先生、今日から同い年ですね?
実験四『覚悟してください!』 ②
くすりは興奮で肩を上下させながら息をしている。対する悟は圧倒されて言葉が出てこない。
「こほん……ま、まあ。俺のことを好きだって気持ちはちゃんと伝わった。……うん、変なことを言ってすまなかった」
「……わ、わかってくれればいいんです」
冷静になったのかくすりは頰を染めながらそっと腰を下ろした。周りからの視線にややバツが悪そうにホットミルクをすする。
「でもな。いくらなんでも薬を盛るのは駄目だろ」
「あぅ」
くすりは小さく声を漏らし、しゅんと肩を落とす。
「わ、私だって最初は同意を取ってからと思ってたんですよ? で、でもフラれてちょっと感情的になったといいますか……あのままだと先生、私の気持ちに応えてくれそうになかったし……」
「恋愛感情そのものは悪くない。だが、それを理由に何をしても許されるわけじゃない。……わかるな?」
「うぅ、はい……」
小さくなったくすりは、おずおずと悟の顔色をうかがう。
「あの、先生……怒ってますか?」
おそるおそる尋ねるくすりに、悟はふっとため息をついた。
「怒ってはいないよ」
「ほ、本当ですか?」
「ああ本当だ。薬を盛ったことは悪いことだから叱る。だが正直なところ、こうやって若返ったのは貴重な体験だと思ってる」
その言葉にくすりの目がぱっと輝く。顔を綻ばせて嬉しそうに身を乗り出す。
「えへへっ、それじゃあ──」
「しかし、だ」
悟は手を上げ、くすりの言葉を遮った。
「〝私〟は君と恋愛関係になるつもりはない。倫理的にもそうだし、なにより──教師として、生徒とそういう関係になるのは私の矜持に反する」
ピシャリと線を引く。その言葉にくすりの笑顔が少しだけ陰る。
けれどすぐにまっすぐ悟を見返して言った。
「わかってます。先生のそういうところも私、大好きなんですから」
そう言って、くすりは一語一語を嚙み締めるように続ける。
「……けど、ごめんなさい。私は諦めません。先生に好きになってもらえるならなんだってします。先生以上の人なんて、想像もできませんから」
くすりはそう言って、ビシッと指を突きつけた。
「だから覚悟してください! 絶対に先生の矜持をへし折って、私にメロメロにさせちゃいますからね!」
そうしてあらためて、悟はくすりの宣戦布告を受けたのだった。
夜──。
静まり返った部屋の天井を見つめながら、悟は今日一日を振り返っていた。
(……何だかんだ、楽しかったな)
新しい生活。くすりとのデート。それに……あの宣言。
『絶対に先生の矜持をへし折って、私にメロメロにさせちゃいますからね!』
その言葉が脳裏によみがえった瞬間、頰がほんのりと熱を帯びるのを感じた。
(くそ、こんなことで動揺するとは……)
……正直に言って、くすりは魅力的な異性だと思う。
容姿もさることながら、その健気さや一途さ。自分を心から慕ってくれる気持ち、全部が愛おしい。
もしも本当に自分がくすりの同級生だったなら、もしかしたら自分から告白していたかもしれない。
だが──自分は教師だ。
教育者として生徒を導き、そして見送る立場にある。たとえどんなに惹かれることがあっても自分の感情に流されてはならない。
そうあらためて胸に誓い、悟は静かに目を閉じた。
そうして目を閉じてから、どれくらいの時間が経っただろうか?
半分夢の中のぼんやりした意識の中で、悟はふと妙な感覚に気づいた。
(……?)
何かが自分の腰の辺りに乗っている。柔らかくて、あたたかい。
半ば無意識に、やけに気怠い手を動かす。
手が何か温かくて柔らかいものに触れた。なんだろう? と思って軽く力を込めてみると「ひゃっ!?」と声がして自分の上に乗っているものが震えた。
目を開ける。
──くすりが、悟の腰に跨がっていた。
着ているのは月明かりに透ける、淡いピンク色のベビードール。その下には昼間のデートで悟が選んだ白い下着。
頰を染めながら、潤んだ瞳でじっと悟を見下ろしている。
「こ、こんばんは〜……」
「なにしてんの!? いやほんとに、マジでなにしてんの!?」
「先生を私のものにするには……き、既成事実を作るのが一番合理的だと判断しましたっ!」
「そんな判断するんじゃねえええええっ!?」
悟の悲鳴が部屋に響き渡るのだった。



