【──K.O!】【TENKA WIN!】
こうしてゲーセンで時雨と出会って、拳を交わしているのだから。
「まさに運命ってヤツだね? ぐれ兄っ!」
壮大なネタばらしを終えると、時雨はやられたと言いたげに頭を抱えた。
「……まさか観に来てたとは。じゃあ『このゲーム強い?』とか色々聞いてきたのは?」
「全部お芝居♪ プロって知ってた♪」
「何でそんなこと……。最初から言えばいいだろ」
「『ファンなんですう♡ ゲーム教えてくださーい♡』って?」
ふん、と纏火が鼻を鳴らす。
「やだね。それこそ噓になっちゃうじゃん!」
確かに昨日の試合は超感動したし、時雨をカッコいいとは思った。
でも観戦と勝負とは話が別である。
「あたしはね、握手して写真撮りたい訳じゃないの。本気のぐれ兄と戦いたいの!」
そのためには絶対、何も言わないほうがいい。
上も下も立場も何もない状態のまま、純粋な勝負を挑む形にしたほうがいい。
そのまま奇襲で腕の一本ぐらいもぎ取れたら、今度は逆に全部バラしちゃえ。
そしたら面子を潰された時雨はきっと、本気で殺しにくるはずだから。
(ぜーんぶ狙い通り!)
纏火は頭は良くない。
しかし自分の狙いを通すための嗅覚に関しては、空手時代から自信があった。
「で、も。見込み違いだったかな〜? あっという間に勝てちゃったしぃ〜?」
わざとらしく煽ってやる。するとそこは流石プロ。
「──まだ終わってない」
期待に応えて、食いついてくれた。
「言ったろ。『レジェⅣ』の基本ルールは2先。まだ一本取られただけだ」
「ふぅーん? じゃあ次は本気で戦ってくれんの?」
「……ああ」
時雨が、あのときみたいににやりと笑う。
「いいだろう。クソ楽しかったからな」
「へへへ。光栄──」
「だから」
時雨がぱちんと指を鳴らす。すると《紅炎竜》がふっと消え、
「──とっておきを見せてやる」
時雨の声音と眼の色が、氷のように冷たくなった。
(っ……!? 何か…………来るッ!?)
「──蘇れ。《蒼氷竜》!」
時雨が口上を詠む。
すると地から巨大な氷の柱が幾つも生えてきて、彼を包んだ。雄大な氷の華のようなそれが「ばりん!」と一斉に割れると、激しい吹雪が吹き荒れる。
その中からマントを靡かせて、鞘付きの刀を携えた時雨が再び姿を現した。
(氷の竜に、刀……!? 何これ知らねえ、昨日は出してなかったのに!?)
「さて。じゃあ、やるか」
時雨が半身になり、納刀したまま刀を構える。
「ああそうだ、先に言っとく」
「な、何?」
「お前はすぐに死ぬ」
地球は丸い、みたいに言われた。
「でもしょうがない。俺の方が強いからな」
「……あはっ♡」
こんな口叩かれるなんて何億年ぶりのことだろう。
最高すぎて脳がとろける。もうこれ以上我慢できない!
「やれるもんなら、やってみなっ!」
【──ROUND1……FIGHT!】
開幕、時雨が構えた刀を抜き放つ。
「──氷翔剣!」
すると大きな氷の刃が生成されて、纏火目がけて飛んできた。
(ぬげっ!? 飛び道具!?)
空手ではあり得ない攻撃だ。面食らう纏火に、更なる驚きが襲いかかる。
時雨がオーラを纏って、ぎゅん、と加速。氷刃を盾に走ってきた!
「ちょっ……!? 何これ、どっちを──」
──とんっ。
足下に違和感。
氷翔剣が到達するよりも先に、時雨の伸ばした脚が脛にヒットしていた。
そして氷翔剣も連続ヒットする。「痛っ!?」と反射で声が出た瞬間には、
「──ほら行くぞ?」
時雨は既に間合いを詰め、密着間合いで刀を振りかぶっていた。
斬り下ろす、薙ぎ払う、そして──、
「おらッ!」
身体をくるりと回して勢いを付けた斬り上げで、纏火を遥か上空に打ち上げた。
「のぎゃぁあああ──────っ!?」
絶叫マシンみたいな浮遊感。ただでさえ驚いたのに、
「こんにちは」
「ウワ──────っ!?!?!?」
このうえ時雨が飛んで上空まで追いかけてきたから、心臓が止まるかと思った。
いや──本当はもう、止まっていたのかもしれない。
続く時雨の動きに、纏火は声を出すこともできない。
「しッ──」
氷の吐息を皮切りに、時雨が空中で剣舞を始める。斬って、払って、薙いで、刺して。氷の刃を地上から呼んで、また打ち上げて斬り刻む。
それは纏火が人生で初めて喰らったコンボというものであり、
(……きれい。かっっっこいい……!)
このゲームで最も強く美しいと称される《蒼氷竜》の代名詞──空中剣舞だった。
それからしばらく記憶がない。
【──PERFECT K.O.!】【SHIGURE WIN!】
気が付けば纏火は地面に倒れていて、
「──ほら。すぐ死んだ」
喉元に刃を突きつけられていた。
ぽかんと口を開けていると、時雨が肩をすくめて笑った。
「何が起きたか全然分からん、って顔だな?」
纏火が首を縦に振りまくる。
「だろうな。でも、それにはちゃんと理由があって」
時雨が刀を鞘に収める。
「お前は『格闘』の達人だが、『格闘ゲーム』に関しては素人だ。だから何が何だか分からないんだ。人間、知らないものは見えないからな」
「『格闘』と『格闘ゲーム』って……そんな違うの?」
「違う。メロンとメロンパンぐらい違う」
だけど、と時雨が腕を組む。
「知らないものは覚えればいい。君ならきっとすぐに身につく」
「!」
「どうする? 天才」
悪戯を持ちかけるみたいに、時雨が笑う。
「教えてやろうか。『格闘ゲーム』」
「うんっ! 教えて教えて教えてっ!」
手を突かず、足の勢いだけで纏火が飛び起きる。
「そんで覚えたら、今度こそ勝つ!」
「はは、やれるもんなら。……じゃあ、やりながら教えるか。好きなように掛かってこい」
【──ROUND1……FIGHT!】
「──氷翔剣!」
まず試合が始まると、時雨がいきなり飛び道具を飛ばしてくる。
「氷翔剣」「氷翔剣」「氷翔剣!」
しかも連打。纏火はその場に釘付けにされ、ガードを固めるしかない。
現実だったら横に避けてるのに、このゲームには横軸がないからそれもできない。
「ねえ飛び道具卑怯!! 空手にはこんなの無いんですけど!?」
「格ゲーにはあるんだからしょうがないだろ。でも同じようにそっちも撃てるぞ」
「えっ、マジ?」
「必殺技ボタンがあるだろ? 【P】ならそれを押し込みながら物理入力だ」
打ち方を教わり、纏火は言われた通りにやってみる。
ぐっ、と拳を引いて、
「──紅蓮拳!」
叫びと共に拳を撃ち抜く。
すると火球が拳から出て飛んでいき、時雨の氷翔剣とぶつかり合って相殺した。
「おお……おおおー!? 超かっけえ!」
「これが必殺技ってやつだ。簡単なやつから覚えてけ」
「押忍っ! ……紅蓮拳! 紅蓮拳! ぐれんけーんっ!」
楽しくなって撃ち続ける。これだけでも超楽しい。
その様子を見て時雨は頷き、今度は弾を撃たずに纏火に近づいてきた。