テスターですけど、このネトゲ学園が難しすぎるとか言うのやめれる? 「これ絶対クリアできないんですけど、責任とれそ?」
五章 ①
正門を入ったところにある大きな噴水広場。
いつもなら登校する生徒が足早に抜ける場所であり、待ち合わせに使われる憩いの場。
そこは今、多種多様な防壁が積み重なった防衛施設であり、大量の食料が用意されたバイキング会場であり、踊りの舞台が用意されたステージであり、吹奏楽を響かせるホールでもあった。
「マジでみんな、やりたい放題にしたな……」
──うーん、思った以上に好き勝手やっとる
──学生なんてこれでええねん
「改めて! みんなに作戦を説明する!」
噴水のそばにたったクエスト進行委員会委員長が、大きく声を張り上げた。
「情報から推測した相手の名は水晶の暴食龍! 通常であれば積極的に人間を襲うことのない相手だ! しかしこの場所でオーバーカム学園の入学パーティーが開かれるため、大量の料理が集められている! それに引き寄せられて出現するという内容だと思われる!」
「酷い入学パーティーだ!」
「空気読め腹ペコドラゴンー!」
賑やかな声が上がった。
ぷおーん! と吹奏楽部が楽器を鳴らし、ダンス部が床を叩いて囃し立てる。
「設定上はなかなかの強敵とされているが、クエストで登場する以上は勝てる相手のはずだ! この場に備えた防衛設備、そして仲間の力を結集して打倒しよう!」
おおおおおお! と周囲から声が上がる。
今やオーバーカム学園の士気は最高潮だった。
──ヤバい、血の気が引いてきた。この空気で負けイベントを開始すんの?
──だから言ったじゃあん! やめた方がいいってぇ!
「では各クラスの指揮官、よろしく頼む!」
言って、委員長がその場を離れる。
代わりのように、集まったG組の前にサリスが歩み出た。
いつも通りの整いすぎた女優フェイスで、厳しくも余裕のある声で語りかける。
「G組、全員揃っているわね? もうすぐ時間になるわ。装備、所持アイテムの再確認と、連携ペアがいることを確認して」
サリスの言葉に、隣へ視線を向ける。
「よろしくお願いします、相方さん?」
「こちらこそ、最後までついてきてくれよ」
「さ、さすがのリアちゃんもそれはちょっと自信ないですねえ……」
いつもの制服を裁縫部に強化してもらい、エンチャントまで施したリア。
彼女は珍しく緊張した面持ちで、両手の短剣をくるりと回した。
「わかってますね、ラグ君。私たちの作戦プラン」
「ああ。やりたいようにやる、だ」
──とても いやな よかんが します
──ええやんええやんやったれやったれ
詳しい内容はコメントの皆さんにも話してない。
ただ、後は頼むと伝えてあるので、きっとなんとかしてくれることでしょう。
──過剰な期待をされている気がする
──責任は大人が取るから好きにやれ
ええ好きにやらせてもらいますとも!
ただ本音を言えば、一番の望みは、オーバーカムのみんなで協力して倒すこと。
できることなら、上手くいって欲しい。
「まもなくパーティー開始よ。G組の奮闘に期待しているわ。MVPは私達よ、いいわね?」
「は、はぁい……」
明らかに俺とリアへ向けられた圧を感じながら、開始時刻を待った。
──入学、おめでとうっ!
パーティーが始まってしばらくの間、会場は平和そのものだった。
そこにある料理や飲み物はリアルで口にすることはできないけれど、材料はみんなで集めたものだし、調理したのも俺達だ。コントローラーで指定すればアバターに食べさせることだってできる。
各々がリアルで用意した料理を楽しみながら、穏やかな時間を過ごした。
──もちろん、すぐに崩れ去る平和だったけれど。
「来たぞっ! 上空!」
周囲を警戒していた生徒の声に上空を見上げると、大きな影が太陽を横切るのが見えた。
出やがった、暴食の水晶龍!
「みんな、戦闘準備よ」
冷静なサリスの声に従い、G組が一斉に戦闘モードへ切り替える。
「ラグ君、いいですね?」
「もちろん。モードチェンジ、オーバートラッキング」
ベアリングのロックが外れ、完全なるフリームーブの接続環境に切り替わる。
今日ばかりは絶対にこの機能が必要だ。
「降りてくるぞー! 真ん中、離れろー!」
広場の中央、噴水の上から猛烈な風が吹き付けてくる。
そして風の中を貫くように、水晶で形作られた巨大な龍が舞い降りてきた。
丸っこい水晶から大口が飛び出した、どこか不格好な姿。
そのあまり圧のない姿にみんなが苦笑いするのがわかった。
「単純な感想ですが……間抜けっぽいですね!」
「油断は禁物よ。では、戦闘開始ー!」
サリスの指示と共にG組の前衛が、そして他のクラスでも近接武器を握ったプレイヤーが飛び込んでいく。
「演奏いくぞー! さん、にっ!」
「トラップ起動! トラップ起動! 背面側には近づくな!」
「放送部より全校へお知らせします! 正門噴水前にて、ドラゴンとの戦闘が開始されました。繰り返します、正門噴水前にて──」
「各クラス魔法部隊、曲射用意! 全力で火力を出せ!」
後衛部隊が援護を開始。
千対一──人数では圧倒的に有利な、しかし絶望的な戦いが始まった。
††† ††† †††
序盤の間、戦闘は好調だったと思う。
「ヤバい食われた食われたヘループ!」
「大型バリスタ撃て! 救出救出ー!」
派手な嚙みつき攻撃を避け損なった生徒が、据えつけられた大型兵器の攻撃に救い出される。
「今だ! 槍投げ弓撃て魔法撃てー! なんでもいいから投げろー!」
「HPゲージが減っても色が消えない! これ何本かあるタイプだぞ!」
「下に表示がある、ゲージ4本だ4本!」
ターゲットが固定されないよう各方向から攻撃が飛び、丸っこい水晶龍はドタバタとしたユーモラスな動きでプレイヤーを追いかけていた。
「うわっぷ!? でかい水晶飛んできた!」
「ポーション飲んでポーション! ほら、足りてるか?」
敵の動きに合わせて放たれる水晶が少しずつみんなのHPを削っていく。
俺は目立たないように、周囲のフォローに動いていた。
「とりあえずG組は犠牲者なし、か。みんなすごいな!」
「まかせろ」
大盾を構えた(?)モノリスのもの太が、飛んでくる水晶からG組後衛を防衛してる。
他のクラスもしっかり連携し、なるべく犠牲が減るよう戦闘を続けていた。
「どんどんHPが削れてますけど、本当に勝てないんですか?」
「んー……この数の遠距離攻撃でこの減りってことは、思ったほどの倍率じゃない、かも……」
この場に1000人近いプレイヤーがいるからといって、敵の強さが1000倍になるわけじゃない。
火力は頭打ちになるし、HPもおそらく500倍を少し超える程度かも。
「このまま少ない犠牲で削りきれたらいいんだけど……」
「ラグ君、その言葉フラグっぽくありません?」
「俺も言ってから思ったよ!」
──ほんまにすまん
──そろそろお時間となります
そんなコメントが聞こえた直後。
一本目のHPゲージが削り取られ、水晶龍が怒りの雄叫びを上げる。
丸っこい水晶の身体にヒビが入り──その内側から、ほっそりとした龍の体軀が姿を見せた。
「だ、第二形態じゃないですか! こんなのあるんですか!?」
「ああ、ここからが本番だよ」
【実績:ここからが本番だ】【難易度:☆☆】
ボスエネミーの形態変化を目撃した証。
ここからが真の戦いの始まり。あなたの本気を見せつけよう。
「そうですね! ここからが本番だ、の実績が解除されました!」
「あああっ! 俺の台詞が読まれてたみたいでムカつく!」



