テスターですけど、このネトゲ学園が難しすぎるとか言うのやめれる? 「これ絶対クリアできないんですけど、責任とれそ?」

五章 ③

「あのローブのやつ、名前見えないけどめちゃくちゃ粘るじゃん」

「おー頑張れ! そのまま倒しちゃえ倒しちゃえ」

「無茶言うなよ、あれこれ食って全快してるんだから、丸々1000人分のHPだぞ」


 空中に投影された大ウインドウの中、黒いローブのラグが躍動する。

 撒き散らされる散弾の隙間をくぐり抜け、大回転しての尻尾攻撃は飛んで避け、爪の攻撃を弾き返す。

 まるでこうすれば勝てるとその身で示すような、お手本そのままのプレイング。


「な、なあ……マジで勝てそうじゃない?」

「だから一人じゃ火力足らんて」

「へー、あれパリィできるんだ。ショウ、スキル取ってただろ?」

「むずそー。だけどやりゃいけそうだな!」

「……そんなわけないじゃないですか」


 思わず呆れた声を漏らすリア。

 ──最近は低レベル縛りが多かったから、甥っ子君の本気ビルドを見るのは久しぶりだ

 ──最後は開幕ワンパンとか自動回復棒立ちとか、変なのばっかり使ってたし


「これがラグ君の使う本当のビルド……?」


 ──必要な火力に振って、残りのほとんどを敏捷へ

 ──彼にしか使いこなせない、彼だけが信じる空想上の結論ビルド

 ベアリングが空転するたび、画面の中のラグが宙を駆ける。

 ラグの身体能力は平均的。使いこなせる敏捷値はそこまで高くない。

 しかし次の攻撃を、その次の攻撃を、さらに先の未来まで念頭において動くのなら、どれだけの速度があっても使いこなせる。

 局所的にマイナスの反応速度を叩き出す彼にとって、求める敏捷値に上限はない。


「こうして外から見てるとマジで簡単そうだなあ」

「うわあああ今からでも中に戻してくれ! いける! 俺もやれるから!」

「くっそ羨ましい! リトライはよ!」


 ラグの戦いを見ている生徒がどんどん盛り上がっていく。

 避けた後の場所に攻撃が突き刺さるその光景は、見ていて何の不安も覚えない。

 わざと避けやすいモーションで作られているんじゃないか、そう思ってしまうほどに。

 鮮やか、と称するには過剰なほどに余裕のあるプレイング。

 さっきまで戦っていた生徒たちは声を抑えることができないのだ。

 ──ああああん! 俺達の作った序盤の壁が、くっそ楽そうに見られてるぅ!

 ──強化したい、もっと強化したい。せめてラグに一発食らわせるぐらいには

 ──わかるかリアちゃん、これがワイらを狂わせたんや

 ──新ボスが無限に強化され続けた原因がここにある


「あはは……うん、これは……勝手に熱くなっちゃいますね」


 思うがままに敵の行動を誘導し、余裕そのものの動きで対処していくその姿。端から見ていると簡単に処理しているようにしか見えない。

 これなら自分にもできる。こんな相手に負けるはずがない。

 もう一度戦いたい、まだ終わりたくない、そんな想いが溢れてくる。


「実際にやったらこんな風にはできないんでしょう?」


 ──もちろんそうよ

 ──さっきまで1000人で対応できなかったのに1人で避けてるのはおかしいんだよなあ!

 ──多分こいつ、1人の方が楽だなーとか思っとるぞ

 ──ランダム行動を決め打ちで避けてるから簡単に見えるだけで、たった一度でも食い違ったらとっくに死んでる

 ──決め打ち(乱数をなんとなく感じ取って望む行動へ敵を誘導してる)


 ──もうやってることがTASなんよ


「でもラグ君のおかげで誰も折れてません。みんなまた戦いたいって、今度こそ勝とうって思ってくれてます。さすが私の切り札! リア軍団の決戦戦力! 最高の成果ですね!」


 熱気に溢れた生徒たちに、リアは満足気に頷いた。

 ラグ以外では彼女が最後まで粘り、負けたとはいえ士気は全く落ちていない。

 運営側がどう思ったかはわからないが、世界一の美少女の相方に相応しい実力を見せたといえるだろう。

 これで終わりならば、だが。

 ──甘いなあリアちゃん、甥っ子君に本気を出させてこんなもんで済むわけないやろ

 ──決戦戦力(ただの事実)


 ──焚き付けた本人として責任取って?


「え? だって、あれ? みんな負けイベントだなんて思ってませんし、これでもう大成功……ですよね?」


 ──あらあらお可愛いこと

 ──その程度ならこんな化け物扱いせん

 ──ラグは『最低限の火力を振って』残りを回避にまわしただけ

 ──全ボス撃破済みの彼にとって最低限の火力……さてどんなものなんでしょうねえ


「ちょっ……」


 開発チームのコメントから溢れかえる嫌な予感に、リアはバイザーを引き上げて隣に視線を向ける。

 身体がぶつからないよう十分に距離を取って、ラグは安定した動作を続けていた。


「ら、ららららららぐくん? 何をしようとしてるか全然わかんないですけど、ちょっと一旦落ち着いてみませんか? 放っておくと絶対にマズイよーな気がしていてっ!」

「ああ、ごめん待たせて。クールタイムとか色々都合があって」


 彼はらしくもなく、少し気負った様子で言った。


「でも、もう準備は終わった」


†††   †††   †††


 色々と困ることもあったけど、今この時は、テスターをしていて良かったと思えた。

 学生のレベルが想定より上がっていない──それはつまり、アクションゲームとしてのオーバーカムを諦めた生徒がいた、ということだと思う。

 オーバーカム学園は開校したばかりでみんな同時に入学した。

 スタートは同じで、だからこそ勝てないことに折れてしまう人もいるだろうな。

 条件が等しいからこそ、大きすぎる差に傷ついてしまう。

 諦めかけた誰かが別の道に進んだのは理解できる。

 俺だってそちら側の人間なんだから。

 それを止めようとは思わない。みんながアクションゲームに挑まなくても、演奏家になったって画家になったって料理人になったっていいんだ。

 でも自分の限界を感じたとしても、誰かの才能に心が折れたとしても、もう少しだけは粘ってみて欲しい。

 だってほら、何の才能もない一般人の俺にだって、これぐらいはできるんだから。

 ──オォォォォンッ!


「はいはい知ってる知ってる」


 暴食の水晶龍がクリスタルの散弾を撒き散らすのを視界の端に見ながら、この先のモーションで事故らないよう丁寧にアバターを動かす。

 欲しいのは明確な隙、そして必要な溜め時間を補助してくれる、最後の一押し。

 全力で避けるんじゃなくわざと攻撃を誘導するようにして、水晶の嵐を駆け抜ける。

 直後、予想通りに龍の口が蒼く発光した。

 強烈な吸引力が俺のアバターを水晶龍の元へと引っ張り込む。回避に失敗したら一撃即死の理不尽攻撃。

 そうだ、これを待ってたんだ。


「さあみんな! よーく見てろよ!」


 これが俺の考える水晶龍との戦い方だ!


「乗せるのは傭兵の流儀、ターニングポイント、原初の咆哮、狙い撃ち、ラストスタンド、オーバーエナジー、クー・ド・グラス!」


 通常のビルドではありえないバフスキルの多重使用。あらゆる武器のスキルルートへポイントを振ってかき集めた、非効率極まる一撃特化。

 それは初見なら絶対に選ばないクリア済みだけの構築だ。


「さあ伸るか反るかの一発勝負! 倒せりゃ一撃、ダメなら即死!」


 吸引する勢いに乗って動くアバター。

 その流れに逆らうことなく、ひたすらにチャージを続ける。


「これが全ボス撃破のベータテスター、その集大成だ!」


 自分じゃ役に立たないと諦めたみんなも!

 可能性はないと折れてしまった君も!

 先駆者として教えてやる、まだまだ諦めるには早いってな!



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