テスターですけど、このネトゲ学園が難しすぎるとか言うのやめれる? 「これ絶対クリアできないんですけど、責任とれそ?」
四章 ⑥
──いやいや、逆や逆
──勝てそうな相手だったら、戦うかやめとくか、選ばないといかんやろ
──絶対勝てないんだから気にすんな、この件ではラグも学生の一人でしかない
──1000人フル強化七天龍なんてソロできるわけない
「みんな……そっか、そのために……」
俺がみんなと同じ被害者になれるように、わざわざ強敵を引っ張り出してくれたのか。
候補にはあったとはいえ、急な調整はきっと大変だっただろう。
そこまでして俺が困らないようにしてくれた気持ちは嬉しい。
だけど……そうだとわかっていても、俺は……
「──それでも。納得できないんですね、ラグ君?」
ふと聞こえた声に、俺は無意識に返事をしていた。
「うん。勝てないって言われると挑戦したくなる。俺達は負けないって証明したくなる」
「ふふっ、それでこそリア軍団の決戦戦力!」
「そんなのになったつもりはないんだけど──」
──あれ? 俺、誰と話してる?
何に返事した? コメントじゃないぞ?
「……リアさん?」
「あなたの相方、世界一の美少女! 帰宅した振りをして様子を見ていたリアちゃんが来ましたよ!」
「うわああ!?」
バイザーを外すと、やっぱりそこにリアがいた。
ちょっとこれ怖いんでやめて欲しいんだけど!
帰った振りとか、なんでそんなことするの!?
「いつからいたの!?」
「そりゃそうでしょ、ぐらいですかね?」
「ちょっとどこかわからんけど、多分かなり前だな!」
「ぜんっぜん気づかないのは、さすがに集中しすぎでは?」
盗み聞きしてたのに、悪いとすら思ってないねリア!
──すまん嬢ちゃん、甥っ子君を頼む
──君だけが頼りや
──無理そうなら放流で
「俺の面倒をリアに押し付けないの! ええい、共有オフ!」
──ああん、切れちゃうぅ
──青春、やね……
バイザーのスピーカーから漏れ聞こえていたコメントが止まる。
二人きりになったケージの中、リアが穏やかに微笑んだ。
「どうしたんですかラグ君? 話、聞きましょうか?」
「変なナンパみたいなこと言わないで」
自軍ユニットのイベント処理みたいな扱いしないで欲しい。
「正直に言うと、今だからこそラグ君の気持ちがわかります」
コミュニティルームのソファで向かい合った俺とリア。
彼女は珍しく真剣な声でそう言った。
「私はコンプ勢ですから、ネタバレなんて全然気にしません。一覧から内容を確認しないと絶対に取れない実績はいくらでもありますもん」
「あー、あるねえ」
マジで気づかない人は絶対に気づかない、ってタイプの実績はある。
ミスした瞬間にゲームを強制終了したら、次に起動した時に実績が開放される、とかね。優しく穏やかな人だったら絶対に気づかないよ。
「でも今の話を聞いてたら、どうしようって思っちゃいました。失敗するとわかってて頑張ってるみんなにどう接したらいいのか……」
「だよな……。ごめん、余計な重荷を背負わせちゃって」
「重荷なんて他人行儀なこと言いますねー。相方じゃないですか!」
リアは気にした様子もなく続ける。
「それに私は、ラグ君ならなんとかしてくれるって思ってますので!」
「そう思ってくれるのは嬉しいけども」
信頼してもらえてありがたい。
ただ現実問題、何も手がないんだ。
「情けないけど、今回ばかりはどうしようもないかなあ」
「何を言いますか! ラグ君はまだ、最強の手札を切ってないでしょう!」
リアは不敵に笑って、俺を信じ切ったような笑顔で言った。
「出しちゃえばいいじゃないですか、全力を!」
「へっ!? 全力って、どういう!?」
「ワールドクエストまでに思いっきりレベルを上げて! 知っている限りの装備を集めて! あのナイトみたいに、初見でぶっ飛ばしてやるんです!」
「い、いやいやいやいや!」
今回は前とは話が違うから!
「スーペリアナイトと戦ったのは、見ていたのがリアだけだから! みんなが見ている前で普通に戦ったら完全なネタバレテスターじゃん!」
ネタバレ禁止、初挑戦のみんなで攻略しましょう! って言ってるのに、ガッチガチに攻略サイトを見たやつが紛れ込んでた時の、あの興ざめな空気!
口に出して説明しなきゃいいんでしょって顔をして、一人だけ敵の攻撃を避け続けてるやつを見て萎えるあの感じ!
あれを全校生徒の前でやるの、地獄すぎない!?
「攻略法を実演した挙げ句に、勝てるかもわからないんだぞ! 絶対ダメだろ!」
「まあまあ、細かいことは一旦やってみてから考えましょうよ」
「やったら取り返しがつかないんだけど!?」
時間は巻き戻せないんだよ!?
「……でもラグ君、負けてみんながしょんぼりしてたらきっと後悔しますよ?」
「そりゃそうだけども」
「ですが思いっきりやっちゃった場合、そこにはネタバレ罪しかありません。そして私が認めた以上、罪にはならないんです。何故なら美少女は無罪なんですから!」
「いくらリアが可愛くてもネタバレは罪だからね!?」
許さない人は許さないよマジで!
「でも私、ネタバレで怒られたことないですよ?」
「それは周囲の人が優しかったからでは……?」
「あまりにも可愛すぎて話の内容をちゃんと聞いてもらえないんで」
「急に重い過去をぶちこまないで!」
リアの顔グラが良すぎて話が頭に入って来ない人、たくさんいたんだろうけど!
「こんなの別に大した話じゃないですけどねー」
「そんなことないだろ。リアが色々苦労したのは間違いないんだろうし……」
「──いえ」
俺の言葉を遮って、リアはきっぱりと言い切った。
「オーバーカムにはアバターで通う生徒がたくさんいます。現実の姿は必要ない。別の姿がいいと願っている人が。きっと私よりヘビーな思い出を抱えた人が何百人もいますよ」
「それは……」
否定はできない。
テスターだってことを隠して通っている俺なんて、本当に苦しい気持ちを覆い隠している生徒に比べたら、なんてことないはずだ。
「でもラグ君、見ましたよね。そんな過去を抱えた人達が、理想の身体、理想の声、理想の姿で集まって、あんなに楽しそうに目標を追いかけてるんです」
多くの生徒が集まっていた、中庭の光景を思い出す。
それぞれができることで。
各々が好きなことで。
まるで夢のような世界で、思うがままに戦おうとしていた、あの姿。
今だってそうだ。これから戦うドラゴンをどうやって倒してやろうか、それぞれが楽しそうに作戦を立てていたんだ。
「私、この学校のこと好きですよ」
リアは片手のバイザーを優しく撫でる。
「私がコンプリートしたくなるのって、制作者の愛を感じるゲームだけなんです。きっとこの人なら、素敵な実績を用意してくれているって、信じられるから」
「俺だってオーバーカムが好きだよ。あの世界のこと、みんなに好きだって思ってもらいたい」
少しでも開発に関わった身として、誰にも悲しい思いはして欲しくない。
「でも、これからみんなはとっても悲しい気持ちになるんですよ? 頑張ったけど結局ダメだったって現実と同じような想いをするんです」
リアがじっと俺の瞳を見つめる。
「これから三年間、学園に負けた生徒として過ごすんです。それでいいんですか?」
「それは……嫌だ」
どんな風に頑張っても、結局は学校の、開発側の思った通りになるしかない。
そんな無力感を抱いてこれからの三年間を過ごしたくなんてない。
「ならやりましょう! ラグ君ならできるはずです! 偉い人の想像を飛び越えて、私達にもやれるんだって証明しましょう!」
「それがネタバレになっても、いいのかな?」
「最悪のボスを叩き込んできた学園にも、私達は負けない──こういうネタバレならアリだと思いませんか?」
「確かに。それはネタバレの嫌いな俺でも、ちょっとアリだ」
リアの声が、気持ちが頭に入り込んでくる。
可愛くて面白い女の子はこれだからる。
楽しそうな方向に誘導されてるってわかっていても、反抗しようって気持ちがわいてこない。
「……やってみたい」
俺はぽつりと言った。
「そうだな。やりたい。やろう! やっちゃえ! こうして悩んでるなんて俺らしくないし!」
うじうじしてるのは俺の主義じゃない。
リアが一緒に背負ってくれるっていうんだ。これで引いたら情けないじゃないか!
「俺はネタバレテスターになる! その汚名を背負ってでも、学生をナメた運営に一発かましてやるんだ!」
「それでこそ私の相方ですよ!」
リアは胸を張って、むふーと鼻息も荒く言った。
「ラグ君は世界一の美少女の相方なんです! 我こそがオーバーカムで最強なんだと証明してもらわなきゃいけませんね!」
「なんだそりゃ、酷い理屈だな!」
自分が世界一なんだから、俺も世界で最強になってみせろっていうのか。
「ほほう、ダメだと言いますか??」
「いいや、最高だよ。そうだな、リアの相方である限りは、この世界で最強じゃないとな」
未来永劫ずっと、とは絶対に言えない。
遠からず追いつかれ、追い抜かれるのだろう。
それでも今この瞬間ぐらいは、きっと俺が最強だと思いたい。
と、そういう意味で言えば──ちょっとだけ、思っていたことがある。
「……実を言うと、少しだけ納得してないことがあるんだ」
「なんですか?」
俺はリアの頰に手を当て、バイザーのマイクがオフになっていることを確認して──彼女の耳元で呟いた。
「オーバーカムのテスターが、あの程度の敵に勝てないと思われてるなんて──こいつはちょっと、納得できないんだよ」
あなた達が育て上げたベータテスターがどんなものか、わかってないのか。
そんなもんだと思われていたのは、ちょっと不愉快だよ。
「ふふ……ふふふっ!」
「……? あの、リア? 俺そんな変なこと言った?」
「いーえー? 大好きですよ、ラグ君」
「は? へっ? 何だよ、急に!」
「いえいえ、ちょっと言っておきたいなと思いまして」
その幸せそうな笑顔に思わず目をそらす。
本気で言ってるわけがない。それでも嬉しくなってしまう自分を抑えることができなかった。



