テスターですけど、このネトゲ学園が難しすぎるとか言うのやめれる? 「これ絶対クリアできないんですけど、責任とれそ?」

四章 ③

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 この調子で俺達はあちこちの部に突入し、幽霊部員の権利を獲得していった。


「ようこそ飼育部に、いらっしゃいでござるワン!」

「ダテ!? 飼育部で飼育されてたのか!?」

「飼育する側でござるワン! テイマースキルだって上げてるでござるワン!」

「犬なのにっ!?」


「あ、モノリスのもの太くん。工作部なんですね」

「しかり」

「……その体で、アイテム製作ってできるんですか? 板ですけど?」

「見るがいい」

「ふわわっ! 素材が空中に浮いて、勝手に組み上がって──え、ちょっと気持ち悪いです!」

「傷つくぞ」


「おおお! ラグ、リアちゃん! ようこそ攻略活動部に!」

「ここはパスです」

「オーケー。んじゃまた!」

「なっ!? 有望な新人が逃げるぞ! 追えー!」

「えええっ!? なんでえええええっ!?」


 幽霊部員志望だというのに、どこも歓迎してくれた。

 それは驚くほどに順調で──だからこそ、どうも気になることがあった。


「なんなんだろ。どこの部活にも普通に入れると、なんか変な感じだな。強い人は歓迎、みたいな空気がある」

「拒否するところもあるかなーと思ったんですが、初見のスーペリアナイトを二人で倒しましたって言ったら絶対に歓迎されますねー」


 調理部や工作部のように原料調達班が必要な部は理解できる。

 でも美術部や写真部で大歓迎されたのはちょっと変だ。少なくとも俺は絵なんて描けないし、SSの加工もできないんだ。


「次が最後なので、話を聞いてみましょうか。そういうこと知ってそうな人がいるので」

「そうなの? 何部に行くんだ?」

「演劇部、サリスちゃんがいるんですよねー」


 うわあ、知ってそーだ……!


 部活棟の一角にある演劇部室。

 まだ部活動が開放されて数日だというのに、そこではすでに練習が行われていた。


「発声にも演技にも言いたいことは百万とあるけれど、あなた達はまず、環境にあわせることを覚えなさい」

「環境……ですか?」

「ここはゲームの中の世界。声も、表情の変化も、身体の動きも、すべてに微妙な時間的ズレが存在しているわ。それを考慮して演技をしなければね」

「へっ!? 部長、数フレームのズレを身体であわせてるんですか!?」

「当然でしょう。映像を見ればすぐわかることだから、微調整をするだけよ」

「サリスさんの演技だけナチュラルに見えると思ったら! 人間業じゃない!」

「違う、普段からそうなんだ。この人はどの瞬間も演技をやめてない……!」


 部員に囲まれて尊敬の視線を向けられるサリス。

 なんだかG組の委員長、俺なんて比較にならない無双をしてらっしゃるんだけど!?


「本来なら億の予算が必要な大道具も、海外にしかない素晴らしい舞台も、この世界なら無料で使うことができるわ。私達こそが、新たなる演劇の先駆けと言っていい」


 サリスの冷静な、しかし熱のこもった瞳が部員たちを貫く。


「私達が生み出すのは、すなわち演劇の未来よ。そのつもりで演りなさい」

「はい、部長っ!」


 部員たちが声を揃え、指示も待たずに練習をはじめる。

 ど、どういう調教具合なんですか?


「なんで部長になってるんでしょうね? まだ募集期間始まったばかりですよ?」

「本当にな……だからこそサリスって気もするけど……」


 と、言ってる場合じゃない。


「え、えーと、サリスー? ちょっといいかー?」


 恐る恐る声をかけた俺に、サリスは穏やかな微笑みを浮かべて応える。


「ああ、来たのね、ラグとリア。入部の件なら構わないわよ」

「話が早すぎて本当に怖い」


 俺達が色んな部活に加入してまわってる情報、もう入ってるのね。


「うーん、やっぱりサリスちゃん、リア軍団に欲しいですねえ」


 ……多分、こっちがサリス軍団に組み込まれてると思うなあ。


「……? 上位プレイヤーが歓迎される理由?」


 演技のレッスンを続ける部員たちを眺めるサリスに問いかける。


「どこも入部を断らないから、どうしてだろうって」

「少しぐらいは怒る人もいるかと思ってたんです」


 疑問符を浮かべた俺達に、サリスはあっさりと頷いた。


「ああ、その件。変に意識しないようにと、G組では情報共有していなかったわね」


 彼女はどこか複雑そうに表情を歪め、部員の何人かへと視線を向ける。


「スーペリアナイトは知っているわよね。あなた達が偵察ついでに倒してきたボスエネミー」

「その件については大変申し訳なく」

「構わないわ。あの後にG組全体であらためて撃退もしたことだし」


 ただ、と言葉を続けて、サリスは言う。


「実はあのボス、かなりの数のクラスで、まだ倒せていないのよ」

「倒せてないって、まだクラスクエストが終わってないってことか?」

「ええ。何度挑んでも勝てないそうよ」

「そう、か……強すぎた、かなあ……」


 俺が倒せたのは何度も戦った経験があるからで、初見では何度死んだことか。

 とはいえ、何回もリトライすれば勝てない敵じゃないと思うんだけど。


「部活に参加しているのはクリア済みの子が多いのよ。だから戦力になる人を大事に思ってるんじゃないかしら」

「頼れる戦力がいなければ今もクエスト挑戦中だった、ってことですか」

「なるほどなあ……まだ戦ってるクラスがいるんだな……」


 どの部も人数が少ないなーとは思ってたんだよね。

 一学年だけとはいえ1000人の学生がいるんだ、各部に20、30人はいてもいいのに、どこも10人程度だった。

 まだクラスクエスト真っ最中で、放課後に余裕がないんだろう。


「ついでに聞きたいんですけど、部活動をしていて実績って開放されました? そういう話って聞いてません?」

「実績……? 入部した瞬間には出たはずだけれど」

「あ、それはもう取りました。想像ですけど、部活動の累計時間とかで取れそうな気がしていて。何か開放されたら教えて欲しいなと──」


 情報収集をするリアの背中を見守りながら、なんとなく不安な気持ちが胸をよぎる。


「クラスクエストが突破できない、かあ」


 挑戦中のクラスが気まずい空気になってたら嫌だし、どうしても気になる。

 今週はクエスト進行委員会があるし、詳しい話が聞けたらいいな。


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 きっとクラスクエストの進行についてアドバイスや、他クラスからのアシストについて伝えられるんだろう──そう思っていた俺の予想に反して。


「全生徒へ、ワールドクエストが発注される!」


 冒険者ギルドでヒゲ先生が告げたのは、そんな内容だった。

 同時にクエスト欄に【ワールドクエスト】の項目が追加された。


「おお……ワールドクエスト!」


 俺の知らない学校専用クエストが来た!

 しばらくはレベルを上げたり普通に授業を受ける時期かと思ったけど、飽きさせないじゃないか、オーバーカム!


「どのような事件が起きるのか、今回は説明しない。毎日少しずつ校内に変化が起きていくので、お前たちの判断で進めていくといい!」


 俺たちを見回すヒゲ先生。

 その視線に沿うように俺もメンバーの顔を見ると、俺のようにウキウキしている生徒は半分だけ。

 残り半分は酷く微妙な、いっそ困ったような表情を浮かべていた。


「あの、先生」


 そのうちの一人、クエスト進行委員会、委員長が手を挙げて言う。



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