Fragment 01 ②
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ワカちゃん……。
こわいよ、ワカちゃん。
ミノルの細い悲鳴を、まるで
しかしすぐに腕を
二人がいるのは、《ママの秘密の部屋》──キッチンに接続する、小さなパントリーの奥。
棚の最下段から大きなバスケットを引き出したワカバは、その下に
立ち上がろうとする姉の手を、ミノルは必死で
「……ワカちゃん、どこいくの……?」
「おねえちゃんはお巡りさんを呼びにいくから、ミーくんはそこでじっとしてるのよ」
「やだ……ワカちゃんも、
ミノルの声を、ワカバは確たる意思に満ちたひと言で
「
「…………でも…………」
「大丈夫だよ。ミーくんは、わたしが守るから。わたしを信じて、その中で、声に出さないで数をかぞえててね。千まで数えられたら、プリンを作ってあげる」
「……ほんと? 約束?」
涙を浮かべながら
「うん、約束。だから、絶対にそこから出ちゃだめだよ」
頭上でハッチが閉められ、収納庫は
かすかな足音が遠ざかり、すぐに聞こえなくなる。
ミノルは、しゃくり上げそうになるのを
一、二、三、四、五、六、七…………。
どこか遠くで、どすん、どすんと重い音が響く。家族の
五十二、五十三、五十四、五十五…………。
足音が近づいてくる。リビングで何か大きなものが割れ、床に落ちる。ダイニングの
百二十九、百三十、百三十一、百三十二…………。
足音の主はついにパントリーへと
百五十五、百五十六、百五十七……。
ミノルの真上で、ずずずっと重いものが
百五十九、百六十……。
しかし、バスケットは、半分ほど引きずり出されたところで止まる。
百六十一、百六十二……。
足音が、ゆっくりと遠ざかる。キッチンで、ダイニングで、再び
百八十、百八十一、百八十二……。
足音が消える。
長い、長い
ミノルは数をかぞえ続ける。姉に言われたとおり、ひたすらに数える。
やがて、サイレンが近づいてくる。家のすぐ近くで止まる。
数える。かぞえる。
三千六百十七まで数えた時、ついに真上のバスケットが完全に引き出され、収納庫のハッチが開けられる。
しかし、そこにあるのは、金色の
ワカバではない、
ミノルは再び小さく丸まって、数をかぞえ始める。
三千六百十八。
三千六百十九。
三千六百二十──。
これは、ミノルが八歳、ワカバが十一歳の時の
三つの約束は、もう永遠に果たされることはない。



