テスターですけど、このネトゲ学園が難しすぎるとか言うのやめれる? 「これ絶対クリアできないんですけど、責任とれそ?」
四章 ①
「よいっ、しょおっ!」
ごろごろと転がってくる巨大な草の塊、タンブルダンブルの突進をギリギリで回避した。
避ける動作の途中、敵へ沿うように剣を這わせた。
軽い動作でも大きなダメージが入り、両断された草の塊がほどけて消えていく。
「うっしレベルアップ。今朝のノルマ終わりっと」
しっかりと入った経験値でレベルが上がったのを確認して、うんと大きく頷いた。
今日もリアが登校する前、早朝からレベル上げだ。
ターゲットのタンブルダンブルは得意の突進を食らうと草の中に捕まってしまい、脱出するのはとっても厄介な面倒くさいエネミー。その代わりに体力もちょっと低めで、ハイリスクハイリターンの楽しい敵だ。
「ちょっと敏捷に振り過ぎた気もするけど……通常移動が速くなるのが偉いんだよなあ……」
コントローラー操作でも素早い移動ができるので、困ったらとりあえず敏捷、みたいになりつつある。
ステータスポイントは溜めておきたいんだけど、移動速度はさっさと上げた方が恩恵が大きいわけで……こういう悩みもまた楽しいね!
早足で砂地マップを脱出し、学園裏の荒れ地マップへ。
時間には余裕があるし寄り道をしてもいいな、と足を進めていたところ。
「よっしゃあ、ここだここ! 畳み掛けるぞ!」
「四足歩行は上方向への攻撃が厳しいのでござるワン!」
「ぬおおん、ガード、ガード……」
爽やかイケメンアバターの生徒と、白く大きなサモエド、そしてでっかいモノリスが連携して鉱石モグラと戦っていた。
モノリスに抑えつけられたモグラが犬と人間に襲われてるの、なんかシュールだ。
もしかしなくてもクラスメイトの御三方だった。
「おーい、レベル上げー?」
「ラグか! おっすー」
「こんなに早くから頑張ってたでござるワン?」
「……トドメ、まだ」
「あっ」
モノリスの拘束から逃げ出した鉱石モグラがこちらに逃走してくる。
「正面か……ピアエかな」
鋭い両腕の爪を向けて迫ってくるモグラに、貫通攻撃のピアシングエッジを叩きつける。
あっさりとモグラが地面に潰れた。
うーん、レベルの暴力!
「これは、ひどい」
「強いでござるワンなあ!」
「潰れてんじゃん、モグラ……」
「あ……いや、ごめん、今のは違くて……」
やべ、クラスメイトの前で普通に攻撃しちゃった。
あくまでも普通の生徒でやってきたから、変なところは見せたくなかったんだけど──
「そりゃラグは強いよなあ……レベル上げてるの見たことないけど、もう遠くでやってんの?」
「戻って来るのは見たことがあるでござるワン」
「遠くのマップ、興味ある」
「……あれ?」
なんか普通に受け入れられてる? なんで?
「全然驚かれてないんだけど……俺ってそんな戦えるイメージあるの?」
「ないわけないでござるワン……」
いつも笑顔のサモエドなのに、なぜか呆れているとわかる顔でダテが言った。
「あんなボスを一発で倒してるのに、弱いわけがないでござるワンよ……」
「クラスルームのボス、リアちゃんと一緒に倒したんだろ? すげーじゃん」
「実はプロ、とか?」
「ないない! ありえないって!」
あああ、勘違いされてる!
テスターだとわからないよう、大人しく生きなきゃいけないのにーっ!
「──だから俺は別に上手くないんだよ。こうして早くからレベル上げてギリ、みたいな感じ」
「はー、努力してんだね」
休憩がてら荒れ地の大岩に並んで座り、事情を聞いてもらってる。
少し遠くに校舎が見下ろせて、なかなかに素晴らしい景色だった。
「そりゃそーだよな、リアちゃんCTSS準優勝でしょ?」
「マジで、すごい」
「相方が強いと苦労もあるでござるワンなあ」
「あ、それみんな知ってるのね」
「スレに書いてるし」
クラスメイトとのんびりと話す感じ、ちょっと新鮮で嬉しい。
なんかいいな、これ。青春って感じがする。
「ってかさ、ラグってリアちゃんと付き合ってんの?」
うっわ! めっちゃ青春なこと言い出した!?
「んなわけないだろ!? 俺には無理無理無理!」
「そう、なの?」
「あれだけ一緒にいるのに、そうなんでござるワン?」
「え、俺とリアってそう見えてんの?」
「絶対そうだと思ってた……」
ショウが意外そうに目を細める。
「っていうかマジで? なんもないの?」
「ないない」
「授業中にこっそり通話繫いで、ずーっと話してたりとかしない?」
「つ、通話は繫いでない、かな」
隣に居るから、通話する必要もないからね!
マイクをオフにすればいつでも話せるので!
「昼休みも一緒に消えて一緒に戻って来るじゃん? こっそり会って飯食ってたりとかすんじゃね?」
「こっそり会ってるとかでは……ないです……」
こっそりじゃなく堂々と会ってるので。スタッフの中では周知の話なので。
「ちゃんと顔見て話したいとか言って画面共有して、もうリアルの顔を知ってたりとかないの?」
「つ、通話で顔を見る、とかもないです……」
初対面から顔知ってるし、毎日会ってるからね!
「えー、つまんねー。強豪プレイヤーの熱愛とかオモロいのに」
「疑われる方は面白くないのよ」
ショウの追及のほとんどが身に覚えがあるんだけど、ギリギリ噓ではない範囲で言い逃れた。
こうして話してるとなんだかリアと深い仲になったような気がしてくる。
「……ショウよ。このモノリスがお主に称号を与えよう」
と、モノリスのもの太がむくりと起き上がった。いや身動ぎしただけなんだけど、多分起き上がった。多分。
「へ? 称号?」
「うむ。お主の称号は──ショウ・オブ・ザ・思春期だ」
「思春期っ!?」
「話題がゲスなのだ」
「だって気になるじゃん! なあダテ!」
「下半身で考える男・ショウとかどうでござるワン?」
「せめて恋愛脳ショウぐらいにしとこうぜ」
「ごめんって! 悪かったって!」
笑って言い合ったあと、ショウは少し感慨深そうに漏らした。
「実際リアちゃんがいないとこういう話できないしなー」
あー、確かに。
男子だけだからできる話って、実際あるよね。
オーバーカムだと男女分かれる授業って全然ないから、意外と恋愛トークとかする場面がないんだ。
「本人を例にしなければ、話題に出すのは問題ないと思うけど……」
「いやあ、こういう話題出してあの声で『好きになっちゃダメですよ』とか言われると、俺もう逆に惚れそうになるから……」
わかるわー、あれは火力がすごいからなあ。
そりゃ言われた通り、好きに──あれ?
「……?」
好きになっちゃダメ? そうだっけ?
リアって『好きになってもいい』って言ってなかった?
俺はそんな許可を出されるから困ってたんだけど……。
「……好きになっちゃダメなの?」
「──っ!?」
思わず口に出した俺に、びくりとクラスメイトの体が震える。
「ほっほーう?」
「あ、いや、ちがっ!」
そ、そういうわけじゃなく!
言葉の確認というか、認識のすり合わせというか!
「惚れそうなんだぁ?」
「こっちも恋愛脳でござるワンなあ……」
「ラグ・オブ・ザ・むっつり」
「ちーがーうーってー!」
そういう関係じゃないんで!



