先生、今日から同い年ですね?
実験五『き、既成事実を作ります!』 ①
「というか! どうやって入ったんだよ俺ちゃんと鍵掛けたぞ!?」
「えっとですね……理事長から小包が届きまして……。開けたらこの部屋の合鍵と衣装と『頑張ってね』というメッセージカードが……」
「あんのクソ理事長変な方向に生徒の背中を押すんじゃねえ!?」
帰ってきたらあのにやけ面を張り倒そうと心に誓う。だが今はそれどころではない。
「そ、それで、ですね……」
悟に跨がったまま、くすりは震える声で聞いてくる。
「ど、どう、ですか……? 私的には、だいぶ勇気、出してみたんですけど……」
その言葉に、ついくすりの身体に目をやってしまう。
恥ずかしさに眼を潤ませて顔を真っ赤にしている姿には初々しさを感じるが、その身体はもう大人としての魅力を十分に持っていた。
肩幅はとても華奢で、けれど胸には女性らしい柔らかな膨らみ。思っていたより一回り大きなその膨らみに『意外と着痩せするタイプだったのか』とつい場違いなことを考えてしまった。
ピンクのベビードールはとても薄い素材でできているようで、両手で摑めてしまいそうなほど細い腰回りが透けて見える。前が開いたタイプで、隙間からチラリと見えるへそが、なんだかとても扇情的なものに見えてしまう。
駄目だとわかっているのに、視線がさらに下に行ってしまう。
下半身を隠すのは、可愛らしいレースが施された白い下着一枚だけ。普段はスカートの中に隠されていて決して見てはいけない光景が、すぐ目の前にある。
どうにか視線を逸らしてもそんな状態で跨がられているのだ。くすりの熱と柔らかさがじわじわと伝わってくる。
「と、とにかくそこを退け!」
理性を振り絞ってくすりを身体の上から退けようとした。だが……身体が異様に重い。
伸ばした手は手首を摑まれて、そのまま簡単に押さえ込まれてしまった。
「な、なんだ、これ……!」
「ごめんなさい。その、実は寝てる先生に即効性の痺れ薬っぽいものを……」
「人に薬を盛るなと注意したところだったろ!?」
「今回のは市販のハーブを組み合わせて作ったものなので法的には食品扱いです」
「そういう問題じゃねえ!?」
必死に抵抗しようとするがやはり力が入らない。簡単に押さえ込まれて、そんな悟をくすりは少し前傾してジッと見つめる。
「……だめ、ですか?」
くすりの潤んだ眼と切なげな声に、悟はつい声を詰まらせてしまった。
……悟は今までくすりのアプローチを受けながらも、無意識のうちに『子供の言っていることだ』と軽く扱ってしまっているところがあった。
なにせ彼女が小学生の頃からの付き合いなのだ。
『大きくなったらお嫁さんにして』と小さい頃に言われたこともあったし、その延長線のようなものだと無意識に感じてしまっていた。
だがその身体はもう完全に、女性としての魅力を備えている。
見ちゃ駄目なのに、前傾したくすりの胸の谷間に思わず視線が吸い寄せられる。
ごくりと生唾を飲み込み、すぐに正気に戻って慌てて視線を外す。が、すでにくすりの身体が目に焼き付いてしまっている。
何よりまずいのは……くすりは今、悟の腰に跨がっているのである。
薄い布越しにじわじわと伝わってくる体温。柔肌の感触。
くすりの重心が僅かに揺れるだけで、その感触がダイレクトに若い男子高校生の肉体を刺激してくる。
「先生……ちゃんとこっち、見てください……」
「う、動くなっ……ほんとマジで、お前は自重ってものを……!」
そう言いつつ、悟は本気で焦っていた。
いくら理性で抑えようとしても、若い肉体はどうしようもなく反応してしまうものなのだ。
「ん? なんですこの硬いの? ……っ!?」
その正体に気付いた瞬間、くすりの顔が暗がりの中でもはっきりわかるほどボッと真っ赤に染まった。「あう、あう……」と口をぱくぱくさせ軽く涙目になっている。
「お、おい。あんまり無理するな?」
「む、無理なんてしてませんっ! ぜ、全然余裕ですっ……!」
そう言うくすりの声はちょっと涙声だった。
だがそれでもくすりは止まらない。
「そ、それに……こうなってるってことは……先生も、私のこと……そういう風に思ってくれてるってことですよね……?」
「た、ただの生理現象だっ!」
必死に叫んだが、我ながら言い訳にしか聞こえない。
当然、それで止まるくすりではなかった。
そっと、悟の寝間着であるシャツの裾に手を伸ばす。
「予習は……ばっちりしてきました。覚悟も、決めてきました。だから、大丈夫です……。先生は天井のシミでも数えててください……」
「や、やめろおおおおおっ!!」
………………。
………………。
「…………?」
……くすりが動かない。
シャツに手をかけたまま、小動物みたいにぷるぷるしている。目は涙目で、表情だけ見たらどっちが襲われてるかわからないような有様だ。
「合理的に考えればこれが最適解……既成事実……既成事実を……」
自分に言い聞かせるようなそんな呟きが聞こえてくる。呼吸はかなり荒い。ただ、それは興奮していると言うよりも緊張のあまり過呼吸になっている感じだった。
「……あー……くすり? 本当に無理するな。な? いい子だから落ち着いて話を……」
「ま、またそうやって子供扱いして! 私だってもう立派な大人なんですから!」
くすりはそう言って、勢い任せに悟のシャツをめくり上げた。
「……えう?」
瞬間、くすりがフリーズした。
くすりが見たのは想像していたよりもずっと……いやまったく予想外の、バキバキに引き締まった細マッチョな悟の肉体であった。
しなやかかつ見事に割れた腹筋。盛り上がった大胸筋。まるで想定していなかった肉体美に、くすりは思いがけず新種の生物でも発見したような顔で目をパチパチさせている。
「な、なんでこんなムキムキなんですか!? 先生みたいなタイプってもやしみたいなのが相場じゃないんですか!?」
「あー……勉強っていうのは身体を動かしながらした方が捗るんだよ。で、学生時代ずっと筋トレしながら勉強してたらこうなった」
「だ、だからってこんなえっちな……あうぅぅ……」
「……なあくすり。本当にもうやめとけ。お前そういうの向いてないから」
「い、いやです! 女の子が夜這い仕掛けるなんてどれだけ勇気出したと思ってるんですか!」
もう意地になって、それでもおっかなびっくりな手つきで、くすりは悟の身体に手を伸ばす。
その指先が悟の胸の辺りをくすぐった。
「くっ……」
悟が顔をしかめて僅かに甘い声を上げた。
「〜〜〜〜〜〜〜っっ」
その瞬間、くすりの脳内で何かが完全にショートした。
そのまま、ぱたんと悟の胸に倒れ込む。
「お、おいくすり!?」
「きゅう……」
悟の上でくすりは目を回して失神していた。頭から湯気がでそうなほどの茹で上がりっぷりだった。
こうして、くすりの第一次夜這い作戦は無事に失敗したのであった。
翌朝。
ベッドの中で目を覚ましたくすりは寝ぼけ眼をこすりながら上半身を起こした。まぶたは半分閉じていて、まだ意識は夢の中のようだった。
「んぅ……ここ、どこ……」
「起きたか」
「ふぇ……せんせい……?」
視線を向けると、悟はテーブルで朝食を取っていた。
くすりはどうして悟がいるのか理解できていないかのように、しばらくぽかんと悟を見つめていた。
それから自分の身体に視線を落とし、そこで固まった。
下着姿。ベビードール。昨夜のままの格好。
頰がみるみる赤くなって、慌てて布団を胸元まで引っ張り上げる。
「あ、あのっ……わ、私が寝てる間に、先生が、その、何かしたりとかは……」
「するわけねぇだろ!」
「…………してないんですか?」
「そこで残念そうな顔するんじゃない!」
「でもでも先生、昨晩は……その……私に……すっごく反応してましたよね……?」



