先生、今日から同い年ですね?

実験六『心理学を使ってみましょう!』 ④

「わかったわかった。高校生にもなってそんなことで泣くんじゃない」


 そう言って背中をポンポンと叩く。

 ──ほんの少しだけ、声が弾んでしまった気がした。


 とりあえず、まだ泣いていたので部屋に上げてやった。


(いや、別にやましいことじゃない。泣いている生徒をそのまま追い返すほうがむしろ教師として言語道断だ)


 そんなふうに心の中で言い訳をしながら、ソファに座らせて話を聞く。

 そうして話していると、くすりのお腹からクゥ〜……と可愛らしい音がした。くすりは恥ずかしそうに頰を染めてお腹を押さえる。


「夕飯はまだか?」

「はい……あ! そ、そうだ、私さっきの喫茶店にカレー鍋置きっぱなし……ちょ、ちょっと電話失礼しますね」


 そう言ってくすりはスマホを取り出し、慌てて通話を始める。


「あ、こころちゃん? あのね、私さっきの喫茶店にカレー鍋……あ、とりあえず寮まで持って帰ってくれた? え? すっごく重かった上にエレベーター故障してた? わ〜ごめんなさい!!」


 聞こえてくる会話の端々から、こころがあの小さな身体で大鍋を抱えて階段をよろよろ上っていく様子が想像できて思わず吹き出しそうになった。

 通話を終えると、くすりはちょっぴりばつが悪そうに笑う。


「あはは……お騒がせしました〜」

「……夕食がまだなら食べていくか? とは言っても大したものではないが」

「いいんですか!? そ、それじゃあお言葉に甘えて。えへへ、実はお腹ペコペコだったんです」


 そういうわけでキッチンに立つ。……とは言っても大したものは作れない。

 お湯を沸かし、常備しているインスタント麺を二人分鍋に放り込む。

 そうやって麺を湯がいていると、くすりがそっと腕に抱きついてきた。


「も〜、先生ったらまたそんなもの食べてるんですか? 身体に悪いですよ?」

「健康診断で問題なかったから大丈夫だ」

「そういう問題じゃありません。もう、それなら今度から私特製のサプリでも用意して来ましょうか?」

「お前の作ったサプリっていろんな意味で怖いんだが……」

「む〜ひどいですよ〜。別にへんなもの入れたりしませんから〜」

「日頃の行いを考えろ日頃の行いを」


 軽口を言い合いながらもくすりは腕を絡めたまま。

 こてんと悟の肩に頭を乗せて、甘えるようにすりすりと頭を擦り付けてくる。普段ならたしなめる悟だが、今日はなにも言わなかった。


「……卵、入れるか?」

「はい! おねがいします!」


 卵を落とし、少し煮込んで、器に移す。

 テーブルに並んだのは、卵入りのインスタントラーメン……それだけ。

 だが、くすりは目を輝かせながら手を合わせた。


「いただきますっ!」


 音を立てて美味しそうにすする。

 市販の袋麺に卵を入れただけの貧相な夕食。だがくすりが嬉しそうにラーメンをすすっているのを見ると、何故だが普段の一人寂しい食事よりも格段に美味しく感じてしまう。


 ──ずいぶんと想定とは違う形であったものの、ゲインロス効果はきっちりと効いてしまっていたのだった。