テスターですけど、このネトゲ学園が難しすぎるとか言うのやめれる? 「これ絶対クリアできないんですけど、責任とれそ?」
三章 ⑦
「俺だってさ、こうやるんだよーって見せつけてドヤりたいよ! すげーって思われたいけど、でも、ダメなの!」
「ダメじゃないですよ。ううん、ダメなことでもしていいんです」
どこか誘うような、怪しげな口調。
「他の人にはダメでも、私にだけはいいんです」
思わずバイザーをズラすと、リアは祈るように両手を握り、怪しいぐらいに澄んだ瞳でこちらを見上げていた。
「私にはやりたいこと全部していいんですよ。ラグ君ならぜんぜん嫌じゃないんですから」
「……本当にいいのか? 俺の身勝手でリアを傷つけるようなことして」
「ラグ君になら傷つけられたって構わないです」
「ああ……俺は本当にいい相方を持った……」
そこまで言われたなら仕方ないよね? ネタバレしていいって、すごいところ見せちゃっていいって言われたもんな!?
「よっしゃあああああ見てろよ俺のやり込みの成果! スーペリアナイトはこうやって倒すんだよぉぉぉっ!」
「単純ですねえ……」
「そこ、聞こえてるぞっ! ここまで来たらちゃんと見てろよ!」
騙されているとわかっていても、やるとなったらもう止まれない。
ぶっ飛ばしてやるぞ最初のボスさんよぉ!
「ふふ……見せてください、ラグ君の本気」
††† ††† †††
(──私と同じレベルで、本当に勝てるんですかね……?)
どういう理屈なのかは不明だったが、相方である彼が──ラグが言うには、現状のレベルもスキルもリアと大差なく、装備は初期装備なのだという。
それが噓ではないことは、彼の動きを見れば理解できた。
「ほいほい、よっと!」
ラグはオーバートラッキングを活用した攻撃範囲から脱出するタイプの回避と、スキルモーションによる無敵時間を組み合わせ、丁寧な立ち回りを見せていた。
その動きはむしろ遅いと言っていいぐらいで、ステータスが高くないのは事実のようだ。
「おー、懐かしいな、その縦振り。食らうと痛いんだこれ」
安定感と自信に満ちた動きで全ての攻撃に対応するラグ。
実力があるのは一目でわかったが、しかし──それだけだった。
(普通……ですよねぇ……)
鮮やかではあるものの、特別なことはない。
誰でも練習すればできそうな、本人の言葉通りの戦い方だ。
「んでこう、この後は横で……はいはい、わかるわかる」
スーペリアナイトの縦斬りに対し、身体を横にズラしてギリギリで回避。直剣でのカウンターが鎧に突き刺さるが、さしたる攻撃スキルのないラグでは大きなダメージを与えられない。
直後、反撃で振るわれた薙ぎ払いの剣がラグの眼前をすり抜ける。
これが命中すればほぼ即死だ。いつまでもこんな戦いが続けられるとは、リアには思えなかった。
(このままじゃ、いつかやられちゃうんじゃ……え、あれ……?)
剣がすりぬける風圧にアバターの髪を揺らしながら戦い続けるラグ。
その姿に、彼女はようやく違和感を抱き始めた。
(当たり前みたいに避けてましたけど……なんですか、この位置取り)
ラグはスーペリアナイトから全く離れることなく、はりついたまま戦い続けている。
もしも風圧にダメージがあればとっくに倒れているだろう。紙一枚の距離で大剣を避け、その隙に的確なカウンターを差し込む。
容易く人の命を奪う凶器の先端が眼前をかすめていくのに、彼は冷静に目で追っていた。
(ど、どうして見ていられるんですか、あんなの!)
リアの背筋がぞっと冷えた。
いくらゲームだとわかっていても、恐怖というのは消えるものではない。
リアとてVRシューティングでヘッドショットを食らえば思わず目を閉じてしまうのだ。
しかしラグは危険な一撃を意に介さず、その集中力は途切れる気配がない。
尋常ではない練度。
テストプレイヤーは伊達ではないらしい、とリアは心中で理解する。
(まさか本当に勝てるんでしょうか。何かの奇跡で、最後までミスがなければ──)
これを続けられるなら、もしかしたら。
そう思ったリアの考えとは裏腹に──ラグの動きが変わっていく。
「うんうん、思い出してきたぞ。そうだったよな」
今まで隙の少ない通常攻撃で戦っていたラグが、突然大きく腕を振るい、初期スキルのヘヴィスイングを打ち放つ。
それに対し、スーペリアナイトは身体を反転させながら強烈な薙ぎ払いを返した。
「えっ、それっ、あぶなっ!」
敵のナイトはラグの攻撃では怯まないのだ。大ぶりで隙の多いスキルは即座に死へ繫がる。
(やっぱり耐えられないですよね……焦って大技を入れて流れを崩しちゃいました……)
誰だってあるあるのミス。
頑張ったものの、さすがにレベルがなければ無理かと諦めた彼女の前で。
「そーれっ!」
キィンと甲高いSEが響く。
スーペリアナイトの大剣が大きく後方に弾かれた。
「……えぇ?」
技が発動する瞬間に武器へ攻撃を与えることで発生するジャストパリィ。
多くのゲームで採用された攻略法だが、オーバーカムでも使用することができる。
ラグのパリィは大剣を吹き飛ばし、ラグに迫った死が簡単に退けられた。
(今の、偶然ですか……? だって、無理ですよね?)
上手い、だけでは片付けられなかった。
ラグがヘヴィスイングを振り始めた瞬間、まだ騎士のモーションは始まっていなかったのだ。
それはむしろ当然のことだ。ラグのステータスはまだまだ貧弱。敵の動きを見てから攻撃モーションに入っても間に合うはずがない。成功した以上は決め打ちを通したに違いないのだ。
しかしそんなものは幸運なだけ。本来なら一度きりの偶然のはずだ。
「おっとぉっ! 隙だらけだなあ、スーペリアさんっ!」
バランスを崩した鎧騎士、その関節部に攻撃が繰り返される。
丁寧に弱点部へ集められた攻撃はそのほとんどがクリティカル判定を出し、みるみる内に体力を削り取っていく。
「よっ、ほっ、そーれっ!」
ラグは短い振りの攻撃をするすると避け、狙いすました強撃を敵の武器へと叩きつける。
初期装備の細い直剣は再び騎士の大剣を弾き飛ばして見せた。
(おかしい、なんで、どうなってるんですかこれ)
敵の攻撃は当たらない。こちらの攻撃は当たる。ただそれだけの、出来レースのような戦い。
何も知らなければ殺陣でも演じているのかと思っただろう。
(だって、今の! モーションを覚えてても無理なはずじゃっ!)
リアが戦っている間に覚えたいくつかの固定モーション。
薙ぎ払いか切り上げに派生するその動きは、普通なら五分五分の賭けになるはずだ。
(なんで避けながら武器を振りかぶってるんですか! なんで攻撃が通るんですかあっ!)
複数の選択肢があるはずの場面。
ラグは勝手に結果を決めつけて、しかし一度も失敗していない。
幾度も武器を弾かれた騎士はもはや足元がぐらついていた。
(私の知らない法則がある? 気づいてない前兆がある? ぜんっぜん理屈がわかりません。いくら見ても理由が説明できないです!)
ただ見ているだけなら簡単に攻略しているように見える。
しかしその解法がどうして可能なのか、まるでわからない。
見てから対応できないから見る前に対処している。
それはたった一言で矛盾している、夢物語のような理想論の攻略方法。
(これが全ボス撃破のベータテスター……ラグ君の戦い方)
「──私の相方の実力」
ぐにゃりと、リアの口元が笑みに歪んだ。



