VirtuaReality FighterZ ―空手王者がVR格ゲーに挑んだら?―

ROUND1:二十歳過ぎれば ⑤

 腹は立たない。どころかニヤニヤしてしまう。

 こんきよなき自信は若者の特権だ。昔の自分を思い出して、何だかまぶしい。


(……さて。実際、どうする?)


 ちたとはいえこちらはプロ。覚えたての初心者に本気なんて出せる訳がない。

 しかしぬるい接待はごめんだという気持ちも、かつて少年だった時雨しぐれには分かる──。


「よし、じゃあこうしよう。本気でやってもいいが条件がある」

「条件?」

「簡単だ。本気を出すに足る相手だ、って証明してくれ」


 まあ要は、と時雨しぐれが刀を構える。


「俺を楽しませてみろ、ってことだ」


 ──無理だろうけどな。

 そんな言葉が内心で続く。なぜならもう、長らくそんなしゆんかんに出会えてない。

 最後にゲームをして『楽しい』なんて思えたのは、いつのことだっただろう──。


「……あはっ。いいねえ、それ」


 てんが笑うと、けもののような犬歯がのぞいた。


「ひっさしぶりに熱くなれそう。いつ始める?」

「10秒後、ラウンドがタイムアウトになる。それで1─1になるから、最終ラウンドで勝負でどうだ?」

「分かった。……それじゃあ」


 てんが深々と礼をして、


「──お願いします」


 顔を上げるとみは消えていた。

 たいからすうっと力が落ちていき、反動でその場で二度ねる。

 ──とん、とん。

 てんが構えたそのしゆんかん

 死神にかたたたかれたように、時雨しぐれはだあわった。


(ッ──こいつ、やっぱりただものじゃない!)


 

【──FINAL ROUND……FIGHT!】

 


「──ァぁああああああ────────────ッ!!!」


 開幕そくてんのようなたけびを上げる。

 対戦かくとうゲームのわくみには存在しないしゆうに、時雨しぐれはいきなりきよかれた。

 そのいつしゆんぎつけて、きんきよ間合いにてんするどくステップイン。

 ぐっ──と体重を後ろ足にめて、


「おォォォ──────────りゃぁああああッ!!!」


 身体からだななめにかたむけ、きようれつな上段りをぶっ放した。

 キャノンほうのような勢い。もろにらった時雨しぐれび、ステージはし──後方限界のとうめいかべ身体からだしたたかに打ち付け、バウンドしてもどってくる。


(バカな……!? 【そくとうり】か!?)


 このゲームのしんおうとも呼ばれる裏要素──秘伝わざだ。教えてないのになぜてる!?

 こんわくしながら立ち上がる時雨しぐれに対し、てんは瞬時に前ステで間合いをめてくる。


(うお……速い!)

「──やあッ!」


 こぶしを打ち下ろしての追い打ちが起き上がりに重なる。

 時雨しぐれとつに下段ガードで受けようとするが──失敗。こぶしが「がすん!」とヒットする。


(っ……とくしゆ中段! だからなぜてる!?)

「まだまだ────っ!!!」


 右、左とこぶしいてそのままじくあしでくるりと回転、まわりにつなげる三連げき時雨しぐれにヒットする。つうじようわざからつうじようわざへとつながるとくしゆれんけい──ターゲットコンボと呼ばれるものだ。

 有力なれんけいなら、プロの時雨しぐれは全て覚えている。

 だが、こんなれんけいは一度も見たことがない。ゲームとしてはわざということだ。

 えてつには、コレクトなしの物理入力が必要。つまり──、


(こいつ……現実リアルで格ゲーと同じ動きしてんのか!? いつしゆんとかじゃなく、常に!?)

「もいっちょぉ!」


 もう一度、同じ打ち下ろし中段をてんけてくる。

 だがしろうとの同じわざを二度らえるほど、プロという人種は器用じゃない。

 てんこぶしが届くジャストのタイミングで、時雨しぐれは無意識でガードを入れた。

【──PERFECT!】

 こぶしを受けた刀の腹から青いせんこうが走り、世界が暗転。時間の流れがスロウになる。

 その演出時間を利用して、後方にてんを投げ飛ばした。


「ほわあっ!?」


 流石さすがにこのままついげきけるのは悪い。時雨しぐれはバクステしてきよを取る。


「わ、悪い。つい教えてないことを」

「ううん!? 全っ然イイ! ナニ今の!? ちようかっけえ! あたしにも教えて!?」

「これはジャストガードと言って──」


 二つのガードボタンを同時押しすると、ソウルガードというとくしゆガードができる。

 これは発動中ソウルゲージというリソースを消費するが、その間は上中下段全てのこうげきをガードできる。また、こうげきが当たるジャストタイミングで入力できると、さきほどのように暗転演出が入ってこうげきを切り返すことができるのだ。

 このぼうぎよシステムをジャストガードと言い、プレイヤー間ではぞくにジャスガと呼ばれる。


「ほうほう……ジャスガ!」

「取れたらちようおいしいぞ。かなり難しいが」

「えっ、何で? 丁度に押すだけなんでしょ?」

「いや。ジャスガの場合は、ボタンに合わせての物理ぼうぎよひつになるんだ」


 つうのガードなら、ボタンを押していれば勝手にゲーム上の身体からだが動いてさばいてくれる。

 だが、ジャスガを取りたいならそれだけじゃいけない。

 り下ろされてくるけん。飛んでくるたまあしもとを差してくるり。それらを現実でもさばきながらガードの入力を行う必要がある。


「つまりゲームと現実リアル、両方でかんぺきぼうぎよしないとジャスガは取れないんだ」

「うん…………うん?」


 てんがとぼけた顔で首をかしげる。


つうじゃない? 何がむずいの?」

「……言うなあお前」


 一回ちょっと分からせてやるか、という気持ちがかまくびをもたげる。


(強ダブふっかけてやろ)


 発生速度は19F(=約0・32秒)。プロでもねらって取れるのはひとにぎりの、大刀をもろり下ろす《紅炎竜クリムナス》の主力けんせいわざだ。

 これをフェイントをけつつ、まぐれではまず取れない実戦相当のタイミングでる。

 もしも言う通り簡単に、しかも初見で取れたらそれはちがいなく才能だ。

 少なくともちゆうちよなく、本気を見せてもいいほどの。


「さあ──楽しませてみろッ!」


 期待をせてけんこんいつてき時雨しぐれが重たくり下ろしたいちげき行方ゆくえは──、

 

【──PERFECT!】

 

 才能の煌めきのような閃光ひかりと共に、あざやかに受け止められた。


「ほーら。簡単じゃん?」

「……ははっ!」


 経験者が初心者のフリをしている訳じゃない。しようしんしようめいしろうとであることは、もろもろつたなさやステゴロ一本の戦い方を見れば明らかだ。

 しかし、このちようじん級の反射神経。コレクトなしでわざれるじようだんみたいな身体能力。

 そして何より、たいしているだけで伝わってくる、この歴戦の王者のごとき風格──。

 全てに説明が付く答えは、一体なんだ?

 

【──K.O!】【TENKA WIN!】

 


「おっしゃぁああ────っ!」


 ほのおたけらせ、のようにほうこうを上げるてん

 その姿を見て、童心に帰ったように胸が躍った。


「お前、何者だ?」


 こう心がおさえられない。

 こいつは絶対、ただものじゃない。


「空手やってたって言ってたな。一体どれぐらい強かった?」


 強いだろう。

 強ければいい。

 だって──その方がおもしろい。

 そんな時雨しぐれの期待に応えるかのように、


「全国大会、三れん!」


 逆さまにしたトリプルピースを示して、てんは笑った。

 


「──地上最強の女子高生、たけみやてん! よろしくっ!」


 


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