織田ブリュンヒルド信長は天下のナナメ上を征く

第二章『一肌脱ぐ、と女性に言われると少しドキッとしてしまう』 ⑧

「こちらも仕事だからな。まったく、ひめしようの部下なんてやるもんじゃねえ。お前はよくやっていられるな」


 返す声は男のものであった。草むらからこっそり頭を出して確認すると、武士と思われる屈強な男とおつるが向かい合って話をしている。男子禁制のようなこの地で、しかも身を隠すようにして話していることに不穏なものを感じたハンは盗み聞きを続けた。


「で……なおとらはどうだ? 説得できたか?」

「あと少し、というところだ。すべての準備が整ってからいまがわの大殿に献上する。だから、やつだということはまだ黙っておいてくれ」


 いまがわの名前。なおとらであるという秘密。どう解釈しても黒だった。


「まったく、我が殿ながらあの好きには困ったものよ。もっとも、あのスケベなカラダを見れば嫌いの俺でもモノにしたいと思ってしまうがな」

「お館さまをゲスな目で見るのはやめろ!」


 おつるは声を絞りながらも怒りをあらわにした。しかし、相手の男は恐れも遠慮もしない。


「へっ。こんな女しかいない城で禁欲できているお前のような堅物の方がおかしいんだ。いっそ俺になおとらを一晩預けてみな。何でも言うこと聞くようにしてやるぜ」


 下卑た物言いにハンへきえきとした。ごうはらではあるが家中の問題に首を突っ込むほどハンはお節介でも身の程知らずでもない。用は足したし、さっさと立ち去ろうとしたが、


「おい……臭うぞ」

「あん? たぬきくそでもしたんじゃないのか?」

「いや……違う! これは!」


 おつるはじかれたように振り返って駆け出し、ハンのいる草むらを探り当てた。


「おい! 貴様……って、まひる殿! こんなところでナニを……」


 ハンの下に転がるものを目にしておつるは文字通り汚物を見るようなを向けた。


「……ブリュンヒルドよりはまともだと思っていたのに……こんなところでぐそなど」

「ま、待て! 説明が難しいんだが、事情があって……うわっ!」


 突然、後ろから男に羽交い締めにされ、ハンは身動きが取れなくなってしまう。


「うひょお! これは随分べつぴんなネズミがいたもんだ!」

「待て! この者は客人で」

「馬鹿野郎! テメエがこそこそ暗躍しているのを聞かれちまったんだぜ? 始末しねえと俺もお前もタダじゃ済まねえだろうが!」


 男がそう言うとおつるは悔しげに口をつぐんだ。


「へへっ……見れば見るほどいい女だ。殺す前に一発楽しませてもらおうか」


 男は手早くハンの手首を縛ると、小袖の襟を開いた。

 ゴロン、とよく熟れた桃が地面に転がり、男とおつるは顔を見合わせた。


「おっ、男じゃねえか!?」

「これはどういうことだ!? まひる殿!?」


 大便をしているところは見られるし、拘束されて身動きは取れないし、男だということはバレるしでハンはやけ気味に言い放つ。


「そうだよ。俺が本物の魔法指南役のハン。あの娘は助手だ。どうにもこの地は男には居心地が悪かったのでな。はからせてもらった」

「ああ……道理で。たしかに納得はいく」

「感心している場合かよ! チッ! 男じゃ俺は楽しめねえじゃねえか」


 がっかりした様子の男だったが、不意にひらめいたらしく、ハンの小袖の裾をたくし上げて、おつるに命令する。


「俺の代わりにお前がこの男を犯せ」

「は? なんでボクが?」

「お前はどうにも信用できねえ。ここいらで忠誠心ってのを見せてみろ。俺の命令に背くということはいまがわに背くということだ」


 無茶苦茶な理屈を振りかざす男だったが、「是非もなし」とおつるハンの前に立つ。


「待て待て待て! 俺はさっきのことを言いふらしたりしない! だから勘弁してくれ!」


 読者諸兄はお気づきかもしれないが、ハンは童貞である。恵まれた容姿をしているものの、女嫌いの性格と間の悪さが相まって二〇代半ばのこのとしまで、ついぞその機会は訪れなかったのである。故に不本意な形で卒業してしまうことは避けたかった。


「すまない。ハン殿。冥土の土産に受け取ってくれ」


 申し訳なさそうな顔をするおつるハンの好みではないが、童顔のわいらしい顔つきをしている。自分に犯されることが土産になると思うあたり自信が過ぎるというものだが、時間を稼げば場が好転するかもしれないと思い、ハンは腹をくくった。


「でも……ハン殿はれいだからね、その辺の女よりも。あまり乗り気でなかったけど、ボクのそくもすでにいきり立っているよ」

(くっ………………グソク?)


 おつるが帯をほどき、着物の前をはだける……またぐらにはハンと同じものがついていた。


「グハァッ! はあああああああああああぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっ!?」


 のやじよう中に響き渡るような大きな叫び声がハンの口から発された。幼い少女のような顔と体型をしたおつるには似つかわしくない立派なながやりが構えられていた。


「なっ! なんなんだよ! なんで女の格好しているんだ!? 変態なのか!?」

「……そっくりそのままハン殿にお返し致すよ。さあ、お覚悟なされ」

「いっ嫌だアアアアアアアッ!! 童貞の前に処女を失うなんてぇっ! 誰か助けてえええええええええっっ!!」


 おつるの正体に気づく前とは明らかに違う取り乱し方をするハン。しかし、男に押さえつけられ身動きは取れず、ひっくり返ったカエルのように股を広げられてしまう。


「これもお館さまのため! ええい、ままよっ!」


 おつるながやりハンの裏門に突き刺さろうとした────その時だった。

 


「先生ぇ─────っ! ご無事ですかっ!!」

「おつる! 助手殿にナニを───────あ」


 

 ハンの悲鳴を聞きつけて、ブリュンヒルドとなおとらが現れた。

 二人の乙女の眼前ではうるわしい女装男たちが半裸で手脚をからませている。


「…………え、っと……せ、先生、その、おめでとう? ございます?」

「めでたいわけあるか!? てかギリギリセーフだ! れいなカラダのままだ!」

つるっ! これはいったい?」


 なおとらがそう問おうとして、見慣れない男が一人いることに気づく。男は「マズイ!」と口走り逃げ去ろうとしたが、


「逃がすものか!」


 思いがけない素早さでおつるわきざしを抜き、ひらくようにして男の喉を切り裂き殺した。

 返り血を浴びたおつるはサッとその場にひざまずいた。余計な描写ではあるが、彼の前にはハンからこぼれ出た桃の実とひねり出された物体が転がっていることを書き添えておく。


「お館さま。この者たちは我々をたばかっておりました。そこにいるブリュンヒルドは魔法指南役のハンにあらず! まひると称したこの者がハンであるとのこと!」


 ブリュンヒルドは「あちゃー」といった様子で顔を手で覆い、ハンうなれた。

 だが、とりあえず貞操と命の危機が去ったことにあんしていたのだが、


「加えて! やつらはいまがわの密偵を手引きしておりました! 直ちに捕らえましょう!」


 と、おつるが罪をなすりつけてきたことで再び貞操と命の危機に陥ったのだった。


 のやじようの広間にて、緊急の評定が開かれていた。議題はもちろんハンとブリュンヒルドの処遇についてである。


「男であることを偽ってのやに忍び込むなど言語道断! 犯しましょう!」

「やっちゃいましょうよ〜派手にズブリと!」

「あらら……わいそうだけど、男じゃ仕方ないわね」

「男はすべて犯す……例外はない」

「考えるまでもない! お館さま! 私にヤらせてください!」


 我先に、と家の柱たる家臣が騒いでいる。屈強な男であっても震え上がりそうな彼女たちの圧力に負けず、ブリュンヒルドは堂々と反論する。


「待ってください! たしかに先生は女装していましたし、その姿はここにいる皆様より美しく嫉妬心を抱かせるものではありましたが、それは先生が悪いわけではなく、男性のいない環境に甘えて化粧や日頃のお手入れが雑になった皆様のせいです! まあ、元の素地も先生より落ちるとは思いますが……どうか許してあげてください!」

「もがもがも────っ!(お前、俺を殺したいんだろ!? 絶対そうだろ!?)」


 ハンさるぐつわをされて発言を禁じられており、ブリュンヒルドが代わりに弁明しているのだが地雷原の上で神楽かぐらを舞っているような危うさ。突きつけられる性欲のやいばハンは生きた心地がしなかった。



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