VirtuaReality FighterZ ―空手王者がVR格ゲーに挑んだら?―

ROUND1:二十歳過ぎれば ④

 しやくねつのカーテンのようなそれが去ると、時雨しぐれは軍服姿に変わり、かたかつげるほどのきよだいけんを構えていた。背後に従えたごくほのおあやつる地底のりゆう──《紅炎竜クリムナス》がえる。


「はい。こんな感じだ」

「おおおー……! かっけぇぇぇー! やっぱ近くで見るともっとかっけえ!」

「……? もっと?」

「ねえぐれ兄、あたしもやっていい? ってかやらせろお!」


 興奮しすぎて聞こえてないらしい。仕方ないのでそのまま口上の決め方を教えてやる。

 思い付かなければゲーム側に標準口上があるぞと言ったが「いーや! 自分でウルトラかっけえやつを考える!」ときやつされた。

 気持ちは分からんでもない。このゲームをやってて一番アガるのは口上をさけぶ時だ。


「……よーし。決ーめた!」


 てんりよううでを胸の前でクロスする。

 そして帯をめるように、ぐっ、と引いてさけんだ。

 


「──燃えろ、《焰王獅エンリオス》!」


 

 たけびに相応ふさわしい、ごうの柱がてんから立ち上る。

 大地をるがすほどに強いそれが引くと、


「──おおお……! これが……あたしの力っ!?」


 てんしやくねつほのおを宿したてつこうを着け、破れた道着にそでを通していた。

 しやくねつ──《焰王獅エンリオス》が、てんの背後でえ上がる。


(なるほど、《焰王獅エンリオス》か。いかにもって感じだな)


 てつこうで包んだこぶしで戦うインファイト型の《伝説獣レジエンデイア》だ。《紅炎竜クリムナス》のような長物持ちと比べるとリーチにとぼしいが、その分動きも速く火力も出せる。ゆうしゆうなオールラウンダーだ。


「ぐれ兄ぐれ兄っ、早くやろ!? 戦いたいっ!」

「そうだな。るか」


 ぱちん、と指を鳴らす。それを合図に、二人の頭上に大小三本のゲージが生成される。

 試合開始の中央立ち位置に両者がワープし、間の空間に大きな文字が出た。

 

【──ROUND1……FIGHT!】

 


「わはっ、始まった!」

「じゃあ簡単にルールの説明から。『レジェⅣ』のルールはシンプルで、こうげきして相手の体力ゲージをゼロにした方の勝ち。2ラウンド制で、先に2本取った方がゲームの勝者だ」

「おおー。確かにシンプル!」

「操作もためしていこう。さつそく、俺に近づいてこうげきしてみろ」

「マカセロ!」とてんが目をかがやかせて、時雨しぐれに向かってダッシュ──、

 する寸前で止まった。

 非常階段のマークそっくりのてんに、時雨しぐれは鼻を鳴らす。


かしこい。流石さすがに二回はぶつけないか」

「フッ、学ぶ女だからあたし。でもこれ、どーやって歩いたらいいの?」

「後ろ足のかかとかすと前進、前足のかかとかすと後ろに後退だ。要は進みたい方向に体重をけるとそっちに進む」

「ほうほう……」とてんが前後にれたあと、時雨しぐれに向かって歩いてくる。

 なんならそのままぶつかり続けて、頭でぐりぐり押してきた。


「おおー。ちゃんと頭にもかんしよくあるぅー!」

「デバイス着けてるしよはそうだな…………って、おい。いつまで押してるんだ」

「へへぇー。だってヨコ移動教わってないもーん」

「ああ、ヨコ移動ないぞこのゲーム。そもそも動けない」

「えっ!? そうなの!?」

「そうなの」と時雨しぐれうなずく。


『レジェ』シリーズは2D対戦かくとうゲームをベースとしているので、空間の管理は自分と相手を結んだ直線の前後と上下のみに限られる。シンプルだが、それゆえにひりつく間合い管理のこうぼうおくぶかく、おもしろいゲームとなっている。


「じゃ、なぐっていいぞ」

「へっへー。そんじゃあ、ちょっと失礼しまして──」


 てんがかるーくこぶしを引いて、


「せいッ!!!」


 ──ずどん!

 時雨しぐれの腹にするどい一発をぶちこんだ。


「おおお〜……!? すごっ、ホントになぐった感覚あるよ!?」

「全部のデバイスにしようげきセンサーが付いてるからな。なぐられた側にもちゃんとしようげきが来る」

「えっ、ほんと!? ねねね、あたしにもやって!」


 時雨しぐれはグロコンのコレクトボタンを押し込みながら、


「よっ!」


 現実で前足を軽く相手のすね辺りにす。これだけでいい。

 そうすればゲーム世界の時雨しぐれは、深く身体からだしずめたカッコいいフォームで下段りを放っているように補正される。


「わはっ、すごー! ほんとに痛い!? てかすごりだね、ぐれ兄もかくとうやるの?」

「全く。コレクトシステムってのがあってな──」


 つうの人間に、かくとうゲームのキャラみたいなちようじん的な動きはできない。

 しかしこのシステムさえあれば、省略動作とボタンの組み合わせでそれが可能になる。


「あとはガードも実際に受けなくていい。立ちガードとしゃがみガードのボタンがそれぞれあって、適切に押してれば勝手に受けたりけたりしてくれる」

「へえー……ガードに種類があるの?」

「ある。立ちガードは中段を防げて、しゃがみガードは下段を防げる。上段はどっちでも防げるからあんまり気にしなくていい。ちなみに、このゲームのわざの七割は上段だ」

「ほえー……。じゃあ上段ってそんな強くないんだ」


 空手だと一番強いのに、とてんかたをすくめる。


「ってか下段のガードで上段受けられるって、何かヘンテコだねー」


 言いたいことはすごく分かる。

 が、こればっかりは慣習だから「そういうもんだ」としか言いようがない。


「あとは投げボタンだな。ガードしてるとげきは通らないんだが、投げは通る。げきに比べてダメージは低いが、かたい相手をくずすのに有効だ。……投げってないよな? 空手に」

「崩しはありだけどぶん投げるのはなしだね。あと下段もなし。伝統派では反則なのだ」


 へえ……と時雨しぐれたんそくする。

 当然だが他もちがう所だらけだろう。まずは慣れてゲームを楽しんでもらいたい。


「じゃあ一回、好きにためしてみてくれ。きよくたんな話、『げき』と『ガード』と『投げ』の三要素がそろえばすぐに試合もできるからな」

っ! お願いします!」


 それからしばらく、てんは99秒の試合時間×2R分をいつぱいに使って挙動を確かめていく。

 ちゆうはなやかなひつさつわざとかも教えた方が喜んでくれるかと思ったのだが──、

 


「──こう、こう……。…………こうか……。ああ、はいはい……」

「──早いと、逆に出ない? ………じゃあおさえて……これぐらいか……」

「──これぐらいでも間に合う……。でも打つのと同時にガードは無理………なるほど……」


 


(な……何だこいつ。急に……?)


 一気にわったてんふんに、時雨しぐれは口をはさめなかった。

 さっきまでのさわがしさがうそのように静かで、いっそ不気味でさえある。ぶつぶつつぶやきながらおのれの動きをかくにんする様子は、歴戦の兵士がじゆうの部品を確かめているみたいで──、


「──おっけぇーい! 完・全・理・解!」


 急に元のやかましガールにもどった。寒暖差でを引きそうだ。

 てんは燃えるてつこうに包んだこぶしを、ぐっとにぎりしめる。


「じゃあぐれ兄、試合やろ!」

「え? でもまだひつさつわざとかの説明が──」

「いいから! ろうよ! 待ち切れん! 最低限はそろったってさっき言ってたしさ、」


 にーっとてんが笑う。


「あたしちよう強えから。この身一つで十分よ!」

「……なるほど。じゃあまあ、やってみるか」


 浅いうちに戦ってみるのもまたおつなものである。

 ここは打ち込みダミー代わりに練習相手になってやるかと考えていると、


「あっ、ぐれ兄。ちなみに手加減は禁止ね。本気でやってよ」

「は? 何言って──」

「──だってさあ、負けてから『本気じゃなかった』とか言い訳されてもえるじゃん?」


 てんがいつもの調子でにーっと笑う。

 あおっているような感じはない。自然体でそう思っている、という感じだ。


「身一つだけで俺に勝てると?」

「そだよ?」


 あっけらかんと返し、てんがにやりと笑う。


こわいなら、手加減してあげてもいいよ?」

「……なるほど。言うじゃないか」



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