テスターですけど、このネトゲ学園が難しすぎるとか言うのやめれる? 「これ絶対クリアできないんですけど、責任とれそ?」
五章 ④
「最上位のスキルのフルチャージに、初期スキルを組み合わせた掟破りの合体技! ギリギリデュープかもしれない、これが俺の切り札だ!」
視界の全てが蒼い輝きで埋め尽くされる。
その中でもアバターの位置を見失うことなく、全力で腕を振り切る。
「貫け、ピアシングエッジ──雷轟火迅!」
全ての防御を貫いて、水晶龍の巨大な頭蓋に雷炎の刃が突き刺さった。
ガラスが砕け散るような音が連続して響き、HPゲージが猛烈な勢いでぶっ飛んでいく。
「あ……え……?」
隣から聞こえる呆然とした声。
「1000人分の耐久力があるはずなのに……ラグ君1人で、一撃……?」
上限を超えた火力に水晶龍はクリスタルを撒き散らして崩れ落ちた。
どうだ、見たかみんな。
今の時点で強いとか弱いとか、そんな細かい差を気にすんなよ。
だってそうだろ?
「まだ誰も、スタート地点から動いてない」
さっさとスタートを切ってくれ。
そしたらみんな、すぐに俺なんか追い抜いていくんだからさ。
††† ††† †††
「千葉テスター。先日の件で、学生から大量の問い合わせが来ている」
「……はい、すみません」
VR空間と現実の両方で正座し、ぐったりと頭を垂れる。
やりました、としか言いようがない。
負けイベントを押し付けられて、みんなが楽しんでいるオーバーカムが悲しい空気になるのが嫌で、好き放題したのは紛れもない事実です。
「あれはどうなってるんだ、どうすればできるんだ、という質問に必死に対応するこちらの気持ちがわかるか?」
「い、いえ、そのですね……」
「片手剣最上位スキルのチャージ中という本来なら動けない状態を、吸引攻撃をあえて受けることで敵に向けて自動移動させています。そしてスキルの発動から着弾までにあるフレーム単位のラグに使用制限の緩い初期スキルピアシングエッジを差し込み、防御無視状態を付与した最大火力の雷轟火迅を炸裂させました。多重に付与した自バフと組み合わせることで一般学生の一万倍のダメージに到達したので一撃で倒せています。故にシステムは正常です、と返事をするのか? ああ!?」
「本当にすみません気持ちよくなってました」
「せめて普通に倒せ! 時間をかけて勝ったなら言い訳もできるものを、ワンパンは話が違うだろうワンパンは!」
「いやあ、やりこみの成果をお見せしたくて……」
「こっちが想定した卒業時点での火力を一月で超えるな! 冗談抜きでゲームバランスがおかしいと判断されているんだぞ!」
「溜め状態で動けるっていう特殊な状況ありきなので、普通のボスでは無理だからギリセーフかなって……」
「ソロで考えるからだろう! 誰かのサポートがあればいつだって出る火力だ!」
「あ、なるほど? それは考えてなかった!」
「ぐぅぅぅぅっ! 誰だこいつをベータテスターに選んだのは!」
──主任っすねえ
──しーらねしらね
──ワイらもここまであっさり倒すのは想定外やった
──あいつカッチカチやし、削りと回復で釣り合うはずだったんや
──ラグを利用した防御無視属性の付与は報告受けてない
──ピアエ発動中の攻撃全てに防御貫通が乗る現象は直ちに修正します
「くっ……次は他の手を使うしかないか……」
──おい他にもあるなら報告しろ
──職務を果たせテスター! これ以上壊すな!
「む、なんだよ失礼な。ピアシングエッジ中は他の技にも防御貫通が乗るって報告済みだぞ! 去年の秋ぐらい!」
──さすが優秀なテスター! 今後もよろしく頼むぞ!
──ラグ君、信じてたよ!
──ところで他にも直ってなさそうなのがあったら言ってみん?
「手の平くるっくるじゃん……」
「こちらが悪いのは事実だが、報告済みだからといって使って良いと判断するのも問題だぞ!」
「それはそう!」
直ってないなら仕様ってことでギリセーフかと!
「まあまあ、許してあげましょうよ」
と、後ろで話を聞いていたリアが仲裁に入る。
「ラグ君もみんなが楽しい気持ちでワールドクエストを終えられるようにって必死だったんです。それだけですもんね?」
「そうそう。あくまで一人の学生として!」
「いまさらだが、この二人はセットにしてはいけなかったような気がしてきたぞ!」
はっはっは、いまさらお気づきで?
頭を抱える叔母さんにテヘペロと笑う俺たち。
叔母さんはついにしゃがみこんで、疲れ切った声で言う。
「ああもう……本当なら色々と詰めたいところだが、フィールド内に誰も残っていなかったこと、そして隠密のローブで名前が見えていないことで、実際に何が起きていたのかは学生にはわかっていない」
「イベントNPCが撃破した、という解釈をしている生徒が大半みたいですねー」
──しっかり育成すればあれぐらいはできるんだぞ、というパフォーマンスだった説ね
──そりゃ単独で全校生徒よりも強い同級生がいるなんて普通は思わん
「はあ……」
叔母さんは大きく息を吐き、仕方ない、と呟いた。
「好きにしろと言った手前、私もあまり偉そうなことは言えない。攻略組と一般生徒で分断が起きてしまったことの解決策だったが、あれ以来学生の平均レベルが大きく伸びている。試みは成功だったと判断できるだろう」
「と、ということは……無罪放免ですか!?」
「とりあえず今学期のバイト代は私が徴収する」
「のおおおおおっ!」
お、お賃金がーっ!
折角ベータテスターの給料が出ることになったのに!
「問題を起こさなければ卒業後に支払うので十分に注意して学園生活を送るように」
「はいぃ……」
「つまりほぼ無罪みたいなもので! 勝訴勝訴! やっぱり可愛いは無罪です!」
いえーい、と喜んで見せるリア。
俺の財布を犠牲にした勝訴なんて欲しくなかったよ!
叔母さんからのお説教からなんとか逃げ出した先。
俺達はいつか登った塔の上でぐったりと座り込んでいた。
今回のリアは一人でクリアして見せて、やっぱり俺なんてすぐ追い抜かれるなって思わせてくれた。
広い学園の向こうに夕日が沈み、紅く輝く世界はなんとも美しい。
この世界がなんか嫌な方向に進んでいくのが嫌で、勝手に動いたんだけど──実際、本当に勝手だったよね。ワガママもいいところだった。
「なー、リア、ちょっとだけ聞いていい?」
「なんでしょー?」
脇腹にリアの肘が当たる感触。
なんだいなんだい、と突かれるのに、なんかもう違和感がなくなってきてる。
「なんで俺の背中を押そうと思ったんだ?」
「それはもちろん、今後の実績のために!」
即答するリア。
そう答えるのはわかっていたし──噓なのもわかってた。
「学校側の用意した負けイベントに失敗したからって、コンプリートする障害にはならないよ。むしろ無理矢理クリアしたせいで、この先の難易度が上がるんじゃないかな」
実のところ、ワールドクエストへの向き合い方だけは、俺とリアで考え方が全く違うはずだったんだ。
どうしても運営側に立ってしまう俺は、負けイベントの押し付けなんてやりたくない。
プレイヤーとしても負けイベだと言われたら勝ちたくなるし、やめろと言われたらやりたくなる人種だ。
でもリアは違う。
オーバーカムの完全攻略を目指す彼女は、ゲーム側に逆らう理由がない。
むしろ変なルートに進んだ方が王道から外れてしまい、コンプリートは遠くなるはずなんだ。
「そ、それはですね……ええと、説明すると長くなるんですが……」
「ああ、ごめん。問い詰めたかったんじゃないだ。つまり、その」
とても言いにくいけれど、伝えたいことは一つ。



