テスターですけど、このネトゲ学園が難しすぎるとか言うのやめれる? 「これ絶対クリアできないんですけど、責任とれそ?」
三章 ⑨
コメント欄ってのはすぐにセクハラをするんだから!
「ふっふっふ、強いだろうとは思ってましたけど、こんなバグみたいなトンデモユニットだったんです。うちの相方は誰にもわたしませんよ……!」
「リア、俺がちゃんと戦えるってわかったから引き込みにかかってるな!?」
完全に罠、ハニートラップじゃないか!
そんな単純な手に引っかかるはずが……いやちょっと引っかかってもいいかも……ぬああ、だ、だめだっ!
「そういうのはいらないからっ! 慎みを持ちなさいっ!」
「えぇぇ……なんでぇ……?」
えええじゃない!
「あのね、そういうことして、もし俺がリアを好きになったらどうすんの!」
「リアちゃんを舐めてもらっちゃ困りますよ。この世界一の美少女に堕ちない人なんているわけありませんから」
リアは少しもためらった様子はなく、堂々と言い放った。
「どんと来いです! さあ私のこと、好きになっちゃっていいですよ!」
「うおおおお負けるかあああああ!」
「にゃんっ!?」
逃げるようにリアを引き離し、俺は大きく息をして鼓動を整える。
入り込んでくる空気に彼女の甘ったるい気配がある気がして、何度も首を振った。
フラれる前提で好きになるなんて地獄、堕ちてたまるか!
「これ、もー少しって感じの手応えですね。直接攻撃は効果あり、と……」
「マジで悪女も大概にしろ本当に」
入学して数日でクラスメイトにフラれたらそのあとの高校生活はどうなるんだよ!
††† ††† †††
「おかえりなさい、二人とも」
教室に戻ると、珍しく焦った表情のサリスが俺たちを迎えてくれた。
「状況が変わったわ。あなた達も見たでしょうけれど、なぜかG組だけクエストがクリア扱いになっているの。誰の行動がキーかわからないから、全員の情報を確認中よ」
サリスがあちこちからのチャットを整理しつつ言う。
「基本的な予測は間違っていなかったわ。このイベントは私たちに学校中をまわらせて、各施設、委員会、部活、サークルの紹介を兼ねたものよ」
仮想ウインドウに学校のマップを表示して、ここ、ここと細い指で指し示す。
「恐らくだけれど、各組織から情報を得て敵を特定。保健室や食堂から回復アイテム、購買や工作室で適切な装備を用意して戦う──というデザインのはずよ。なのに先に倒されたということは、強力なNPCの助力を得た人がいるんじゃないかと思うの」
真面目に検討するサリスには本当に申し訳ないと思う。
全部俺が悪い。いや、多分リアも45%ぐらい悪い。
俺は心から謝罪する気持ちで頭を下げた。
「ごめんサリス、倒しちゃった」
「……なんですって?」
「スーペリアナイトっていうボスがいたので、とりあえず倒しました!」
頭を下げる俺に対して、こちらはのほほんと言うリア。
君は倒してないよねえ!?
俺の腕を引っ張ったのがリアだって考えると倒したとも言えるけどさ!
「ごめんな、みんなの頑張りを無駄にして本当に申し訳ないよ」
「……もう少し詳しく事情を話して頂戴」
俺の謝罪に、サリスはむしろ楽しそうに続きを促した。
「つまり本来なら手順を踏んでようやく対応できるはずのエネミーを、一切のフラグを無視して真正面から打倒してクエストを終わらせてきた、と?」
「そうなります……」
「勝てそうな感じだったのでつい!」
ごめーんね! と軽く謝るリア。
怒られるかな、と思っていたんだけど、クラスの空気はそんな感じじゃなかった。
「マジかよ、すげえっ!」
「え、リアちゃんもレベル5とかでしょ? ボスに勝ったの?」
「ほぼ初期キャラで、全校最速撃破? とんでもないでござるワン!」
クラスメイトはむしろ大喜びで集まってくれた。
ここまでの調査も話し合いも必要なかったのに、本当にありがたいよ……。
「私の手足となって動く優秀なクラスメイトたち。そして中核となる戦力。必要なピースが揃いつつあるわね」
うふふふふと笑うサリス。
やっぱこの人リアと同じタイプじゃない?
「ただ最速クリアって認定はされてるんだけど、さすがにクエストの目的が果たされてなさすぎるってことで……」
「私とラグ君以外のメンバーも参加して、もう一回クリアをしてくれんかぁ、ってクエスト進行委員会のおじさんに頼まれちゃいました」
庭園の端っこで待ってたヒゲの先生が、すごく渋い顔で言ってた。
思う通りに進められなくて本当にすまんと思ってます。
「最速の座は我がクラスで確定、と。ならいいわ。今日中に情報を集めて、明日万全の体勢で挑戦するわよ。みんないいわね?」
おー、とクラスメイトから声が上がった。
††† ††† †††
「先走ったなあ……」
俺はヘッドセットを外し、後悔と罪悪感に潰されていた。
「別に良かったんじゃないですかー?」
ちゅうちゅうと紙パックのいちごオレをすすりながらリアが気楽に言う。
「あのボス、結構強かったですし、それを鎧袖一触にした私たちの名は、一発で広まったと思いますよ!」
「俺の望まぬ形でね!」
普通の学校生活を送るつもりだったのに!
ついつい気持ちよくなっちゃってやりたい放題しちゃった!
「……なんとなくわかってきたんですけど」
机に全身を預けた俺に顔を寄せて、リアがどこか呆れた声で言った。
「ラグ君、大人しくとか普通とか向いてないんじゃないですか? まさにオバカ生って感じがしますよ」
「オバカ生って言葉を蔑称に使うんじゃありません」
そりゃ誰よりもオーバーカムで学生をやることを夢見ていたけど。理想のオバカ生だけど。
「ふふっ、でも安心してください。ラグ君の活躍は、いつだって私が見てますから! 今日はいっぱい頑張りましたね、すごかったですよ!」
「やめて、褒めないで、本当に罪悪感がすごい」
なんか甘い言葉に騙されて世界を滅ぼそうとしてる魔王みたいな気分。
この子、絶対に悪い人だと思う。
「次からも期待してますから、ね?」
「それは……まあ、はい」
ただ──今回ばかりは、ただ頷くことしかできないです。
「俺なんかにできることなら、いくらで使ってもらって構わんです……」
「……? なんだか素直ですね」
本人は気にしてないみたいだけど、俺はしばらくリアに頭が上がらない。
だって腕に感じたあの柔らかい感触の代金は、ボスを一体倒したぐらいじゃとても払いきれていないと思うので……。



