叛逆せよ! 英雄、転じて邪神騎士

一章 その後の勇者たち ⑦

「だから、戦いが好きじゃないんだって。おれが戦う目的はずっとひとつだけだった。ランドールを地上から消し去ること。そのために戦って戦って戦いすぎて、胃がもたれそうなくらいなんだ。これ以上戦うとげっぷが出ちゃう。。あ、ほら出た、そら出た」


 ギュネイは赤い顔をしてけらけらと笑った。ケイオロスはたんそくして、


「好きとかぎらいとかじゃねえ。おまえはいずれせんたくせまられる。そしてせんたくをしている自分自身をものろうことになるだろうさ」

「ふうん」


 ギュネイはもうまったく聞いていない。ケイオロスは息をつきながら背中を反らそうとして、あわやから転げ落ちそうになった。背もたれがあると誤解してしまったのだ。ギュネイはそればかりはのがさず、けたたましく笑った。


「山やらどうくつやらあれやら、大地をしとねにしてきた〈けんじや〉さまも、ごうせいな生活に慣れちゃったんじゃないの。おうこう貴族のかんたいを受けつづけたのはあんたひとりだったもんな」

「ゆえあってのことだぜ」


 ケイオロスはぎろっと若者をにらみすえた。よく他人をからかうくせに、自分が笑われた場合は割と本気で気分を害する。


「いったんはほろびたこのザッハのためだ。おれが新王をいださずば、勝手に王族のまつえいを名乗るようなやからや、家臣残党の集団が、ふたたびこの地を戦場にしていたろうよ。……まったく、なんでおれがえんもゆかりもないこの国のためなんぞにほんそうせねばならんかったのだ」

「ごめん、悪かった。感謝してます」

「言葉には価値と意味がずいするものだ。いまの言葉には二つとも欠けておるわな」

「新王さまは愛されているよ。連日、各地にしよくりようや物資を届けているから。たちもけんして治安にも気を配っている。おかげで、おれだってこうして酒を飲めるわけだし」


 現在、ザッハ国の玉座にいるのは、ランドール兵に殺された先代王が、かつてきゆうていで下働きをしていた女性に産ませた子だった。幼いころ、おうのたくらみで、母親もろとも王宮から追い出されており、都からはなれて暮らしていたのをケイオロスが苦労して捜し出すと、六えいゆうをもって、家臣団にはもいわせず新王の座につけた。


「さっき、『ふんくさい』とかいわれてやがったな」ケイオロスはげんをなおしてくっくっと笑った。「あやつは、馬具職人であって、馬の世話をしていたわけではないんだが。まあ、人の話ってのは過程であれやこれやとねじまがるものだ。おれらがいちばんよく知っている」

「馬具職人がよく王として受け入れられたなあ」

「貴族たちにそんな順応性があるかよ。おれが十分おどしつけておいただけのことだ。もしも新王に歯向かったら、『晴天からいなずまを呼んで』くろげにしてやる、ってな。まあ、いまのところはそれでいい。問題は新王その人にある。口説き落として玉座にえたはいいが、とことん欲のない男でな、『自分はあくまで国の混乱をおさめる役まわり。勇士アレフさまがザッハへお帰りになったら、かのお方をこそ王としてむかえたい。じやしんったえいゆうならば、自分を筆頭に、みなも喜んで仕えるであろう』なんていってやがる。あれが承知するとも思えんが」


 ギュネイは、かつて旅の仲間だったアレフがおうかんをかぶっている姿を想像してした。旅をはじめたときはわずか十五さいの少年だった。もくしゆうれいで、またあまりに大人しかったこともあって最初は女の子とまちがえたくらいだ。それがいまやえいゆうたちの筆頭格。その成長ぶりと、実力、たんりよくはギュネイも認めるものの、まだ旅をはじめた当初、おどおどして泣き虫だったころの印象がどうしてもぬぐえない。


「あいつが王ね。村祭りで、子供たちがやっているしばみたいだな。似合いそうもない」

「……同じザッハの出で、しかもえいゆうというなら」


 ケイオロスの大きな目が正面からえてきたので、ギュネイは大急ぎで首を左右にる。


「おれのほうこそ、似合うわけないだろ」

「いっそのこと、ずっとガイフレイムを装着しておけばいい。げんは十分だ。ザッハ国新王ギュネイ。いいひびきじゃないかよ。それに」

「へえ。それに?」


 悪いじようだんにはつきあいきれない、という顔をしていたギュネイだったが、


「一国の王ともなれば、エリシスともりあいが取れる」


 ケイオロスのその言葉に、いつしゆん真顔になった。〈けんじや〉はひとつたんそくして、


「いくらいんじやとて、若い二人の心を読み取れないほど鹿じゃねえ。この戦いが終われば、二人はごく自然の流れに乗って、ともに暮らすようになるのだろう、とおれは思っていた」

「それこそ鹿だ。エリシスはエレィノアのおひめさまだよ。おれとは身分がちがいすぎる」

「だからこそのザッハの玉座よ」

鹿いうなって」

「ここに来る前に〈純潔の聖女〉の顔も見てきた。あのむすめも気苦労が絶えんようだぞ。エレィノア国はランドールとのいくさがはじまる前から王家と教会の仲が悪かった。そのはしわたしにならんとしている。いったんは教会から『たん者』となじられ、王家からも半ば追放された身でありながらな。その助けになってやろうとは思わんか」

「おれが? ただの大工の息子むすこで、一度はさんぞくの手下にまでなっていた。旅人をおどして金をむしりとって、護衛役をって殺したことだってある。そういうの、悪党っていうんだよ」

「大工の息子むすこで、悪党だったその男が、ランドールをとうばつしたではないか」

「敵にけんるのと、王家と教会のいたばさみにあう女の子を支えるのはわけがちがうだろ」

「難しいことを考えるな。ただ近くにいさえすればそれでいいだろうが」

「それでいいわけがない。そんな単純じゃない。あんたがいうな、なにも知らないくせに」


 ギュネイは気色ばんだ。かれが感情的になるところを見た人間など、この村ではかいだろう。ケイオロスはなおも口を開こうとしたが、首を一度ひねることで自身の言葉をふうじた。

 ギュネイもふっと力をいて、きたないテーブルにったほおしつけた。


「なあ、〈けんじや〉さま、ほう使つかい、教会の敵。エリシスがよくいっていた、しんたくだの、宿命だの、運命だのは、おれにはよくわからない。自分が本当にそんなものに選ばれたかどうかなんていまだにわからないんだよ。神さまに直接『おまえに決めた』なんていわれたわけじゃないから。おれは──、おれは、ただ、ランドールを許せなかった。おれの親友をいけにえにして、おれの故郷を火で焼いたやつらを、そのままにはしておけなかった。自分の力で国ひとつをほろぼせるなんて信じてたわけじゃない。ただ、じっとしていられなかった。ひとりでも多くのランドール兵を殺さなけりゃ気が済まなかった。それだけだった」


 詩人の歌と、すいかんたちのあげるごえが不思議と遠い。


「だけど、アレフは……そう、泣き虫で、おくびようだったあいつが、気がつけば一行のリーダーになって、だれよりも先を歩き、おれたちを先導していた。いつからだろう、あいつの背中についていけばまちがいないんじゃないか、それが運命なんじゃないか、とも思うようになった。あいつこそ神に選ばれた本物の〈勇士〉だよ。そいつの背中を守りながらおれが戦うことだって、ひょっとしたらアレフの運命にまつわる予言書のかたはしにでも小さく書いてあったのかもしれない。ケイオロス、あんたやジューザだってそうさ。おれたちは確かに導かれた。だけど」


 何度目かのをひとつはさんでつづけた。