先生、今日から同い年ですね?
実験五『き、既成事実を作ります!』 ②
「っ……あ、あれは! ……だ、男性の生理現象だ! 男は夜には勝手にああなるものなんだ!」
苦しい噓の自覚はあるが、いくらなんでも『生徒の下着姿にめちゃくちゃ興奮してました』なんて教師として認めるわけにはいかない。
ただそれを聞いたくすりは、しょんぼりと肩を落としていた。
「……私って、そんなに魅力ないですか……?」
今にも泣き出しそうな声。悟は流石にぎくりとしてしばらく沈黙した。
暴走しすぎだとは思うが……いやホントに暴走しすぎだと思うが、それでもああやって夜這いを仕掛けてきたのはくすりにとって一大決心だったのだろう。
それがまったくの不発に終わって、相手にも完全に拒絶されたとなれば落ち込むのも無理はない。
しばしの葛藤。
悟は頭の中でいろいろなものを天秤に掛け、小さく息を吐いた。
くすりの方に歩み寄り、ベッドに腰を下ろす。
「魅力がないなんて、そんなことはない」
「でも先生、なにもしてくれないじゃないですか。私はあんなに頑張ったのに……」
拗ねたように言うくすりに悟はまたため息をつく。
「あのなぁ、教師が生徒に手を出せるわけがないだろう。……ただ、まあ、その……なんだ」
「?」
ややしどろもどろになる悟にくすりはいぶかしげな目を向ける。
「…………女性として魅力をまったく感じないと言ったら、噓になる……かもしれない」
その言葉にくすりは大きな目を瞬かせた。
「ほ、ほんとですか?」
「うぐ……ま、まあ、教師としてあるまじきことだが、そうやって好いてもらえるのが嬉しいと思うくらいに魅力的だとは、思っている」
「じゃ、じゃあ……!」
「だが、お前は〝私〟にとって大切な生徒だ」
釘を刺すように悟は続ける。
「くすりは女の子なんだし、昨晩みたいなことはやめてほしい。私も男なのだし、もし万が一のことがあったら……」
「全然ウェルカムですけど……」
「ウェルカムとか言うんじゃない。とにかくそんな衝動的なものじゃなく、もっと自分の身体を大事にしてほしいんだ。そもそも男女交際とは……」
そうやって話を続ける。
くすりは賢い子だ。ちゃんと向き合って、誠心誠意話せばわかってくれるはず……。
と、思っていたのだが、くすりはほっぺたをぷくーっと膨らませて実に不服そうにしていた。
「あー……えっと、くすり?」
「そーいうとこですからね先生ぇぇぇ!!」
「うおっ!?」
何故怒っているのかわからず困惑していると、ボフンと枕を投げつけられた。
「そういうとこが好きだっつってんでしょーがっ! 真面目で誠実で、私のことめちゃくちゃ大事にしてくれて、強引に迫っても全然なびかないとこが! 全然なびいてくれないのに私の好感度これ以上あげないでください!!」
「そんなこと言われても……」
「それに自分を大事にするのなんて当たり前じゃないですか! 大切だから初めては好きな人にもらってほしいって思うのは間違ってますか!?」
「い、いやしかしそれは……」
「じゃあ逆に聞きますけど、先生は私に幸せになってほしいんですよね!? 私に夢を叶えてもらいたいんですよね!?」
「それはもちろん」
「私は将来、好きな人と結婚して、可愛い子どもがいっぱいで、賑やかで幸せな家庭を築きたいと思っています! ……で、その好きな人が先生なんですけど!? 振り向いてくれないと私の夢が叶わないんですけど!? どうしてくれるんですか!?」
「いや、えーと、それはその……」
「ってことで! 先生が私をお嫁さんにしてくれたらすべて解決ですね! はい論破ー! 論破でーす!」
最後に再び宣戦布告するように、ビシィッと人差し指を突きつける。
「ぜーったいに、教師としての矜持とかいうのをボッコボコにして、先生を堕としてみせますからねっ! 私はぜったいあきらめませんから!」
そう言って、頭から布団を被ってしまった。
「……強すぎるだろ俺の生徒」
悟はもうどうすべきかわからず、苦笑いを浮かべるしかなかった。
†
一方、言いたいことを一方的に言って布団に潜ったくすりだが、布団の中で悶絶していた。
(わ、私なに言っちゃってるんですかぁぁぁ!?)
耳まで真っ赤。つい感情が爆発して、言いたいこと全部ぶちまけてしまった。
(お嫁さんになりたいとか、子どもいっぱいとか……重いって思われたくないから、まだ秘密にしておくつもりだったのに……!)
布団の中で頭を抱える。自分がむちゃくちゃやってることや、全面的に悟の方が正しいのはくすりもよくわかっている。
(で、でも先生だって悪いんですからね! 私の心をこんなに弄んで……!)
そもそも告白した時には、断るのはあくまでも年齢差のためと言われた。もしも同い年だったら断らなかったとも言ってた。
で、若返ってもらった。
そしたら明らかにドギマギしてくれるし、自分のことを異性として意識してくれる。魅力的だとも言ってくれた。
なのに、教師だから付き合えないとピシャッと線を引く。
そのくせただでさえMAXだったこっちの好感度をさらに上げてくる。もうふざけんなと怒りたくなるのも人情というものだろう。
けれど……。
意識してくれてる。魅力的だと言ってくれた。思い出すと恥ずかしいけど、先生の身体も反応してた。
後は本当に、教師としての矜持さえぶっ壊せばこっちの大勝利なのだ。
(私は絶対負けませんから……!)
枕をギュッと抱きしめ、くすりはあらためてそう心に誓ってしまうのだった。



