テスターですけど、このネトゲ学園が難しすぎるとか言うのやめれる? 「これ絶対クリアできないんですけど、責任とれそ?」
四章 ⑤
とても運営とか言える立場じゃないけど、本当に嬉しい。
こうして助け合って、いい学校にしていきたいね!
「あ、ラグくん? リアちゃんも」
と、聞き慣れた合成音声が聞こえた。
放送部として資料を配っていたスズネだ。
「どうしたの? 放送部手伝いに来てくれた?」
「いえ、どの部を手伝えばいいのか困っちゃうのでとりあえずお任せします!」
「同じ新入部員なのに、働かないなあ……」
すいません、役に立たない幽霊部員で。
「新しくワールドクエストっていうのが発生したから、情報を集めるついでにクラスルームを見に来たんだ」
「新しいクエスト……? あ、ちょっと噂は聞いたよ?」
「え、どんな!? もう知ってる人がいるのか!?」
様子を見に来た場所で情報を得られるなんて。
やっぱり人が集まる場所に噂も集まるんだな!
「うん。NPCの人が、空を飛んでるキラキラした影を見たんだって。あと荒れ地の大岩が消えて、大きな歯型があったとか、森の大木に歯型があったとか……」
「……え?」
「あとは、小さな水晶がどーんって爆発した痕跡が川の方で見つかったって。これがワールドクエストなのかな?」
「ふむふむ、それだけわかれば図書室で敵が特定できそうですね」
リアがうんうんと頷いて言った。
でも俺は調べるまでもなく、その情報に聞き覚えがあった。
そんな、でも、他に考えられない。
「噓だろ……」
「むっ、何か気づいたんですかラグ君」
「いや、その……」
俺に言えることはただ一つ。
「運営側として、謝らせてください……」
「一体何に気づいたんですかっ!? 説明してください! すぐにっ!」
「これはさすがに言えないよぉ……」
情報通りなら、ワールドクエストで戦うボスはドラゴン。
その名も暴食の水晶龍。食べたものを全て水晶に変換する力がある。
七天龍に名を連ねる強敵で──推奨レベルは540だ。
どう考えても、勝てるはずのない相手だった。
††† ††† †††
「ああもう! どうすればいいんだあああああっ!」
──ォォォンッ!?
ギリギリ限界まで溜めた雷轟火迅を叩き込む。炎をまとった雷のエフェクトが敵を貫いた。
雷轟火迅は、火力は高いが溜め時間もやたらと長い、かなりロマン寄りのスキルだ。
なんでこんなのが片手剣最上位スキルなんだよ、と疑問に思いながらも、俺は愛用してる。
相手は一定時間に与えられたダメージを吸収して広範囲にカウンターとして放つマグマロンリッツ。
吸収効果が終わるまでの時間をスキルチャージに使い、相手が開放すると同時にこちらもぶちかませばノーダメージで討伐できる。
ただ経験値もドロップもあんまりだし、タイミングがズレたらどうしようもなく即死なので熟練度を溜めたい人以外はおすすめはしない。
俺がやってる理由? 派手なスキルはストレス発散になるんだよ!
──うわあ、荒れとるなあ
──何かあったんですかねえ(すっとぼけ)
──リアちゃんが先に帰って寂しいんやろ
「わかってるでしょうがコメントの皆さんよぉ!」
誰よりも事情を理解してるでしょうが!
「事前情報でわかったよ! ワールドクエストに出てくる敵、暴食の水晶龍だろ! 七天龍の一体じゃん! このレベルで倒せるわけないだろ!」
──あかんバレとる
──そりゃ(あんだけ情報あったら)そう(わかる)でしょ
──絶対に勝てないはずの七天龍をすり抜けたテスターがいましたね?
「俺は倒したことあるんだから別として、だよ! いくらなんでも初見で倒せる相手じゃないって話をしてるの!」
もちろん俺も最初に戦った時はボッコボコのボコにされたのを覚えてる。
フェーズ1、フェーズ2と形態変化する相手も初めてだったから印象深いんだ。
「これじゃワールドクエスト、勝てないじゃん! 弱体化とかさせてるの?」
──いや、全く
──参加人数が多い分、火力は最大値でHPもバカ高になりますねえ
「ふざけないでマジで」
絶対無理じゃん!
バランスが壊れてるにしても、これはそういう問題じゃないだろ!
「初めてのワールドクエストが負けイベントって本当にクソゲーじゃん!」
──ちゃうねん、これには事情があるんよ
──ワイらも反対だったんやけどなあ
「……聞きましょうか」
言い訳があるなら聞かせてもらおうじゃないか。
──まだ開校してすぐなのに、攻略勢とそれ以外で住み分けが始まりつつあるんや
──ちょっと予想外で、緊急で修正が入った
「住み分けというと、アクションゲームとして遊ぶ人と、やらない人ってこと?」
──大雑把に言えばそう
──まだまだ差なんてないのに、自分はこういうの無理だから他の人に任せればいいや、って空気がある
──全体レベルの上がる速度がこちらの試算より大幅に低いんよ
「えええ、そうなの?」
──みんな始めたばかりの横並びなのに、勝手に格付けされてるのはいかんのよ
──仲良くボコボコにされたらその辺気にしなくなる、っていうが上の意図やな
──水晶龍だって全員がしっかりレベル上げてれば抵抗はできたはず
「マジか……もう折れてる人がいるのか……」
俺だってすぐに追いつかれるとは思ってるけど、それでもレベルは上げるし、動きの練習も続けてる。
みんなも自分のプレイスタイルで遊べば──。
いや、だからこそ、なのか?
「戦いじゃない方向、自分なりに遊んだ結果が、あのお祭りみたいな状況?」
──そーなのよ。クラスクエストが戦闘への導入になってたんだけど、みんな普通に生活スキルとか組み合わせて勝っちゃうから……
──さすがに最低限のアクションはしようね、これから体育でも戦闘訓練あるよ、って話がありましてねえ
「なるほどねえ、意図はわかった」
わかったけど、その上で!
「開発側の思惑でユーザーに負けイベをやらせるの、俺は大反対だなあ!」
そんなのモチベ下がるだけだって!
序盤にほぼ負けイベみたいな敵を押し付けてくるアクションゲームは少なくない。操作に慣れれば勝てるんだよ、ってぐらいの相手はモチベになることもある。
ただ、それが足切りみたいになって、そこで折れてしまう人だっている。
オーバーカム学園でそんなことになったらもったいないじゃないか!
──だからワイらも反対やねんって!
──撃退って扱いでワルクエそのものは成功の扱いにするし、水晶龍も住処に行けばまた戦えるから、これでなんとか……
「……でもさ。今のオーバーカム、すごくいい空気なんだよ」
情報を集めるついでに、いろんなところで話を聞いてきた。
ワールドクエストの成功のため、もう色んな人や組織が動き出してる。
図書委員は参考になるゲーム内書籍をまとめていたし、相手が水晶っぽいのはすぐにわかったから、効果のありそうな打撃武器の生産も始まってる。
なのに初見殺しだのわけのわからない攻撃だので全滅したら、もうオーバーカムの空気はボロボロだよ。
「はあ……本当にどうしよ……」
腕をおろして ぐったりと身体の力を抜いた。
「せめてもうちょっと弱い相手なら勝ち筋もあるのになあ……」
──そこはその、甥っ子君も理由の一つでな
「ええっ!?」
どうして俺が原因なの!?
──弱めのボスだと一人で倒せちゃうやろ。だから明らかに無理なやつがぶち込まれたんや
──一応予定にはあったけど、まず選ばれないと思ってたから調整がクソ大変だった
「俺の、せい……?」
そんな、俺が入学したせいで、こんな強敵が最初から登場することになったのか?



