テスターですけど、このネトゲ学園が難しすぎるとか言うのやめれる? 「これ絶対クリアできないんですけど、責任とれそ?」

四章 ④

「D組はまだクラスクエストも終わってないんですが、もう次のクエストが……?」

「ああ、クラスクエストか。そちらは心配しなくていいぞ」


 委員長の暗い声に、ヒゲ先生はニッカリと笑う。


「クラスクエストに時間制限はないし、やってもやらなくてもいいんだ。授業やテストと違ってゲームの部分は自由だからな。気にすることはないぞ!」

「あ……はい……」


 そういうことじゃないんだけど、って言葉を飲み込んだように、委員長は黙り込んだ。


「じゃあお前たちの奮闘に期待しているぞ! 後は自由に話し合うように!」


 先生はそれだけ言って、のっしのっしと部屋を出ていった。

 室内にはどこかきまずい沈黙が流れる。


「うーん……話し合いって空気じゃないなあ……」

「喧嘩を仲裁した、って実績とかありますかね……?」

「そんなわけわかんないものあるわけないだろ!」


 マイクオフでこそこそと話し合う俺たち。

 そして硬直した空気を破るように、一人が口を開いた。


「……黙っていても仕方ありませんわね。毎日少しずつ変化があるということは、まだ時間はあるという意味でございましょう。各クラスで独自に情報を収集し、来週また集まってこれからの活動方針を決めるという形ではいかが?」


 言ったのは縦巻きロールのお嬢様、コロンだった。


「さすがストリーマーは肝がすわってるな……」

「無言に耐えられない職業病じゃないです?」

「否定はできないけど!」


 そう言っている間にも、ぽつぽつと同意の意見が出たが──。


「……すまないが、D組の参加は少し遅れると思って欲しい」


 委員長が、酷く言いにくそうに言った。


「まだクラスクエストも終わっていない現状、他のクエストの参加は難しい。そんな時間があるならナイトの対策をすすめたい」

「うちも……無理かなあ……」

「L組も同じっすね、もうちょいで倒せそう、ってところからもう5日粘ってるんで」


 数名の委員から厳しい報告が上がる。

 他にも何人か頷いている委員がいる。きっと同じ状態なんだろう。


「だがクリア次第、必ず合流しよう。しばし待っていて欲しい、間に合わせて見せる」

「そっすね、ワルクエ参加できないのは、残念すぎっすよ」

「ええ、かしこまりましたわ」


 根がいい人っぽいコロンはほっと表情を緩めた。


「一応わたくしのチャンネルで撃破動画を公開していますので、よろしければ……」

「ああ、D組は自力攻略でやろうと決まってね。悪いけど、参考にするわけにはいかないんだ」

「それは……力になれず申し訳ありませんわ。ええ、ワールドクエストのことは動けるメンバーにお任せください」


 コロンはちらりとリアへ視線を向けたあと、一同に向けて言った。


「今も戦っている仲間のためにも、できる限りのことをしましょう。オーバーカム初のワールドクエスト、クリアを目指して頑張ってまいりましょう!」


 おーと一同が声を揃えた。


†††   †††   †††


 会議は和やかに終わった。

 あとは俺達も教室に戻って、ワールドクエストについて調査を始めなきゃいけないんだけど。


「……ごめんリア、ちょっと寄り道していいかな?」

「ふふっ、クラスクエストの様子、見に行きたいんですね?」

「うわあ、バレバレかあ……」


 あっさりと言われて、両手を上げるしかなかった。


「可愛いのは当然として、空気だって読めるのがリアちゃんです! なんせ完璧美少女ですからね!」

「それは絶対に空気の読めてない発言だと思う」


 ともあれ、クラスルームに様子を見に行きたいのは本当だ。

 ずっと同じクエストで詰まっていると、どうしても空気は悪くなってしまう。

 クエスト挑戦中のクラスがきまずい雰囲気になっていないか、どうしても気になっちゃって。


「ただ、心配は要らないと思いますけどねー」

「そうなの? リア、何か知ってたりする?」

「色々と情報を集めてますから! どちらかといえば、ラグ君が好きな感じになってると思いますけどねっ!」


 にこにこと言うリア。

 困惑しながらも、彼女に促されるように中庭──クラスルームの建物へと向かった。


 久しぶりにやってきた中庭。

 クラスルームは有志が整備を進めていて、俺はノータッチだったんだよね。


「前に来た時はNPCが立ってるだけだったけど……これ、は……」


 そこで目に入ったのは、予想外の光景だった。


「調理部の最新飯、更新されましたー! レベル実数で5は違いますよ! 残ったカムは調理部露店に!」

「罠の素材、罠の素材あるよー。トリモチ、投げ縄、トラバサミ! 一度お試しあれー!」


 中庭の地面にシートを敷いて、たくさんの生徒が露店を開いてる。

 バフのかかる料理や回復アイテム、戦闘用のアイテムなんかがあちこちで売られていた。


「突入前に演奏バフ、聞いてけ無料! 毎時0分から演奏開始、5分聞いたら効果あり!」

「放送部です。発動しやすい詠唱の読み方、参考ボイスつきで配布中です」


 様々な部活や同好会が芝生に看板を立て、各部からの支援を配ったり、スキルの知識を提供してる。


「L組突入行くぞ! 全員ゴー! 落ち着いてけ!」

「L組ファイト! 頑張れー!」


 装備を整えて建物に突っ込む生徒と、声援を送る面々。

 え、なにこれ!? どうなってんの!?


「めっちゃ楽しそうなんだけど……!?」


 スーペリアナイトをまだ倒してないクラスって、こんな楽しそうなことやってたの!?


「いま残ってるクラスって、ネタバレはやだーとか自力でクリアしよーってところばっかりで、みんな楽しそうにやってますよ」

「マジかよ! そりゃワールドクエストよりこっちを優先させるよ!」


 俺だってこっちで一緒に遊びたいもん!

 さっさとクリアしたの、絶対に失敗だったよ!


「クリ済みが聞かれた質問だけ答えます、ってお店を開いたんですけど、フレンド登録50人の実績が一日でクリアできました」

「うわあ、抜け目がないなあ!」


 こんなに人が集まってる場所、ここぐらいなんだろうね!


「正直、戦える人と戦えない人でギスったり、空気悪くなったりしてるかなって、ちょっと心配してたんだ。ボスが強くなり過ぎたせいでそんなことになったらって」

「最初はそういうクラスもあったみたいですけど、すぐに収まったみたいですよ。スキルツリーを眺めていたら、得意なジャンルを伸ばせばいいってすぐわかりますし」


 豊富過ぎるスキルツリーはこのためにあったのか。

 自分の好きなこと、得意なことをすればいい。それがみんなに伝わるように。


「自分でテストしてる時は詠唱魔法とか絶対に使わないと思ったけど、放送部が解説なんてしてるじゃん……すごいなあ」

「息を揃えて詠唱すると大きな魔法が使えるらしくて、合体魔法の研究が進んでます。大人数の合体魔法で実績が出るんじゃないかと思って、情報集めてますよ」


 そんな実績はあったら俺は取れてないんだけど。

 部活加入のように後から追加された可能性もあるし、意味はありそう。


「これだけやったら、さすがにどんどんクリアするんじゃない?」

「もちろんクリアしてますよー。残ったクラスに支援が集まるので、ペースも早くなってます」

「そっか、そっかあ! やるなあオーバーカム!」


 さすがオンラインゲームの中の学校に来た仲間だよ!

 お祭り好きで、楽しいことをみんなでやろうって気概のある人ばっかりだ!


「俺は、俺は嬉しい……! いいんだ、難易度のことなんて気にしなくて。みんなは難しいからって諦めるようなゲーマーじゃない!」

「運営側の人は、こういうの泣いちゃうんですねえ」



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