VirtuaReality FighterZ ―空手王者がVR格ゲーに挑んだら?―

ROUND3:挑め、背水の逆転劇 ②

 少し歩いてガード。少し歩いてガード。少し歩いてガード……繰(く)り返(かえ)して、徐(じよ)々(じよ)に。


「『レジェⅣ』には横(よこ)軸(じく)が無いから、弾(たま)を『避(よ)ける』ってことができない。だから対処法は主に二つ。こうやって歩きガードでじりじり近づくか、」


 纏(てん)火(か)が続けて放った火球が、相手不在で空を切る。


「──こうやって、飛ぶかだ!」

「なぬーっ!?」


 弾(たま)に合わせて前ジャンプ──上空で一回転して勢いを付けた時雨(しぐれ)の刀が、脳天を叩(たた)いた。

 纏(てん)火(か)はくらっ、とその場でよろける。そのまま連(れん)撃(げき)で切り刻まれた。


「これがいわゆる飛び──ジャンプ攻(こう)撃(げき)だ。弾(たま)に嚙(か)み合(あ)わせられたらでかいコンボが入って、相手の体力の四分の一は持っていける。とても強い行動だ」

(そ、そっか。横はないけど上はあるのか……!)


 目からウロコだ。でも待てよ。


「あたし咄(とつ)嗟(さ)にガード入れてたよ?」

「ダメだ。格(かく)闘(とう)ゲームは技(わざ)を撃(う)った後に必ず『硬(こう)直(ちよく)』って隙(すき)が出来るようになっている。その間はどんな入力も受け付けない。つまりいかに相手の技(わざ)を空(す)かして、その隙(すき)にこっちの技(わざ)を叩(たた)き込むか、逆にいかに付け入る隙(すき)を与(あた)えないか。それがこのゲームの基本にして神(しん)髄(ずい)だ」

(な、なるほど……!)


 さっき戦ったとき、全然身体(からだ)が動けなくなって負けたのはそういうことだったのか。

 現実のように途(と)中(ちゆう)で引っ込めるワケにはいかない。もっと慎(しん)重(ちよう)に技(わざ)を振(ふ)らないと──なんて考えていたら、


「──ほれ、ほれ、ほれ、ほれっ」


 今度は時雨(しぐれ)がぴょんぴょん飛んできた。

 これが落とせない。殴(なぐ)り返そうとしても技(わざ)が潰(つぶ)れるし、ガードをしても硬(こう)直(ちよく)する。


「うざぁあああ────いっ!? 何これぇ!?」

「飛びは喰(く)らうと最悪。ガードしても相手が先に動ける。だからこそ強力な行動だ」

「そんなの一体どうすんの!?」

「対空必(ひつ)殺(さつ)技(わざ)で咎(とが)める。撃(う)ってみろ」


 纏(てん)火(か)が教わった通りに物理入力──、


「──焰(えん)昇(しよう)拳(けん)っ!」


 真上に飛び上がっての火(か)炎(えん)アッパーで、時雨(しぐれ)をぼこーんと叩(たた)き落(お)とした。


「わはーっ!? 気持ちイイー!」

「OK。そんな感じで相手が飛んだら落とせ。じゃないと一生舐(な)めた飛びを喰(く)らうぞ」

「押(お)忍(す)!」


 今度は弾(たま)と上空のやり取りは無しで、互(たが)いに地上から間合いを詰(つ)め合う。

 くいくい、と時雨(しぐれ)が指で招くので、


「──はあッ!」


 素(す)早(ばや)く中段蹴(げ)りを繰(く)り出(だ)す。が、上(う)手(ま)く腕(うで)で捌(さば)かれた。

 ならこのまま中段突(つ)きを追加で──、


「ほれっ」


 ざくん! と時雨(しぐれ)の刺(し)突(とつ)が腹に刺(さ)さる。


「痛ぁっ!? ちょっ……なんで出ないの!? あたしの中段突(つ)き!」

「言ったろ。硬(こう)直(ちよく)だ。技(わざ)撃(う)った後は固まるんだよ」

「あ……そっか」

「硬(こう)直(ちよく)は技(わざ)によって変わる。基本的に小(こ)振(ぶ)りの技(わざ)ほど短く、大(おお)振(ぶ)りの技(わざ)ほど長い。あとは例外(エラー)技(わざ)も死ぬほど隙(すき)がでかい」

「例外(エラー)技(わざ)って?」

「ゲームに想定されてない技(わざ)や連(れん)携(けい)のことだ」


 例えば今の中段蹴(げ)りなんかがそうだ、と時雨(しぐれ)が指(し)摘(てき)する。

 こんな技(わざ)は《焰王獅(エンリオス)》の通(つう)常(じよう)技(わざ)としてゲームに定義されてない。だから例外(エラー)技(わざ)と判定され、ガードされると大きな硬(こう)直(ちよく)ペナルティを負うことになってしまうのだ。


「ちゃんと補(コレ)正(クト)ボタンを押しながら技(わざ)を振(ふ)れ。そうすればちゃんとゲームの技(わざ)になる。最初は慣れないかもしれないが、やってるうちに元技(わざ)の綺(き)麗(れい)な省略動作が身についていく」

「おおお……!」


 基本の大(おお)振(ぶ)りの技(わざ)を元にして、実戦では省略した小(こ)振(ぶ)りの技(わざ)を当てに行く、なんて。


(まんま武道じゃーん!)

「続き行くぞ。自分と相手、技(わざ)の切れ目を意識して動け」「押(お)忍(す)っ!」


 激しい打ち合いが始まる。

 時雨(しぐれ)が突(つ)く。これを捌(さば)く。

 纏(てん)火(か)が蹴(け)る。躱(かわ)される。

 時雨(しぐれ)が払(はら)う。手(てつ)甲(こう)で受ける──。


(そっか。分かってきた……!)


 技(わざ)を撃(う)ち切ると硬(こう)直(ちよく)してしまうから、ガードされた場合は自分の攻(せ)め番がそこで終わる。

 今度は硬(こう)直(ちよく)目がけて相手が攻(せ)めてくるから、それをガードする守り番になる。

 で、守り切ったらまたこっちの攻(せ)め。守り。攻(せ)め。守り。攻(せ)め──。

 高速で切(き)り替(か)わる状(じよう)況(きよう)を把(は)握(あく)して動く纏(てん)火(か)に、時雨(しぐれ)は頷(うなず)く。


「分かってきたみたいだな。格(かく)闘(とう)ゲームの『高速ターン制』が」

「うん! ってか、守るのも気持ちイイこれ!」


 何ならガードをずっと続けてもいいかも、と纏(てん)火(か)がガードボタンを押しっぱにする。


(フッ……これってもしかして最強では?)


 そんなに甘くない。

 近づいてきた時雨(しぐれ)が纏(てん)火(か)の胸(むな)ぐらを掴(つか)んで氷漬(づ)けにし、ぽいっと投げた。


「ぎゃ────っ!?」

「ターン制に加えて、じゃんけんだ。『ガード』は『打(だ)撃(げき)』に勝てるが『投げ』に負ける。だが『投げ』はダメージが低い上に密着間合いである必要があるから、当てにいく前に『打(だ)撃(げき)』に潰(つぶ)される。相手の手を見て、読んで、自分の選(せん)択(たく)肢(し)を変えていくんだ」

「お……押(お)忍(す)!」

「じゃんけんに負けたら超(ちよう)有利状(じよう)況(きよう)で相手のターンだ。特にダウンして起きた後は暴れるな。不利フレではガードを固めろ。相手の起き攻(ぜ)めでめちゃくちゃにされて、さっきみたいに即(そく)死(し)だぞ。抗(あらが)うには逆(ぎやく)択(たく)もいいんだが──」


 時雨(しぐれ)が一気に加速して話す。

 が、纏(てん)火(か)は全く付いていけない。


(暴れる……ってなんじゃ? フリフレ? オキゼメ? ギャクタク……???)


 謎(なぞ)語のオンパレードに、両目が『?』マークになる。

 そんな纏(てん)火(か)の様子に時雨(しぐれ)も気付いて、


「あー……そうか。方言かこれ。ええっとだな……」と、困った顔で翻(ほん)訳(やく)しようとする。

 だけど、結局上(う)手(ま)くいかなかったらしい。


「──もういいっ! 後で別(べつ)途(と)教えるから、今は身体(からだ)で覚えろ!」

「……ふっ。あははっ! うん! そうする!」


 この人好きだな、と纏(てん)火(か)は笑う。


『伝説の男』とか呼ばれてるから取っ付きづらい人なのかな、なんて思ってたけど全然そんなことはない。初対面だなんて噓(うそ)みたい。

 まるで生き別れの兄に出会えたような親愛が、纏(てん)火(か)には芽生え始めていた。


「ねえぐれ兄」

「ん?」

「格(かく)闘(とう)ゲーム、めっっっちゃおもろいね! 超(ちよう)ワクワクするっ!」


 楽しくて仕方がないと、纏(てん)火(か)は無邪気に笑う。


「……ああ。そうだな」


 それを受ける時雨(しぐれ)は、同じようには笑わない。

 苦しそうな表情を、おそらく不器用な彼は隠(かく)すことができないでいる。


「──そうだったなあ……」


 しかしその複雑な表情は、決して悪いという訳でもなさそうで。

 最後の最後には、やっぱり同い年の少年みたいに笑ってくれた。


「面(おも)白(しろ)いよ。……一生、止(や)められないぐらいな」


☂


 ──見失っていた大切なことを、始まりの場所で思い出させてもらう。

 言葉にしてみるとコテコテすぎて、正直気(き)恥(は)ずかしいぐらいだ。

 だけど、来て良かった。初心を思い出せて良かった。

 纏(てん)火(か)にはもちろんだが、キッカケをくれた葉山には感謝の念に堪(た)えない。


(人の助言は、やっぱり聞いてみるもんだよなあ……)


 分かりきっていることなのに、大人になるとどうしてかそれが難しい。

 でも今夜ばかりは、少年の頃(ころ)に戻(もど)れた気分だった。


「──ぐれ兄。信号青だよ?」

「……ああ。すまん」


 助手席で前を指す纏(てん)火(か)に応えて、アクセルを踏(ふ)む。

 時雨(しぐれ)の愛車──スカイラインのヘッドライトが夜を裂(さ)き、車道を滑(すべ)るように動き出した。最近の車はすっかりEV化されているから、スポーツセダンでもエンジン音がまるでしない。

 その分纏(てん)火(か)がうるさいから、静かではないのだが。



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