【──K.O.!】【XENON WIN!】
そんな彼の猛攻を、最強の少年は凍えるような冷たさで捌いていく。
試合は終始目を覆いたくなるような一方的な展開で進行し、ついにマッチポイントに到達。
時雨の体力ゲージは、ついに風前の灯火となった。
(……ああ)
纏火の脳裏に、またあの全国決勝がフラッシュバックする。
もう誰にも期待できないんだと、戦いの炎が消えてしまった瞬間。
しかし、それを上書きしてくれる英雄みたいに時雨は笑った。
まるでこの絶望の淵を楽しむみたいに、にやり、と──。
「──っ」
見守る纏火が、対峙するゼノンが息を吞む。
その刹那、
──とんっ。
気圧されて下がったゼノンの足下に、虚を突く時雨の蹴りが刺さった。
〈うぉおお────っ!? 踏み込み中足ッ!〉《これしかなかった!》
〈決死のCダッシュ──コンボに繫いで! いや、しかし……!?〉
《まだ残りますね!》〈そうですね、倒し切りには足りな──〉
──ずどんッ!
〈《ああぁあぁああぁあああ─────────っ!?》〉
〈やりやがったッ! 補正切りッ!〉《神をも恐れぬ時雨の十八番! これは……!?》
『う、お、ぉおおおおおおらぁああああああ────────ッ!』
大剣と獄炎を絡めた重撃の乱舞を、時雨は死力を尽くして叩き込んでいく。地を這う竜──《紅炎竜》の力で繰り出される連撃は暴虐の権化で、優雅さとはかけ離れている。
だが、それゆえに勝利を掴み取る熱さと力強さに満ちていて。
その姿は眩い閃光のように、纏火の心に焼き付いた!
【──K.O.!】【SHIGURE WIN!】
〈ひっくり返したぁッ! 大逆転──────ッ!〉
〈時雨、執念の粘りでついに1ゲーム奪取! ゼノンの完全優勝に待ったを掛けた!〉
トドメを刺した時雨が、息も絶え絶えに立ち上がる。
今ので残れる全ての力を使い果たしただろう。誰の目にもそれは明らかだ。
『どう、した。……続けるぞ』
それでも、時雨は笑ってみせた。
『──俺はまだ、終わってない!』
最後の最後まで吠えて、戦い──そして散った。
結果だけ見れば時雨の惨敗だった。識者からすれば試合内容も悪かったという。
それでも、痺れるぐらい良かった。
呼吸が上手く出来ないぐらい、泣くのを止められなかった。
どうしてこんなに泣いているのか分からない。
だけど呪いが解けたみたいに、視界が澄み渡っていく。
あの日消えてしまった心の炎がめらめらと、再び燃え上がっていく──。
(あたしも戦りたい。あの人と……!)
門外漢とか関係ない。絶対戦りたい。すぐ戦りたい!
そう思った瞬間、纏火はハッと閃いた。
(あたしもVRFやればいいんじゃない?)
空手に燃え尽きちゃったなら、次は違う戦いの世界に挑めばよいのでは?
そんでまたイチから強くなって、今度は戦う側であそこに立てばいい。
そしたらあの『伝説の男』と戦える。
お礼代わりにこの拳を、直接ぶち込んでやれるハズ!
「きーめたっ!」
狩りに出る獅子のように、纏火の瞳が爛々と輝く。
追うべき獲物の姿と名前を、逃がさないように焼き付ける。
「ふっふっふ……。覚えたぞ、時雨」
首を洗って待ってろよ。今んとこあたしより強い奴。
たとえどれだけ時間が掛かったって。
必ず、お前に会いに行く!
人生ってたまに奇跡だな、と纏火は思う。
だって『どれだけ時間が掛かっても』なんて壮大な覚悟を決めた、その翌日──。