VirtuaReality FighterZ ―空手王者がVR格ゲーに挑んだら?―

ROUND1:二十歳過ぎれば ③

 マネキン型の充(じゆう)電(でん)クレイドルに、頭・両手・胴(どう)体(たい)・脚(あし)のデバイスが装着されていた。


「あれを着けて遊ぶ。本体はこの筺(はこ)だから、出力デバイスとコントローラーに当たるかな」

「おお……おおおー!?」


 纏(てん)火(か)が嬉(うれ)しそうにマネキンまで走る。

 そして頭に被(かぶ)る防具型総合出力デバイス──H(ヘツド)G(ギア)を脱(ぬ)がし、手に取った。


「すごー! まんま面包じゃん!? わはっ、このコントローラーとかもめっちゃ拳(けん)サポ!」

「メンホー……ケンサポ?」

「空手の防具!」


 にーっと笑い、纏(てん)火(か)が拳(こぶし)を掲(かか)げる。


「あたし、空手やってたんだ。伝統派空手」


 時雨(しぐれ)は目を丸くする。確かに運動部っぽい雰(ふん)囲(い)気(き)はあるが、まさか武道とは。


「意外だ。こんな落ち着きないのに……」

「あはっ、よく言われる。でもねえ、伝統派空手ってぐれ兄が想像してんのと結構違(ちが)うと思うよ? 武道ってよりスポーツって感じカモ。試合中ずーっとぴょんぴょんしてるし」

「へえ……じゃあ着け方とかは大(だい)丈(じよう)夫(ぶ)そうか?」

「んむ! いけそう!」


 念のためしばらく様子を見守るが、確かにスムーズだった。これなら大(だい)丈(じよう)夫(ぶ)だろう。


「じゃあ俺は出る。そのまま待っててくれ」

「えっ、どこ行くの?」

「2P側で準備。ホロッセオは中が繫(つな)がってるように見えるけど、実際は分かれてるからな」


 これはプレイ中に身体(からだ)が接(せつ)触(しよく)したり、熱くなったプレイヤー同士がリアルファイトに発展するのを防ぐためだ。いくら時代が進んでも、ゲーセン内で灰皿と怒(ど)号(ごう)が飛(と)び交(か)っていた頃(ころ)から人間の本質が変わるわけじゃない。こういう所は徹(てつ)底(てい)されているのだ。

 時雨(しぐれ)は2P側に入り直し、デバイスを順番に装着していく。

 まずは爪(つま)先(さき)から踵(かかと)、膝(ひざ)までを覆(おお)うL(レツグ)G(ギア)。

 胴(どう)体(たい)に着けるB(ボデイ)G(ギア)。

 頭から耳まですぽっと覆(おお)うH(ヘツド)G(ギア)を被(かぶ)り、

 最後に拳(こぶし)グローブとグリップ型のコントローラーが一体となった操作デバイス──グロコンを両手に着けて、準備完(かん)了(りよう)だ。


「纏(てん)火(か)。聞こえるか?」

『──なぬっ、ぐれ兄!? 脳内に直接……!?』

「なわけないだろ……。HGにマイクとスピーカーが付いてるんだ」

『も……勿(もち)論(ろん)知ってたけどね? 貴様を試(ため)した。中々やるようじゃな』

「……はいはい。もういいから、両手のグロコンの指に当たってるボタンを全部、一気に握(にぎ)りこんでくれ」

『ほーい。握(にぎ)ったー!』

「この状態で起動命令を言うとゲームが始まる。後に続いて言ってくれ」


 深呼吸を一つ挟(はさ)み、呟(つぶや)く。


「〈戦闘(バトル)開(スタ)始(ート)〉」


 自分を中心に、激しい竜(たつ)巻(まき)が巻き起こる。

 それは現実の小さな筺(はこ)の中から、人を戦いの異世界へ送る風だ。

 やがて風が止(や)み、視界が開けると──、

 


『──Legendary Fighters Ⅳ!』


 

 時雨(しぐれ)たちは土(つち)煙(けむり)が漂(ただよ)う、広大な闘(とう)技(ぎ)場の中心に立っていた。

 あちこちに多様な武器が刺(さ)さっているこの無人の遺(い)跡(せき)は、かつて伝説上の生物たちが誇(ほこ)りを懸(か)けて戦ったとされる戦場であり、その魂(たましい)が未(いま)だ眠(ねむ)る聖地だ。

 そこへ導かれてやって来た戦士たちが、《伝説獣(レジエンデイア)》の魂(たましい)が宿った武器を手に戦う──。

 それが『レジェンダリー・ファイターズ』シリーズの基本設定だ。


「うおおおおおおーっ!? 何ここ!? やばっ!? あははっ、すご──────っ!!!」


 でっかい声に振(ふ)り向(む)くと、場所に不似合いな制服姿のまま纏(てん)火(か)がはしゃいでいた。

 向こうの方でも時雨(しぐれ)を見つけたようで、


「あっ、ぐれ兄! ここマジでやばくない!? あはははははは!」


 手を振(ふ)って全力ダッシュしてきた。


「バカ、止まれ!? じゃないと──」


 ──ごぉんっ!!!


「あ痛ぁああああぁぁぁ──────っ!?」

「……どっかしらぶつけるぞ。現実はゲーセンのホロッセオなんだから」

「先言っといてよぉぉぉ……!」


 纏(てん)火(か)が顔を押さえて地べたでごろごろ悶(もだ)えている。結構いい気味だ。

 まあ顔なら、HGの強化液(えき)晶(しよう)で守られてるから何ともないだろう。


「今時やらかす奴(やつ)がいるなんてな……。普(ふ)段(だん)、VRゲームとかやらないのか?」

「やんないよぉー。おら、機械苦手だもの」

(……ゲームのこと『機械』って言う時点でそうだよなあ)


 完全に異世界の住人だ、と改めて実感する。

 だがそんな人間がわざわざ「やってみたい」と言ってくれているのだから、業界の末席に身を置く人間としては嬉しいことだった。


「じゃあ早(さつ)速(そく)、《伝説獣(レジエンデイア)》を選ぼうか」

「おー! ……《伝説獣(レジエンデイア)》って?」

「伝説の生物の魂(たましい)。普(ふ)通(つう)の格(かく)闘(とう)ゲームだと操作キャラを選ぶんだが、『レジェ』シリーズはVRF──VR格ゲーだから勝手が違(ちが)う。戦うのはキャラじゃなくて自分自身だから、そのために力を貸してくれる相棒を選ぶ訳だ」

「ほうほう……なーる」

「《伝説獣(レジエンデイア)》は武器に宿ってる。だから武器選びとも言えるかな。刀、槍(やり)、斧(おの)、杖(つえ)……とにかく色々あるから好きに眺(なが)めてみて、ビビっと来たものがあれば選ぶといい」

「りょ! じゃあ操作方法教えてー」


 了(りよう)解(かい)、とささっと操作を教えてやる。

 そのついでに、衣(い)装(しよう)のカスタマイズ方法も教えてあげた。

 従来の格ゲーだとキャラごとに衣(い)装(しよう)やカラーバリエーションが決まっているが、VRFにはその縛(しば)りがない。和服だろうがドレスだろうが好きに選び放題で、これをアバターとして売るのがVRF興行の大きなシノギになっている。

 ちなみに今はご新規さん歓(かん)迎(げい)キャンペーン中で、結構な額のゲーム内通貨が配布される。

 その金を使って、纏(てん)火(か)は楽しげに戦(せん)闘(とう)装(しよう)束(ぞく)をカスタマイズしていた。


「──おけーい! ぐれ兄、レジェも服も決まったよー」

「OK。じゃあ次は、操作スタイルを決めよう。説明続きで悪いんだが──」

『レジェⅣ』には二つの操作スタイルがある。

 それが【ゲーミング】と【フィジカル】だ。

【G】(ゲーミング)はグロコンのボタン入力メインで自分を操作する、旧来のゲーム的操作スタイル。

【P】(フイジカル)は現実の自分の動きをそのままゲームに反映する、新たな格(かく)闘(とう)的操作スタイルだ。


「で、これから始めるなら【P】一(いつ)択(たく)。普(ふ)段(だん)ゲームをやらない人なら特にな」

「ほうほう。その心は?」

「直感的で簡単、しかも強い、何より楽しい。いいことづくめだからだ。運動神経いい奴(やつ)だったら、基本ルールを押さえるだけでいきなり経験者と戦えたりもする」

「へえー……! ちなみに【G】は?」

「ゲーム的にできて身体(からだ)が楽な点は最高だが、難しいのでまずオススメしない。まともに動けるようになるまで何十時間単位の練習が要(い)るし、とにかく初心者には厳しいんだ」

「ふんふん……でも、【G】を選ぶ人もいるんだよね?」

「そうだな。旧シリーズからやってる人は大体が【G】だ」

「それイズなぜ?」

「操作が身体(からだ)に染(し)みついちゃってるから。昔は操作スタイルが【G】しかなかったんだよ。そこにこの『レジェⅣ』から、【P】っていう凄(すご)く革新的で面(おも)白(しろ)いものが出てきた」


 そのお陰(かげ)で、と時雨(しぐれ)が万(ばん)感(かん)の思いをもって言う。


「今、こんな爆(ばく)発(はつ)的に流(は)行(や)っている訳だ。新規参入のしやすさが段(だん)違(ちが)いだからな」

「へええー……! じゃああたしも【P】にすんね。ゲームよく分かんないしさ」


 その方がいい、と重たく頷(うなず)く。

 これで選ぶものは9割選び終わった。


「あとは召醒(アウエイク)口上(コール)を決めて呼び出すだけだ」

「召醒口上……ってナニ?」

「レジェ選びのショートカット機能兼(けん)、このシリーズの名物みたいなもんだ」


 今みたいに使う《伝説獣(レジエンデイア)》や衣(い)装(しよう)、それから操作スタイルを毎回選ぶのは時間がかかるし、面(めん)倒(どう)臭(くさ)い。そこで活(い)きるのがこの召醒口上というキーワードだ。この言葉を予(あらかじ)め設定した上で《伝説獣(レジエンデイア)》に呼びかけると、登録しておいた内容を一(いつ)瞬(しゆん)で呼び出すことができる。


「実際にやって見せるか?」

「おおっ! 見たい見たい!」


 じゃあ、と時雨(しぐれ)が咳(せき)払(ばら)いを一つして、


「──挑(いど)め。《紅炎竜(クリムナス)》!」


 口上(コール)を詠(よ)む。

 すると地の底から激しい炎(ほのお)の柱が立ち上り、時雨(しぐれ)を包んだ。


刊行シリーズ

VirtuaReality FighterZII ―篝火を継ぐもの―の書影
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