VirtuaReality FighterZ ―空手王者がVR格ゲーに挑んだら?―

ROUND2:Light My Fire ②

【──K.O.!】【XENON WIN!】

 そんな彼の猛(もう)攻(こう)を、最強の少年は凍(こご)えるような冷たさで捌(さば)いていく。

 試合は終始目を覆(おお)いたくなるような一方的な展開で進行し、ついにマッチポイントに到(とう)達(たつ)。

 時雨(しぐれ)の体力ゲージは、ついに風(ふう)前(ぜん)の灯(ともし)火(び)となった。


(……ああ)


 纏(てん)火(か)の脳(のう)裏(り)に、またあの全国決勝がフラッシュバックする。

 もう誰(だれ)にも期待できないんだと、戦いの炎(ほのお)が消えてしまった瞬(しゆん)間(かん)。

 しかし、それを上書きしてくれる英(えい)雄(ゆう)みたいに時雨(しぐれ)は笑った。

 まるでこの絶望の淵(ふち)を楽しむみたいに、にやり、と──。


「──っ」


 見守る纏(てん)火(か)が、対(たい)峙(じ)するゼノンが息を吞(の)む。

 その刹(せつ)那(な)、

 ──とんっ。

 気(け)圧(お)されて下がったゼノンの足(あし)下(もと)に、虚(きよ)を突(つ)く時雨(しぐれ)の蹴(け)りが刺(さ)さった。


〈うぉおお────っ!? 踏(ふ)み込み中(ちゆう)足(あし)ッ!〉《これしかなかった!》



〈決死のC(キヤンセル)ダッシュ──コンボに繫(つな)いで! いや、しかし……!?〉



《まだ残りますね!》〈そうですね、倒(リ)し(ー)切(サ)り(ル)には足りな──〉


 

 ──ずどんッ!

 


〈《ああぁあぁああぁあああ─────────っ!?》〉

〈やりやがったッ! 補正切りッ!〉《神をも恐(おそ)れぬ時雨(しぐれ)の十(お)八(は)番(こ)! これは……!?》



『う、お、ぉおおおおおおらぁああああああ────────ッ!』


 大剣と獄(ごく)炎(えん)を絡(から)めた重(じゆう)撃(げき)の乱(らん)舞(ぶ)を、時雨(しぐれ)は死力を尽(つ)くして叩(たた)き込んでいく。地を這(は)う竜(りゆう)──《紅炎竜(クリムナス)》の力で繰(く)り出(だ)される連(れん)撃(げき)は暴(ぼう)虐(ぎやく)の権(ごん)化(げ)で、優(ゆう)雅(が)さとはかけ離(はな)れている。

 だが、それゆえに勝利を掴(つか)み取(と)る熱さと力強さに満ちていて。

 その姿は眩(まばゆ)い閃(せん)光(こう)のように、纏(てん)火(か)の心に焼き付いた!

 

【──K.O.!】【SHIGURE WIN!】

 


〈ひっくり返したぁッ! 大逆転──────ッ!〉

〈時雨(しぐれ)、執(しゆう)念(ねん)の粘(ねば)りでついに1ゲーム奪(だつ)取(しゆ)! ゼノンの完全優勝に待(ま)ったを掛(か)けた!〉


 トドメを刺した時雨(しぐれ)が、息も絶え絶えに立ち上がる。

 今ので残れる全ての力を使い果たしただろう。誰(だれ)の目にもそれは明らかだ。


『どう、した。……続けるぞ』


 それでも、時雨(しぐれ)は笑ってみせた。


『──俺はまだ、終わってない!』


 最後の最後まで吠(ほ)えて、戦い──そして散った。

 結果だけ見れば時雨(しぐれ)の惨(ざん)敗(ぱい)だった。識者からすれば試合内容も悪かったという。

 それでも、痺(しび)れるぐらい良かった。

 呼吸が上(う)手(ま)く出来ないぐらい、泣くのを止められなかった。

 どうしてこんなに泣いているのか分からない。

 だけど呪(のろ)いが解けたみたいに、視界が澄(す)み渡(わた)っていく。

 あの日消えてしまった心の炎(ほのお)がめらめらと、再び燃え上がっていく──。


(あたしも戦(や)りたい。あの人と……!)


 門外漢とか関係ない。絶対戦(や)りたい。すぐ戦(や)りたい!

 そう思った瞬(しゆん)間(かん)、纏(てん)火(か)はハッと閃(ひらめ)いた。


(あたしもVRF(あれ)やればいいんじゃない?)


 空手に燃(も)え尽(つ)きちゃったなら、次は違(ちが)う戦いの世界に挑(いど)めばよいのでは?

 そんでまたイチから強くなって、今度は戦う側であそこに立てばいい。

 そしたらあの『伝説の男』と戦える。

 お礼代わりにこの拳(こぶし)を、直接ぶち込んでやれるハズ!


「きーめたっ!」


 狩(か)りに出る獅(し)子(し)のように、纏(てん)火(か)の瞳(ひとみ)が爛(らん)々(らん)と輝(かがや)く。

 追うべき獲(え)物(もの)の姿と名前を、逃(に)がさないように焼き付ける。


「ふっふっふ……。覚えたぞ、時雨(しぐれ)」


 首を洗って待ってろよ。今んとこあたしより強い奴(やつ)。

 たとえどれだけ時間が掛(か)かったって。

 必ず、お前に会いに行く!


 人生ってたまに奇(き)跡(せき)だな、と纏(てん)火(か)は思う。

 だって『どれだけ時間が掛(か)かっても』なんて壮(そう)大(だい)な覚(かく)悟(ご)を決めた、その翌日──。


刊行シリーズ

VirtuaReality FighterZII ―篝火を継ぐもの―の書影
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