叛逆せよ! 英雄、転じて邪神騎士

一章 その後の勇者たち ⑤

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 では、『ジャックというめいを使っているギュネイ』をからかっているひげの男は何者か。

 かれこそ、〈運命の勇士〉アレフたち一行が『ミルド人たちの墓所』にて出会い、それから行動をともにすることとなった〈けんじや〉ケイオロスだった。

 そう、いまや生ける伝説といっていい、じやあくな神をった六えいゆうのうち二人までもが、この安酒場に顔を出しているということになる。

 笑い話にもならない。

 ここで『ジャック』が「われこそが〈りゆう戦士〉ギュネイ」などと名乗ったところで、っぱらいのたわごとだと無視されるか、笑われるだけだろう。悪ければふくろだたきにあいかねない。

 ケイオロスは改めて、半ばねむそうにしているギュネイの顔をとくと見つめた。

 貴公子などとはとんでもない。まず、生まれはこことそう大差ないザッハの田舎いなか村だ。実は名の知れた貴族の落としだね、ということもない。いっさい。

 つづいて見た目。おとことはいわないものの、えいゆう物語を読んだり聞いたりしたあとどこに入った婦女子がたが、そのがおを想像してうっとりとため息をらすたぐいの美青年でもない。決して。

 えいゆう伝説にて語られるギュネイは、一行のまとめ役のように語られることが多いが、それもとんでもない。かれはわずか十九さい。一行のなかでも、〈運命の勇士〉アレフに次いで若い。

 現在、きこりや石切り、石運びでぜにかせいでいるというが、確かに、『聖なるやりを手にして世界を救うべくじやしんと戦う』というよりも、そうした労働に従事している姿のほうがよほどしっくりくる。つまりは、その辺の村々を出歩けばどこでだって出会いそうな若者ということだ。

 が、それをいうなら、ケイオロスだって〈けんじや〉の二つ名はいかにも似つかわしくない。

 だらしない姿勢でこしけて、エールをぐびぐびあおりながら、時たまずねいている。

 この男、〈けんじや〉と持ちあげられる以前も、〈大じゆつ師〉〈神をあざむいんじや〉〈あくつかい〉などと様々な異名で呼ばれていた。見た目に反して、すさまじいじゆつの使い手であることは、いまも高らかに歌いあげられているえいゆう物語にあるとおり。

 が、物語というものはどうしてもひれがついてまわるものらしく、ケイオロスがじゆうの大群と戦った際、さっと手をりかざすと晴天を二つにくようないなずまを呼び出した──というひと節を耳にして、


「晴天からいなずまを呼び出すのは骨が折れるな」


 とこぼした。ジャック──というめいを使ったギュネイが、からかわれていたはんげきとばかりに口を出す。


「さすがの〈けんじや〉さまにも無理ってこと?」

「無理とはいわんまでも、確実に寿じゆみようは縮まるだろうな」


 ケイオロスはかたほおゆがめた。笑うと、どんな感情に起因するものであれ、おしなべてせせら笑いに見えるのがこの男だ。


じゆつの発動とは、おのれの意志で世界をえるということだ。らいうんがすでにあるならそれを借りることもできるが、まず晴天にらいうんを呼び出すところからはじめるのでは、消費する力も大きく異なってくる。この場合の力とは、『意志の力』だ。人を人たらしめているもっとも大きな要素。人によってはそれがりよくでありマナであるともいう。これを消費していく意味、ほうの産物ガイフレイムを着ていたおまえにもわかるだろう」

「確かにあのよろいを着ていると、体力とはちがうものをうばわれていく感じはしていた。もし、がなくなってしまったらどうなるんだろう、ってこわくもあったよ」

「意志の力をきたえればじゆつもまたきたえられる。だからおれとて常に新たな知識を求めては、その都度さくはげんでおるのだよ。おまえたちにさそわれてあれを出たときは、時間のになるのもかくしていたが、今回の旅は存外、いいしゆぎようになった。いままで考えつきもしなかったさくのネタが山ほど見つかった。たとえば、ランドールの大司教ハーディンだ。彼奴きやつたいの悪人として後世までかたがれるだろうが、しかし、やらんとしていたこと、実際に半ばほどまでは成功していたあの計画は、このケイオロスをもってしてもぼうぐしかないというくらいのものだ。あれは、ひょっとしたらじゆつそのものの歴史をえるかもしれん」


 ケイオロスの声に熱がこもりはじめた。長話になる兆候だ。ギュネイは意識して話題を遠ざけねばならなかった。


「話が見えてきたよ、ケイオロス。旅で得た大量のネタと、だつぼうもののひらめきを整理するため、これからまた山だかあれだか、とにかく人が寄りつかないような場所にいって、さくにふけろうっていうんだろ。あんたはいつもそうしたがっていたから」

「うむ」いかにも物足りなさそうにケイオロスはうなずいた。「今回の旅で得たさくの山に答えを出すにはぼうだいな時間が必要になるだろうからな。山にこもってひとりかんがく前に、一応は『仲間』であったおまえらの顔を見ておこうと思ったのだよ」


 ケイオロスは酒の追加をたのもうとしたが、それを見つけた『ギュネイ』──こちらはよろいかぶとにせもの──に先手を打たれてしまった。どうあっても今日の酒は自分のおごりにしたいらしい。


「顔を見ておこうもなにも、アレフたちはまだ帰っていないはずだろ。あいつらがもどってきてからじゃだったの?」

「そう、アレフ、ジューザ、アー・シェの三人は、いまだ〈氷雪の三つ目谷〉へおもむじようだ。同行させた使い魔にれんらくを入れさせているんだが、そのときの思念の交流をかいして、いくらかアレフたちとも言葉をわせた。そろそろ目的地に着くころだそうだ」


 六えいゆうのうち、いま名前のあがった三人は、じやしんとうばつが成功した直後、なんとしてでも真っ先にえいゆうたちをかんたいしようともくろむ諸国の包囲もうをかいくぐってまで、すぐさまランドールを北上、アルギアのてた国土を経て、さらにはエレィノア国の北、アムシェイかいきようわたっていった。その理由は『仲間』たちにしか知らされていない。