先生、今日から同い年ですね?

実験三『経過観察ですから!』 ③

 くすりの言葉の意味はよくわからなかったが、女性は男性と違っていろいろあるのかもしれない。そう思って頷く。


「ち、ちなみにサイズとか……その……どれくらい……」

「サイズ? まあ、これくらいか?」


 あの店の看板メニュー、ドデカツサンドのだいたいの大きさを手で表現すると、くすりは「そ、そんなに!?」と小さく悲鳴を上げた。


「別に(腹に)入りそうにないなら無理しなくても……」

「い、いいえ! せっかく悟くんがお誘いしてくれたんだから……が、頑張ります!」


 そうしてくすりは、覚悟を決めたようにコンビニへと入っていった。



 時間はほんのちょっと遡る。

 悟コーディネートの服に身を包んでご機嫌だったくすりは、進行方向にとある看板を見つけた。

 喫茶店──のさらに奥。『ホテル ハッピーメディシン』……いわゆるラブホテルである。


「……あう」


 大好きな異性とのデート中にああいうのを見てしまうと、ちょっぴり変な空気になってしまう。

 とはいえ自分の目標は先生のお嫁さんになること。大人になったらいずれああいうところにも……と考えていたその時だ。


「す、少し休憩しないかっ!?」


 ちょっと裏返った声で、悟がそんなことを言ってきたのだ。思わず変な悲鳴を上げてしまう。


「きゅ、きゅうけい、ですかっ!?」

「ああ、駄目か?」

「い、いえ全然駄目じゃないです! 駄目じゃないですけど……こ、心の準備が……」

「心の準備? ああ、くすりは初めてか」


 小さく頷くと、悟は安心させるように微笑んだ。


「大丈夫だ。俺が教えてやるから」

「は、はい……っ」


 自分はこんなにもガッチガチなのに悟からは余裕を感じられる。これが大人の余裕というやつなのだろうか?

 なんだか過呼吸でも起こしちゃいそうだったが必死に平静を装う。変に心配されて『やっぱりやめよう』なんて言われたらたまらない。

 大丈夫、こういうケースもちゃんとシミュレートしてきた。メモ帳を開いてこういう時の対策に目を通す。


(まずはその……ゴ、ゴム的なものを準備しないと駄目ですよね!?)


 ちょうどすぐそこにコンビニがあった。


「あ、あの、ちょっとコンビニ寄ってもいいですか? じゅ、じゅんびとか、しないとだめですし……」

「準備? まあ、いいが」

「ち、ちなみにサイズとか……その……どれくらい……」

「サイズ? まあ、これくらいか?」


 ──悟が手で示したサイズは、想像より二回りぐらい大きかった。思わず「そ、そんなに!?」と悲鳴を上げてしまう。


「別に入りそうにないなら無理しなくても……」

「い、いいえ! せっかく悟くんがお誘いしてくれたんだから……が、頑張ります!」


 叫ぶようにそう言って、くすりはコンビニに入る。


(うにゃああああああ!? どうしようどうしよう!? 先生にホテルに誘われちゃったよおおおおお!?)


 コンビニに入ったくすりはもう茹だった蛸のように真っ赤になって心の中で叫んでいた。


(お、落ち着くんです薬師寺くすり! これは私のアプローチが上手くいったということ! 大勝利まであと一歩! あとは先生とき、既成事実さえ作っちゃえば……!)


 ふらふらした足取りで、普段なら早足で通り過ぎる商品棚に向かう。どれがいいかわからなかったけど、とりあえず0.01ミリと書かれた一番大きいサイズのを買う。

 レジ係は幸い、大学生ぐらいの女の人だった。


「こ、これ……おねがいします……」

「はい、ありがとうございます〜」


 お姉さんはそう言ってバーコードを読み取る時、チラッとくすりを見た。

 見るからに緊張でガチガチで、顔を真っ赤にしながら0.01ミリと書かれた箱を買うくすり。店の外には恋人と思われる男子。

 まるで『がんばってね』とでも言うようにくすりの目を見て僅かに笑みを浮かべる。

 それがもう恥ずかしくてたまらなくて、くすりは商品を受け取ると逃げるようにコンビニを出た。


「おう、用事はすんだか?」

「は、はいっ」


 とりあえず買ったものはカバンの一番奥に押し込んでおく。


「あの、あの、私はじめてで……わからないことばっかりだけど、よろしくおねがいします……」

「ああ、まあそんな気負わず楽しめばいいから」

「はい……」


 胸に手を当てる。緊張しないなんて無理。だって初めてで、相手は長年想いを寄せていた先生なのだ。


(つ、ついに私も大人の階段を上がるんですね…………)


 不安と期待に胸を高鳴らせつつそっと悟に腕を絡める。そのまま覚悟を決めて、くすりは悟についていくのであった。