テスターですけど、このネトゲ学園が難しすぎるとか言うのやめれる? 「これ絶対クリアできないんですけど、責任とれそ?」
三章 ⑧
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きんもちいいいっ!
読み通りに敵が動く! 全部予定通りに対処できる!
そりゃまあクリア済みだし、知っている動きを処理するだけ。人によっては退屈かもしれないけど、俺はやっぱりこういうのが好きなんだよ。
それに、見ているリアも盛り上がってくれてる。
あぶないっ、とか、なんで当たってないの!? とか、いいところでリアクションをしてくれる素晴らしい観客。やってる内にこちらもどんどん盛り上がってくる。
「よーし、最後は派手に決めるか!」
もうHPは1割を切ろうかってところだ。
リアの期待に応えるためにも、ラストは格好良くいきたいね!
「ここっ! そーれっ!」
見知った突進からのディレイ攻撃。
突進中にわざと攻撃範囲に入ることでタイミングを限定し、回避モーションの無敵時間で薙ぎ払いを避けながらヘヴィスイング。引き戻そうとする大剣を一気に弾き返す。
「で、そこっ!」
体勢が崩れたところにくるっと一回転。片足で回し蹴りを打ち込んだ。
プレイヤーの攻撃ではひるまないスーペリアナイトだけど、ジャストパリィで完全に体勢が崩れたところなら吹き飛ばしが通るんだ。
怯まないはずのボスをプレイヤーがぶっ飛ばす爽快感。
うんうん、いい感じに決められたかな。
「うっわぁ……ボスもノックアウトできるんですね……」
「ま、色々と攻略法はあるってことだね」
うん、まあ強いとは思うけど、適切の範囲内、かな?
リアがそこそこ避けられてたし、クラスで協力すれば問題なさそう。
「こいつに関しては、ちょっと強めだけど許容範囲ってことで。お疲れー」
地面に倒れてもがくスーペリアナイトに歩み寄り、剣を振りかぶる。
長くもない戦いだったけどこれで終わりだ。
「──いや、待った。トドメ刺しちゃダメじゃん」
「はえ?」
リアがきょとんと声を漏らす。
はえじゃないですよはえじゃ。
「倒せるのは証明したし、これで問題ないよな。さ、帰ろうか」
「えええっ!? 倒してくださいよ! トドメ刺して! 仇を取って!」
「仇ってのは自分でとってこそだよねえ」
「じゃあ何のために戦ってたんですか!? 今の時間はなんなんです!?」
「ちゃんとできるよーってのを見せるのが目的だったじゃん。別に勝つ必要はないでしょ」
「必要ありますっ!」
リアは断固として言い切った。
「ここで倒せば私とラグ君が倒したことになりますっ! ボスを最初に倒した、って称号があったらどうするんですか!? コンプ逃しちゃうんですよ!?」
「そういうサーバーで一人しか取れない実績は存在しないよ」
「なんでそこのネタバレはさらっとするんですかっ!?」
「あとでHOWTOに書くって言ってたからいいかなーと」
公式情報なのでオーケーです。
「だから時間をかけても大丈夫。クラスみんなで倒しに行こうな」
「それ、すっごく時間がかかるやつじゃないですか! その時間があったら他の実績とかイベントとか、探しに行けますよね!?」
「一つのイベントをしっかり楽しんでこそのコンプ勢じゃないの!?」
「ははっ、ナイスジョークですね! 私はコンプするのが大事なのであって、過程なんて一切全く気にしません!」
こいつ恥も外聞もあったもんじゃない!
「ほらほら見てください! AIもどうしていいかわかんなくなって、やられ待ちしてるじゃないですか!」
言われて視線を向けると、介錯を待つようなポーズで待機するスーペリアナイト。
こんな動作あるなんて、ベータテスターの俺ですら知らなかったよ!
「ほら、可哀想じゃないですか。ここで見逃したら情けをかけたみたいになりますよ?」
そっと腕に触れる小さな手の感触。
げっ、現実のリアが俺の腕をつかんで引っ張ってる!
「待て待てそんな強引な!」
「ほらほら、この腕を下に降ろすだけですから。ねっ? ねっ???」
リアのやつ、俺の腕を無理やり動かしてトドメを刺させる気だ!
そんな強引なやり方ある!?
「くっ、そんな手には負けないからな!」
「そう言わずに、ほらほら」
ぐいぐい引っ張られるものの、小さなリアの手に大した力はない。
こ、これぐらいなら耐えられる! このまま部屋から脱出すれば──!
「もー、強情ですね……! なら……ぎゅっ!」
「えっ、あっ……ちょっ!?」
腕が何かふわふわしたものに、しっかりと包まれた。
そのまま体重をかけたみたいに、ぐいっと下に引っ張り込まれていく。
噓だろ!? こ、これ、俺の腕に抱きついてるの!?
「なっ、ちょっ、ダメだって! いけませんぞこんなの!」
「何がダメなんですかー? うーん、リアちゃんわかんない、です、ねぇー!」
少し硬い制服の向こう側にある、柔らかく温かな感覚が伝わってくる。
バイザーを外してどこに何が当たってるのか確認したい気持ちと、絶対にやってはいけないという理性がぶつかって頭がぐにゃぐにゃする。
「むうう、まだ抵抗するんですね……なるほど、ラグ君の狙いは……」
腕の感触がまるで背伸びをするように動く。
「このまま抵抗していたら、ずーっと私に抱きしめてもらえますもんねぇ? 離して欲しくないから言うこと聞かないんでしょう?」
「なっ! そんなわけじゃ……」
そして耳元で、甘い囁き声が。
「ラグ君のえっち」
背筋がぞくりとして、全身に鳥肌が立つ。
これはいけない、なんかわかんないけど絶対にダメなやつ!
「濡れ衣だーっ!」
これ以上抵抗したら変態の称号がつく! 入学早々に学園生活が終わる!
余計なことを考えたせいか、思わず力が抜けて──、
「あっ」
降ろされた剣がザクッと騎士の首に突き刺さる。
長く待たされたスーペリアナイトは、どこか満足気に消えていった。
【実績:安住の場所】【難易度☆☆】
クラスルームを解放した証。
この場所があなた達にとって特別な場所となることを。
ああああ倒しちゃってるううう!
「や、やっちまった……! ベータテスターが勝手にボスを倒すなんて……! クラスのみんなになんて言えばいいんだ……!」
「いいんですよ、ラグ君に罪はないですから。悪い人に騙されちゃったんですもんね」
「その悪い人ってのはリアだからな!?」
元凶が知らん顔して慰めるな!
「私は可愛いので悪人じゃありません! 強いて言えばリアちゃんの色香が悪いんです!」
「色香、ねえ……いいよもう……わかってるんだから……」
「はぃ?」
「どうせ本当は抱きついてなんていないんだろ……俺は知ってるよ……」
俺の人生がそんなに都合よくまわるはずがない。
ま、抱きついた振りをしただけで、本当に密着はしてないんだろ?
そのぐらいは俺にだってわかるよ。
「ほらリア、いい加減にやめて……」
左手でバイザーを外し、右腕に視線を向ける。
そこには案の定、
「ぎゅー?」
全身余すところなく密着させて、右腕にしがみつく銀色の少女がいた。
「おいいいいいっ!」
はあああっ!? 噓でしょ!?
しっっっっっかり抱きついてるじゃん!
「リアさんマジで抱きついてたの!?」
「ふっ、代わりに倒してー、なんて軽い気持ちで言ったわけじゃないんですよ」
リアは不敵に微笑み、抱きついた身体をゆらりと揺らす。
肘のあたりに当たるふわふわとした感触。
その意味を正しく理解してしまい、緊張とドキドキに視界が白くなっていく。
「ラグ君のプライドを曲げてもらう以上は、私だってちゃんと対価を払いますともっ! さあ、ご堪能あれ!」
何を対価に払ってんだこいつー!!!
わかったぞ、これはストリーマーを相手に戦ってた弊害だな!



