A/Bエクストリーム CASE-314[エンペラー]

1 追憶 recollection ①

 弾丸のような、二つのしよう

 あいまいな明暗に行く手もかすむ空を貫く、二つの飛翔。

 位置を上下わずかにたがえ、はいえんも吐かず、ふんしやえんも引かず、ただばくしんする。

 二つの、死神のようにきつな、くろがねいろの強化服。

 無表情なめん、武骨な、大きく張り出した両肩、これ見よがしの武装……その全容は、腹につつを抱えて飛ぶ蝙蝠こうもりを思わせる。

 足下には、ゆるやかなわんきよく彼方かなたかくにびいろの装甲板がえんえん、大地にも似た存在感を持って広がっている。その装甲板の後ろに流れ行くさまが、死神たちに飛翔の恐ろしいまでの速度を実感させる。

 長時間、機能を全開にしたままの両肩の荷重力推進機プロペラント・プラスが悲鳴を上げている。

 身をまもる空力せいぎよバリヤも耐久許容限界ぎりぎりだ。

 張り詰めているものを眼前に置くかんしよくが背筋をこおらせ、ほおを熱くする。

 しかしその頭の中、戦いに必要な部分は、ようなまでにさえざえとしている。

 それぞれの意識に計器を溶け込ませた、本人にしか解けないパズルのような融合視界クロスサイトに灯るカウントが、ダウンしてゆく。


(3、2、)

(さーん、にーい、)


 強化服の腹にけられている〈ジャックポット〉大口径プラズマ火砲の長い筒先が、そろってひようてきの出現予定座標を指向している。


(1、)

(いち!)


 バゴッ、と片方の死神の腹から、エネルギーのせいをあげてプラズマが飛ぶ。


(0)


 一瞬遅れてもう片方の死神の腹からも、プラズマがはしる。

 はるか前方、装甲板がはじけて、中から『何か』が飛び出そうとする瞬間、

 先行したプラズマが、その『何か』をぶち抜いた。


「!キュキュキュ■≡ビュ!?」

『何か』が、機械の作動音をいくにも重ねたようなみみざわりなぜつきようをあげて、巨体をひねり出す。その瞬間、次のプラズマが当然のように、どでかい穴を空ける。


「・・■─・・・ギュ!」


 続けざまの砲撃に身をよじったその『何か』は、機械とも生物ともつかない奇怪な物体だった。コードやパイプに内臓を混ぜ合わせたかのような白っぽい体組織は、無機質特有のかわいたざらつきを持っているが、同時にやわらかくのたうってもいる。

 さらにようなのは、その怪物のどうたい(?)の先端に、金属製のがいこつが、しよつかくのように掲げられていることだった。

 それが、さっと巡って周囲の状況をつかむ……前に、すさまじい爆発が断続的に起こり、怪物はごうしようげきほんろうされた。

 それは、死神たちが通過のついでにばらまいた〈ホットビーンズ〉小型さんばくらいわざ

 怪物があげる三度目のぜつきようも届かない遠方で、死神たちはスラスター全開ふんしやちからわざで反転運動を行ない、ひようてきへのばくしんを再開する。

 その一つ、くろがねに青いラインと【B】の文字を刻んだ死神が、指向光通信ビームラインへいたんな声を送る。

《アンディ、も一つ》


《あい、さぁ!》


 黒金に赤いラインと【A】の文字を刻んだ、もう片方の死神・アンディが、こっちはせいよく返した。

 おのおの、〈ジャックポット〉の砲口を標的に指向させているが、装甲板のわんきよくに沿って飛んでいるため、まだしやかいは得られない。

 と、融合視界クロスサイト内に警報が走る。

【B】の死神は、軽く確認する。


(高熱源反応、誘導路は……正面)


 怪物の持つ熱線兵器のつつさきが自分たちに向けられている、ということだ。

 互いに射界を得た瞬間が勝負だ。

 アンディは苦笑した。


(ちっ、反転がちいと真正直すぎたか……しゃあねえ、回りこむのめんどうだしな!)


 思いつつ、大きく叫ぶ。


「ボギー!」


《ん》


 ボギーと呼ばれた【B】の死神は、必要最小限の声を指向光通信ビームラインで返し、ねんらす。


(……グン)


 思念が、空間を飛ぶ。

 互いが射界を得る、その瞬間に。


「・・・■≡ゴオアア!」


 怪物も金属の頭蓋骨から、ほうこうとともに真白い熱線を吐き出していた。

 が、その高熱のとうは、A/Bアンデイとボギーの、はるか頭上を通り過ぎただけだった。

 それは、熱線の放射源である金属の頭蓋骨が、

 グン、

 と半度ほど傾いた結果。

 特殊技能者レアタレントボギーの『精神力による物理かんしよう』、いわゆる念動力テレキネシスの発現だった。


「っただき!!」


 この間に、はずしようもない至近に迫っていたアンディが、トリガーを絞る。

 一撃、プラズマが金属のがいこつからどうたいまでをくししに焼き砕いた。

 まとわり付くプラズマのかけらを振り払って、二つの死神は大きく飛び上がった。

 アンディが強化服の中で一息ついた。

《ひゅーう、終わった終わった! 帰ろうぜ、ボ……》


《待った、てんだ》


《おぉっと!?》


 あいぼうの声にアンディはいきを飲み込み、融合視界クロスサイトの計器に意識を集中した。

 眼下、大地のように広大な装甲板の上で、極微のくうしんが起こっている。巨大なかすのようになった怪物のりんかくが、ぼやけ始めている。空間ジャンプ……転移の前兆だ。

 めかけた獲物を逃がすのは駆除屋エクスターミネーターはじだ。

 ボギーは空中に静止し、強く静かに、言う。

《止める……!》


 その語尾に力がこもった瞬間、怪物のぼやけた姿は、己をおおっていたあわをはじけさせられたように、とうとつに輪郭を取り戻した。

 一座標に完全固定した自身を震わせることで周囲に空間のひずみを生み、そこにすべり込む。これが判明している限りの……分かったような分からないような、転移の原理だ。この時空震を起こしている状態は、空間のひずみが壁となって、互いに何もできなくなるのだが、例外が一つだけある。

 つまり、ボギーの『精神力による物理干渉』、念動力テレキネシスだ。

 この力は、完全固定状態を揺るがし、時空震の発生要件を失わせ、くうかんりつを補正回復させるうんぬん……まあこれも要するに、転移をじやする、ということだ。

 ともかく今や、怪物の輪郭は元の存在感を持ってうずくまるのみ。

《お引き止め、どーも!》


 アンディはフェイスガードの下で大きく笑みを作った。特殊技能者レアタレントたる相棒のフォローは、いつもながらありがたい。


「ほいじゃま、改めまして盛大に!!」


 アンディは叫ぶや、逃走を封じられた怪物に向けて、右二の腕に外付けされたつつがたの簡易ランチャーから、クルミ大の砲弾を射出する。

 ボゴッ、と緊張感のない音とともに怪物にめりこんだ砲弾から、強酸化エチレンののうみつきりふんしやされる。その霧が怪物の体内から周囲をコンマ数秒で満たし、

 爆発!!


「ブラボー!」


 アンディはしようげきと高熱の中で消滅する怪物に、ひどく陽気なちようを投げ付けた。

 ふくれ上がる大火球を見るボギーは、わずかに首を振って、あきれた様子を示した。


「……〈パニッシャー〉気化燃料ほうだん……過剰サービスだ」

「なあに、〈ジャックポット〉でぶち抜かれてもてんしたがるような元気モンだ。過ぎたくらいがちょうどいいのさ」

天にも昇る気分ゴー・トウ・ヘブン、か」

「そーゆーこと」


 アンディはにやりと笑って返した。

 言い合う間にも、二人の両肩の荷重力推進機プロペラント・プラスは、運動状態を『上昇』に変えている。

 低速で舞い上がる彼らの周囲には景色がなく、ただ無機質な薄明かりが空間を満たしている。その不思議な眺めが、じわじわと先細りするような奇妙な圧迫感を増していく……と、やがて複雑な光の乱反射が、その圧迫感のしようたいを視覚の中に現した。