テスターですけど、このネトゲ学園が難しすぎるとか言うのやめれる? 「これ絶対クリアできないんですけど、責任とれそ?」
五章 ②
って、そんなこと言ってる場合じゃない!
オォォォォン! と水晶龍が甲高い咆哮を響かせた。
「っ……ヤバそうね。みんな、警戒を──」
サリスの声が聞こえた直後、水晶の散弾が全方位へ撒き散らされた。
「なんだこれっ! 防げ防げー!」
「避けきれないでござるワンッ!」
「後ろに」
「みんな、もの太の後ろ! すぐ隠れろっ!」
他のクラスより連携のできているG組は全体攻撃への対応も早かった。
大盾装備のクラスメイトの後ろに隠れるようにして、なんとか水晶の散弾を防ぎきる。
「他のクラスはどう?」
「運が悪くて落ちた人はいるみたいですが、全滅はなさそうです!」
「回復するでござるワン! じっとしているのでござるワン!」
「すまぬ」
ヒーラーで盾役を癒やしつつ、G組が反撃に出る。
「近距離のみんなはまだ近づかないで。遠距離攻撃で様子見から入るわ。射撃自由よ、撃って」
サリスの指示の下、遠距離攻撃が乱射される。
他のクラスからも魔法や弓、ボルトが飛び、その多くが水晶龍へと命中した。
みんな上手いなー、ちゃんと練習してるんだね。
「……減ってます! 少しずつですが、確実に!」
「みんな攻撃を継続! 近距離の人も隙を見て……っ!?」
水晶の散弾で反撃していた龍が、苛立ったようにその口を大きく開く。
口内に蒼い光が灯ったかと思えば、直線上の物体が猛烈な勢いで光の中へと吸い込まれていった。
「ヤマサキー! ヤマサキが食われたっ!」
「即死だ即死! 吸い込み食らったら一撃死してる!」
「うわあ、厄介な攻撃……あれ?」
「敵の体力戻ってるぞ! なんだこれ!?」
「食ったら回復するやつでござるワン?」
「ありえるわね。食べられないように気を付けて……いえ、待ちなさい」
ぎゅんぎゅんと周囲の物体を吸い込んでいく暴食の水晶龍。
その中にはパーティーを開催するためにみんなで用意した、大量の食品アイテムも混ざっていた。
「これ……用意した料理を食べて回復しているわよ!」
「うっそぉ!? ちょっとみんな、急いで料理食べて! 全部全部!」
「戦えないやつ出番だぞー! 腹がはち切れるまで食え!」
「うおおおお龍に食われるぐらいなら俺が食う!」
おおー、何の説明もなく、みんなの力でギミックがとかれてる。
戦いが得意じゃない人もここぞとばかりに頑張ってアイテムを消費してくれてるね。
全員ができるかぎりの努力をして──しかし、長くは続かなかった。
††† ††† †††
(あれ、ラグ君がいませんね……?)
四方八方に撒き散らされるドラゴンの攻撃に集中していたリアは、G組のフィールドから相方の姿が消えていることに気づいた。
(プランB開始、ですか。もう無理ってことですね)
ラグの強さには信頼を置いている。まさか先に脱落しているはずもない。
通常の連携はここまで。後は個人技で、ということだろう。
「限界だ……」
「もの太君っ!? うう、ナイスファイトですっ!」
前線を必死に支えていたモノリスが破壊され、G組の盾はもはやない。
残っているのは全クラス合わせても十数名だ。
しかしそんなエース達も長くは持たない。
接近戦で粘っていたギンランが撃ち落とされ、中距離でカウンターを狙っていためんめんが爪の一撃で吹き飛ばされる。
「味方の数が足りない……! わたくしばかり狙って、鼻のいいドラゴンですのねっ!」
そしてクロスボウを構えたコロンが散弾に撃ち抜かれた。
「わっと……もー、みんな居ないじゃないですか!」
リアは水晶の散弾の中をくぐり抜け、狙いすましたクリスタルの砲弾を一瞬のストップアンドゴーで避ける。
普通ならできるはずのない動きだが、今の彼女には不可能ではなかった。
何せ見えるところにお手本が居る。
名前の表示を隠す黒いローブを身にまとった人影が、まるで当たり前のように攻撃を避けきっているのだから。
(ラグ君、いつの間に着替えたんでしょう。あの名前が消える装備はなんなんですか。本当にいつも隠しごとばっかりですね)
底の知れない相方に苦笑して、リアは最後の力を振り絞る。
「世界一の完璧美少女としては、相方を一人残して倒れるのは可愛くないんですよっ!」
どこかの錬金術師が落としたのだろう、転がっていた爆弾や余り物のポーションまで使いながら、なんとか粘ろうと戦い続ける。
しかし、HPよりも、集中力よりも、先に尽きたものがあった。
「──っ! 脚が、もう……!」
全身を使って戦闘を続けた数分間で、リア自身の体力はまたたくまに削られていった。
身体が言うことをきかず、避けられたはずの攻撃がどんどんアバターをかすめていく。
「ごめんラグ君、私も、もう……」
小さく呟いた声に、短い返事があった。
「大丈夫。任せて」
その声に最後の力が抜け、へたり込んだ彼女をクリスタルの塊が押しつぶした。
「体力の限界かぁ……情けないですねえ」
蒼く輝く龍と、踊るように動く黒いローブが消えていく。
そして視界が戻ると、そこは校舎の中だった。
「リアちゃんでもダメだったー!」
「終わりかあ……まあみんな頑張った!」
「ナイスファイトよ、リア。G組の意地を見せてくれたじゃない」
「あはは……もうちょっと粘りたかったんですが……」
リアは疲れ切って上手く動かない脚を無理矢理に動かし、アバターを立ち上がらせる。
見回せば、周囲にはもう戦いが終わったような空気が漂っていた。
「リア、あなた平気ですの? 体力がないんですから、無理をするものではありませんわよ」
「コロンちゃん……」
リアへ歩み寄ったコロンが気遣うように彼女の肩へ手を伸ばす。
「先に脱落したわたくしが言うのも恥ずかしいけれど……あなた、一皮むけましたのね」
「え……そう、ですか? 結局最後まで残れずにやられちゃいましたけど」
「昔のあなたは、決して全力なんて出しませんでしたわ。荒い息は可愛くない、なんておっしゃっていたでしょう?」
「……そうかもしれません。実は最近、ちょっと気づいたことがあったので」
「あら、どんな?」
「私は汗に濡れても可愛い、ってことです!」
「……はあ。やっぱりあなた、相変わらずですわね」
呆れた息を吐き、コロンが窓の外に視線を向ける。
広場で大暴れするドラゴンがよく見えた。
早期に脱落した人に向けてだろう、空中には戦場の映像が映し出されている。
そこに映っているのは、もはやたった一人だけだ。
「もう名の知れた生徒は全員脱落済みですわ。戦力としてはあなたが最後。さすがにどうにもなりませんわね」
「あー……今回はそうでもないんですよねぇ……」
元から必要なのは『残った一人』だけだ。
彼女は彼を一人にしたくないという意地で踏みとどまっただけに過ぎない。
──リアちゃんはよーがんばったで
と、画面の端にコメントが流れた。
戦闘中に共有の申請があったような気もするけれど、もはや記憶にない。
たった数分でも、リアにとってはそれぐらいの激戦だった。
──あの水晶乱撃は本来レベルや装備の足りない挑戦者を足切りにするための全体攻撃だから、ちょっと避けられただけでもすごい
──甥っ子君と違ってリアちゃんにはアドバイスをしていいという風潮、一理ある
──彼には何も必要ないから
「ん……そうみたい、ですね」
戦闘フィールドで暴れまわる水晶龍と、たった一人残されたローブの人影。
その光景を見てリアは乾いた笑いを漏らしていた。
「……戦闘、まだ終わらないんだな?」



