A/Bエクストリーム CASE-314[エンペラー]
1 追憶 recollection ④
その男の、伸びのあるいい声が、机の前に突っ立つ二人組にかけられた。
「アンディ君、ボギー君」
「なんでしょー、社長」
「はい」
世間に出ているほぼ全員が、自分なりの
その望む居場所を得るため、人は能力と同等に、あるいは以上に、人格の確立……つまり、どれだけ人間ができているか、を求められている。
こんな社会で生きる者の中には、妙なこなれ具合を見せる人間が、たまにいる。
社員七名、超零細ながら
この、スーツを上品に着こなす四十がらみの
「キット君の報告書と軍港司令部からの事後通達に、
「見事なもんでしょ?」
「任務は
教育方法の超効率化によって高等専門知識を得ることが
この、風格を漂わせる骨太な
「たしかに、見事に、完遂しているもぐ」
もぐ、というのは、ディビジョンが伊勢エビの
ディビジョンはエビをうまそうに飲み込むと、
さて、と再び切り出す。軽い口調で、遠回しに。
「参考までにきくが、重航宙母艦
「伊勢エビとようかんは合わないんでは?」
「そのようかん、僕らに出されるときの倍は厚いです」
沈黙。
ディビジョンは、特にめげたりひるんだりする様子も見せず、続けた。
「君たち二人を、軍の札付き部隊や、とても名前を明かせないような非合法組織から引き抜いた私の判断は、間違っていないと思う」
たまたま出た話題に、A/Bは横目で視線を合わせ、また
「はいまったくそのとーりです」
「自分の
「いや、私の判断は、神も運命も超える宇宙の絶対意志だ」
また、沈黙。
二人が
「間違っていないとは思うが、今週の黒字は……どれくらいだね、エリー君?」
ディビジョンの右後方に控える社長付き秘書(といっても秘書を付けているのは社長だけだが)、エリーこと『エレメント』は、たしかに美人の秘書だが、そうくくられる人種には珍しい、気さくで
その微笑を社長に向けて、エリーは答える。
「はい。この一週間十八件の総計、諸経費差し引きで……今、社長がお飲みになられている
「番茶に切り替えようか」
「はい。[せみ屋]のバーゲン品がストックしてありますから、今日からでも」
「いや、せめて残り全部使ってからにしよう」
「はい。残りあと五杯分ほどです」
「昼食時だけに出してくれたまえ。そうすれば五日……」
ボギーが、だらだらと続く間の抜けた会話を
「社長、茶飲みついででいいですから、話の続きを頼みます」
「ああ、そうだね……それで、だ。いかに黒字とはいえ、その程度では我が社は立ち行かない、ということだ」
ディビジョンは
「ふ~っ。今の所は、とある方法で当座の経費を
「……とある方法?」
ボギーの質問は無視された。
「それでなくても、社の運営、機体の整備、私の快適性追求、弾薬の補給などの経費は、突然どこで跳ね上がるか分からない流動的なものだ。今回のようにぎりぎりの稼ぎばかりでは、非常にまずいのだよ」
「なんか、変な項目が混じってませんでしたか?」
アンディの質問も無視された。
「そこでだ。たった今、少々ナイスな依頼があってね。受けるべきか迷ったのだが」
ボギーが
「迷うほどならやめましょう」
「いや、迷いは提示された
アンディが、
「ちり紙、って……
「二枚一組だ。いい例えだろう?」
さらに沈黙。
数秒の静止を経て、またまたディビジョンが口を開く。今度は分厚いようかんを
「ともかく、
ボギーは
「……物騒で危険? さっきはナイスとか言って……」
「
『たった今、少々ナイスな依頼があってね』
とアンディが何食わぬ顔で内蔵のレコーダーで再生したが、ディビジョンは、にっこり笑って、一言。
「
『~ナイスな依頼ブツッ』
「その昔、『こたつこそ至高の安らぎ』という名言を吐いたネコがいたのだ」
とアンディは言った。
「その偉大なるネコ氏に敬意を表して、
つまりは冬の地上社屋待機室にこたつを持ち込むための
今そのこたつは、壁掛けスクリーンを見入る社員たちによって埋められている。
スクリーンには、この日最後の獲物……金属の
「これだ、とっつぁん……どっかから取り込んだんだと思うんだけど、どうだい」
上下ジャージに水玉どてらという生活感あふれる
画面が頭蓋骨のアップで止まった。画像が修正され、
「ほほう……
画面の
コードネーム『フォートラン』、通称とっつぁん。今時珍しい機械そのものの体でいるのには、何か深い訳があるらしいのだが、この社における通例として、



