VirtuaReality FighterZ ―空手王者がVR格ゲーに挑んだら?―

ROUND3:挑め、背水の逆転劇 ①

【──K.O!】【TENKA WIN!】

 

 こうしてゲーセンで時雨(しぐれ)と出会って、拳(こぶし)を交(か)わしているのだから。


「まさに運命ってヤツだね? ぐれ兄っ!」


 壮(そう)大(だい)なネタばらしを終えると、時雨(しぐれ)はやられたと言いたげに頭を抱(かか)えた。


「……まさか観(み)に来てたとは。じゃあ『このゲーム強い?』とか色々聞いてきたのは?」

「全部お芝(しば)居(い)♪ プロって知ってた♪」

「何でそんなこと……。最初から言えばいいだろ」

「『ファンなんですう♡ ゲーム教えてくださーい♡』って?」


 ふん、と纏(てん)火(か)が鼻を鳴らす。


「やだね。それこそ噓(うそ)になっちゃうじゃん!」


 確かに昨日の試合は超(ちよう)感動したし、時雨(しぐれ)をカッコいいとは思った。

 でも観(そ)戦(れ)と勝(こ)負(れ)とは話が別である。


「あたしはね、握(あく)手(しゆ)して写真撮(と)りたい訳じゃないの。本気のぐれ兄と戦いたいの!」


 そのためには絶対、何も言わないほうがいい。

 上も下も立場も何もない状態のまま、純(じゆん)粋(すい)な勝負を挑(いど)む形にしたほうがいい。

 そのまま奇(き)襲(しゆう)で腕(うで)の一本ぐらいもぎ取れたら、今度は逆に全部バラしちゃえ。

 そしたら面(メン)子(ツ)を潰(つぶ)された時雨(しぐれ)はきっと、本気で殺しにくるはずだから。


(ぜーんぶ狙(ねら)い通り!)


 纏(てん)火(か)は頭は良くない。

 しかし自分の狙(ねら)いを通すための嗅(きゆう)覚(かく)に関しては、空手時代から自信があった。


「で、も。見込み違(ちが)いだったかな〜? あっという間に勝てちゃったしぃ〜?」


 わざとらしく煽(あお)ってやる。するとそこは流石(さすが)プロ。


「──まだ終わってない」


 期待に応えて、食いついてくれた。


「言ったろ。『レジェⅣ』の基本ルールは2先。まだ一本取られただけだ」

「ふぅーん? じゃあ次は本気で戦ってくれんの?」

「……ああ」


 時雨(しぐれ)が、あのときみたいににやりと笑う。


「いいだろう。クソ楽しかったからな」

「へへへ。光栄──」

「だから」


 時雨(しぐれ)がぱちんと指を鳴らす。すると《紅炎竜(クリムナス)》がふっと消え、


「──とっておきを見せてやる」


 時雨(しぐれ)の声(こわ)音(ね)と眼(め)の色が、氷のように冷たくなった。


(っ……!? 何か…………来るッ!?)


 


「──蘇(よみがえ)れ。《蒼(レイ)氷(ヴア)竜(ンス)》!」


 

 時雨(しぐれ)が口上(コール)を詠(よ)む。

 すると地から巨(きよ)大(だい)な氷の柱が幾(いく)つも生えてきて、彼を包んだ。雄(ゆう)大(だい)な氷の華(はな)のようなそれが「ばりん!」と一(いつ)斉(せい)に割れると、激しい吹雪(ふぶき)が吹(ふ)き荒(あ)れる。

 その中からマントを靡(なび)かせて、鞘(さや)付きの刀を携(たずさ)えた時雨(しぐれ)が再び姿を現した。


(氷の竜(りゆう)に、刀……!? 何これ知らねえ、昨日は出してなかったのに!?)

「さて。じゃあ、やるか」


 時雨(しぐれ)が半身になり、納刀したまま刀を構える。


「ああそうだ、先に言っとく」

「な、何?」

「お前はすぐに死ぬ」


 地球は丸い、みたいに言われた。


「でもしょうがない。俺の方が強いからな」

「……あはっ♡」


 こんな口叩(たた)かれるなんて何億年ぶりのことだろう。

 最高すぎて脳がとろける。もうこれ以上我(が)慢(まん)できない!


「やれるもんなら、やってみなっ!」


 

【──ROUND1……FIGHT!】

 

 開幕、時雨(しぐれ)が構えた刀を抜(ぬ)き放(はな)つ。


「──氷(ひ)翔(しよう)剣(けん)!」


 すると大きな氷の刃(やいば)が生成されて、纏(てん)火(か)目がけて飛んできた。


(ぬげっ!? 飛び道具!?)


 空手ではあり得ない攻(こう)撃(げき)だ。面(めん)食(く)らう纏(てん)火(か)に、更(さら)なる驚(おどろ)きが襲(おそ)いかかる。

 時雨(しぐれ)がオーラを纏(まと)って、ぎゅん、と加速。氷(ひよう)刃(じん)を盾(たて)に走ってきた!


「ちょっ……!? 何これ、どっちを──」


 ──とんっ。

 足(あし)下(もと)に違(い)和(わ)感(かん)。

 氷(ひ)翔(しよう)剣(けん)が到(とう)達(たつ)するよりも先に、時雨(しぐれ)の伸(の)ばした脚(あし)が脛(すね)にヒットしていた。

 そして氷(ひ)翔(しよう)剣(けん)も連続ヒットする。「痛っ!?」と反射で声が出た瞬(しゆん)間(かん)には、


「──ほら行くぞ?」


 時雨(しぐれ)は既に間合いを詰(つ)め、密着間合いで刀を振(ふ)りかぶっていた。

 斬(き)り下ろす、薙(な)ぎ払(はら)う、そして──、


「おらッ!」


 身体(からだ)をくるりと回して勢いを付けた斬り上げで、纏(てん)火(か)を遥(はる)か上空に打ち上げた。


「のぎゃぁあああ──────っ!?」


 絶(ぜつ)叫(きよう)マシンみたいな浮(ふ)遊(ゆう)感。ただでさえ驚(おどろ)いたのに、


「こんにちは」

「ウワ──────っ!?!?!?」


 このうえ時雨(しぐれ)が飛んで上空まで追いかけてきたから、心臓が止まるかと思った。

 いや──本当はもう、止まっていたのかもしれない。

 続く時雨(しぐれ)の動きに、纏(てん)火(か)は声を出すこともできない。


「しッ──」


 氷の吐(と)息(いき)を皮切りに、時雨(しぐれ)が空中で剣(けん)舞(ぶ)を始める。斬(き)って、払(はら)って、薙(な)いで、刺(さ)して。氷の刃(やいば)を地上から呼んで、また打ち上げて斬(き)り刻む。

 それは纏(てん)火(か)が人生で初めて喰(く)らったコンボというものであり、


(……きれい。かっっっこいい……!)


 このゲームで最も強く美しいと称(しよう)される《蒼(レイ)氷(ヴア)竜(ンス)》の代名詞──空(エ)中(リ)剣(ア)舞(ル)だった。

 それからしばらく記(き)憶(おく)がない。

 

【──PERFECT K.O.!】【SHIGURE WIN!】

 

 気が付けば纏(てん)火(か)は地面に倒(たお)れていて、


「──ほら。すぐ死んだ」


 喉(のど)元(もと)に刃(やいば)を突(つ)きつけられていた。

 ぽかんと口を開けていると、時雨(しぐれ)が肩(かた)をすくめて笑った。


「何が起きたか全然分からん、って顔だな?」


 纏(てん)火(か)が首を縦に振(ふ)りまくる。


「だろうな。でも、それにはちゃんと理由があって」


 時雨(しぐれ)が刀を鞘(さや)に収める。


「お前は『格(かく)闘(とう)』の達人だが、『格(かく)闘(とう)ゲーム』に関しては素人だ。だから何が何だか分からないんだ。人間、知らないものは見えないからな」

「『格(かく)闘(とう)』と『格(かく)闘(とう)ゲーム』って……そんな違(ちが)うの?」

「違(ちが)う。メロンとメロンパンぐらい違(ちが)う」


 だけど、と時雨(しぐれ)が腕(うで)を組む。


「知らないものは覚えればいい。君ならきっとすぐに身につく」

「!」

「どうする? 天才」


 悪(いた)戯(ずら)を持ちかけるみたいに、時雨(しぐれ)が笑う。


「教えてやろうか。『格(かく)闘(とう)ゲーム』」

「うんっ! 教えて教えて教えてっ!」


 手を突かず、足の勢いだけで纏(てん)火(か)が飛び起きる。


「そんで覚えたら、今度こそ勝つ!」

「はは、やれるもんなら。……じゃあ、やりながら教えるか。好きなように掛(か)かってこい」


 

【──ROUND1……FIGHT!】

 


「──氷(ひ)翔(しよう)剣(けん)!」


 まず試合が始まると、時雨(しぐれ)がいきなり飛び道具を飛ばしてくる。


「氷(ひ)翔(しよう)剣(けん)」「氷(ひ)翔(しよう)剣(けん)」「氷(ひ)翔(しよう)剣(けん)!」


 しかも連打。纏(てん)火(か)はその場に釘(くぎ)付(づ)けにされ、ガードを固めるしかない。

 現実だったら横に避(よ)けてるのに、このゲームには横(よこ)軸(じく)がないからそれもできない。


「ねえ飛び道具卑(ひ)怯(きよう)!! 空手にはこんなの無いんですけど!?」

「格ゲーにはあるんだからしょうがないだろ。でも同じようにそっちも撃(う)てるぞ」

「えっ、マジ?」

「必(ひつ)殺(さつ)技(わざ)ボタンがあるだろ? 【P】ならそれを押し込みながら物理入力だ」


 打ち方を教わり、纏(てん)火(か)は言われた通りにやってみる。

 ぐっ、と拳(こぶし)を引いて、


「──紅(ぐ)蓮(れん)拳(けん)!」


 叫(さけ)びと共に拳(こぶし)を撃(う)ち抜(ぬ)く。

 すると火球が拳(こぶし)から出て飛んでいき、時雨(しぐれ)の氷(ひ)翔(しよう)剣(けん)とぶつかり合って相(そう)殺(さい)した。


「おお……おおおー!? 超(ちよう)かっけえ!」

「これが必(ひつ)殺(さつ)技(わざ)ってやつだ。簡単なやつから覚えてけ」

「押(お)忍(す)っ! ……紅(ぐ)蓮(れん)拳(けん)! 紅(ぐ)蓮(れん)拳(けん)! ぐれんけーんっ!」


 楽しくなって撃(う)ち続ける。これだけでも超(ちよう)楽しい。

 その様子を見て時雨(しぐれ)は頷(うなず)き、今度は弾(たま)を撃(う)たずに纏(てん)火(か)に近づいてきた。


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