攻めたり、貫通スキルや溜めスキルでダメージを稼いでいかなきゃいけないんだ。

 ボス攻略の基本みたいな部分なので、さすがに自分で知って欲しいと思います!


「っと、わっ、きゃっ、ばふっ!?」


 その間にもリアへ攻撃が飛び、彼女は慌てながらも大剣を避けていく。

 やっぱ上手いよなあ、リア。

 俺が初めてのボス戦をした時なんて、何秒戦えたのか、ぐらいの世界だったはずだ。

 リアは初見の攻撃もしっかりと避けて、どうしても無理な攻撃はスキルによる回避まで組み合わせてる。いやー、初心者とは思えないね、これが腕の差ってやつか。

 しかしさすがに限界が来たのか、


「待ってください、これ、無理ぃーっ!」


 身をかわしたその先を追うようにスーペリアナイトが突進をかける。


「あ、突進からのディレイ攻撃……っ!?」


 回避しようとしたがタイミングが合わず、リアが横一文字に切り裂かれる。

 その圧倒的な火力でリアのHPは一撃でレッドゲージに達した。


「一発受けただけで七割!? 待ってください、これ最初のボスとしては強すぎません? 作った人ちゃんと考えたんですか?」

「うぐっ?!」


 流れ弾がこっちに!


「か、考えたもん。ちゃんと動きを見て位置取りしようねってことが学べる、よくできたボスだと俺も賛成したもん」

「どれだけ動きを見ても二択から絞れない攻撃があるの、最初のボスとしてどうなんですか!?」

「見てたら絶対にわかる、って思いこんじゃうのも問題だし」


 色んな攻撃があるんだってことを知ってもらわないと、ね?


「で、どう? いけそう?」

「ちょっとしんどいですー」


 むー、と不満げに眉をひそめ、


「VRで接近戦をするゲームって意外と少ないんですよ。それも当たれば勝ちがほとんどなので、こんなに真剣に操作することはあんまりなくて……」

「そ、そっかあ」


 あ、あれえ? ちゃんとゲーマーとして腕のあるリアが強すぎ判定を出すってことは、もしかしてスーペリアナイトも調整ミスってる?

 確かに開発順で言うと真ん中ぐらいのエネミーだから、俺もまあまあオーバートラッキングの操作に慣れた頃だったんだよね。


「わわっぷ……あれ、攻撃止まりました、ね?」


 引く一方のリアに対して、スーペリアナイトはゆるりとその剣を止める。

 ──力の差はわかったか、ならば諦めて去れ


「あれ、見逃してくれるみたいだ」


 その強さに生徒を絶望させないためか、撤退タイミングが用意されてるらしい。


「む、優しいボスですね。でも……その優しさが命取り!」


 リアはさっとインベントリを開くと、そこからアイテムを使用した。

 使ったのは食堂で売っている回復アイテム。アバターのリアがむしゃむしゃとおにぎりを食べ始める。

 ああ、やっちゃったか……。

 ──愚かな


「……え?」


 様子を見ていたはずのスーペリアナイトが回復中のリアに突進する。


「待ってくださいっ! ズルッ……!」


 慌ててキャンセルしようとするが間に合わず、リアの残り体力は一撃で削り取られた。


「回復行動をちゃんと咎めてくるみたいだ、学びになったな」

「コロンちゃんーっ! 指示が間違ってますよぉぉぉっ!」


 指示厨のコメントが常に正しいとは限らない。残念でした!

 こういうところはちょっとやりすぎてる気はしてきた! ごめんみんな、こいつ強いかも!


「で、どうする? このまま撤退する?」


 タゲが変わってこちらに来たナイトを適当にあしらいつつ、倒れたリアに尋ねる。

 PTメンバーが戦闘中なら自動リスポーンはしないみたいで、彼女は戦闘不能状態でその場に残ったままだ。


「ラグ君、普通に避けてますし……。もー、そのまま倒しちゃっていいですよー」

「いやいや、そういうわけにはいかないよ」


 こっちはテスター、すでにクリア済みの身なんだ。

 クラスのみんなが挑戦する前に、先にボスを倒すわけにはいかないって。


「そんなこと言わずに戦いましょうよぉ」

「ダメだって、倒しちゃうから」

「ほんとですかー?」


 倒れたままのリアが、露骨に煽るように言った。


「全ボス制覇、フルコンプ済のテストプレイヤーさんらしいですけどー? 本当なのか怪しいですよねー? 可愛いリアちゃんに格好つけたくて噓ついてるんじゃないですかー?」

「あー、うん、そうね。じゃあ一旦戻ろっか」

「流さないでください、怒りましょうよ! じゃあ見せてやるよ、って流れじゃないですか!?」

「リアがそういうやつじゃないってわかってるから、別に腹も立たないし……」

「好感度を上げすぎましたか!?」


 うわーんと泣いた後、それでもリアは言い募った。


「ねーラグ君戦ってくださいよー」

「そう言われてもなあ」

「みーたーいー! ラグ君の神プレイみたいー!」

「神ってほどじゃないんだって」

「だって倒せるんでしょう? レベル1! 初期武器そのまま! 防具も制服で! とても勝てないって言われた、この最初のボスに! みたいですよ、そんなの!」

「う、ぐぐぐぐ……」


 実際これはやり込みの成果を見せつけるチャンスだ。

 正直に言えばリアの前でイキりたい気持ちはすっごくある!



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