学年で一番かわいい星ヶ崎さんと友だちになったら毎日密着が止まらない
第一話 星ヶ崎さんと出会い ③
「あ、あのね、だったら……!」
「……?」
「と、とりあえず……今度二人でいっしょに、オールナイトで『アイドル・セブンス・カラーズ』のブルーレイの上映会、やらない……! ほ、ほら、瑞季ちゃんとは今レギュラーの現場がいっしょだから、お、お泊まり会兼で、わ、わたしの家で……っ……!」
勝負に出るような思い切った口調で、そう口にした。
「だ、だめ、かな……?」
「そ、それは、ええと……」
「あ、着替えとか洗面用具だったら心配いらないよ? だれがいつ来てくれてもいいように友だち用のお泊まりセットを常に最低十パックは用意してあるから! 瑞季ちゃんはただ来てくれれば、そこにいて息をしてくれてれば、それだけで何も問題なし!」
「じゅ、十パック……? い、息……?」
「うん! あ、す、少なかったかな? 三十パックくらいあった方がいい? そういうの、よくわからなくて……」
「あ、す、少なくはないと思いますけど……」
「じゃ、じゃあだいじょうぶだよね? だったら──」
「……あ、ごめんなさい、でもその日はちょっとお仕事が……」
やんわりとお断りの返事。
女子の基準はよくわからないけれど、いくら仲のいい友だち同士とはいえ泊まりがけでアニメの観賞会というのは、それなりにハードルが高いのではないだろうか。
「そ、そっか……」
がっくりと頭を垂れる星ヶ崎さん。
だけどすぐにバッと顔を上げて。
「わ、わかった! それじゃあ……二泊三日じゃなくて、一泊ならどうかな! 一泊だったらお仕事はうちから直接行けばいいし、徹夜する時間も十二時間くらいで短いからだいじょうぶだよね……!」
まさかの二泊(しかも徹夜確定)で誘っていた。
いやそれはさすがに俺から見てもないと思う……
「あ、す、すみません、その前の日もお仕事が……」
相手の女子も若干、というかかなり引いた様子でそう答えた。
それはまあ、当然というか……
「……」
このあたりになると、何となくだけれど俺にも察しがついてきていた。
星ヶ崎さん、誘うのヘタすぎじゃないか……?
何というか、熱意ばかりが前に出てしまっていて、盛大に空回りをしている印象を受ける。
いつも教室で見ている円滑すぎるコミュニケーションをとっている姿とは、まるで別人みたいだ。
だけど星ヶ崎さんはまだ諦めていないようだった。
「あ、そ、それなら、ライブの方はどうかな……! それくらいならいいよね! ライブに二人で行くって友だちなら普通だし! わたし、二人分のチケットをこの場で今すぐに取っちゃうよ! あ、お金とかはだいじょうぶ、友だちのわたしが全部払うから──」
重い。
そんなダメなヒモを養っている財布みたいな申し出はいくら何でも重すぎる。
相手の女子もその辺りが限界だったのだろう。
「そ、その日もちょっと……あ、す、すみません、私、これから行かないといけないところがあって……」
「え?」
「お、お先に失礼します……!」
そう口にすると、女子はバッグを素早く手に取って、そそくさと逃げるように店を出ていってしまった。
「あ……」
後には、追いかけるかのように伸ばされた星ヶ崎さんの手が、ただむなしくひらひらと宙をさまよっているのだった。
女子が去って、背後のテーブル席にいるのは星ヶ崎さん一人になった。
盗み聞きしようと思っていたわけではないのだけれど、見事に誘いを断られる様をリアルタイムで見てしまったため、何となく気まずい。
とはいえ星ヶ崎さんが動かないと俺も店から出られないため、それまでと変わらずに気配を消しながら背後の様子をうかがう。
「……」
さっきから星ヶ崎さんは、下を向いてスマホをいじっているようだった。
しきりに指を動かして、必死な様子で何かを書き込んでいる。
チラリと見えたのは、数ページにわたって何かがみっちりと書かれたメモアプリで……『カスの反省メモ』……?
だけどそれが終わったかと思うと、やがて星ヶ崎さんはテーブルに倒れるように突っ伏した。
「う、うぅううううううううううう〜……」
……泣き出したんだけど。
それもすすり泣きとかのかわいいものじゃなくて、マジ泣き。
これはヤバくないか……?
「あ、あの、お客さま……」
さすがに店員さんたちも放っておけないのか、恐る恐るといった様子で声をかけてくる。
「だ、大丈夫ですか? お身体の具合が悪いとか……」
「あ、す、すみません……ご、ご迷惑ですよね……」
「あ、いえ、その」
「わ、わかります……ぐすっ……わ、わたしみたいな友だちの一人も作れない生ゴミがいつまでも居座っていたら営業妨害で……」
「え?」
ゴ……今、何て言った?
「わ、わかってるんですぅ……わたしみたいな距離感もわからない人間のカスのコミュ障がムダにあがいたって、無様なだけだって……ゴミがいくらがんばって活発に動いても活きのいい発酵ゴミになるだけだって……」
「あ、い、いえ、そんなことは……ないと思いますが……」
返ってきた言葉と外見のギャップに、店員さんも大変困惑している。
……ここまでくると、さすがに少しばかり疑念が生まれてくる。
これ、本当に星ヶ崎さんか? いや他人のそら似とか双子とかなんじゃないのか……? さっきから色々言動もテンションもおかしいし、いくら何でもあの星ヶ崎さんがこんな人前でマジ泣きしたり自分をゴミ呼ばわりするわけ……
「……」
と、確認しようと少しだけ身を乗り出したところ、バッチリ目が合った。
泣いていてもその瞳は吸いこまれてしまいそうなほどとても大きくて、夜空に浮かぶ星のようにキラキラと輝いている……などということはどうでもよくて。
彼女はその大きな瞳をぱちぱちさせると、小さくこうつぶやいた。
「……ゆきむら、くん……?」
「あー、その」
確定だった。
星ヶ崎さんが俺なんかの名前を覚えてくれていたことは光栄だが、残念なことにこれで彼女が本人であることは間違いのない事実になってしまった。
いや、確定してもまったく信じられないけれど。
「え……え……な、何でここに……? ク、クラスの人たちが絶対に来ないと思ったからここにしたのに……あ、ま、まさか……い、今の、聞いてた……とか……?」
「え、うん……まあ」
「……!?」
俺の返答にこの世の終わりみたいな顔になる星ヶ崎さん。
そして。
「み、見られた……見られちゃった……わ、わたしの脱皮に失敗したダイオウグソクムシみたいな惨めでみっともない有り様をクラスの人に……も、もうおしまいだよぉ……う、ううっ……うわぁああああああぁあああああん……」
まさかの火が点いたような大号泣。
これはさすがに予想外だった。
「ちょ、ちょっと、星ヶ崎さん……!」
店内の注目が一気にこちらへ集まる。
だけど星ヶ崎さんは一向に泣きやむ気配がない。
客観的に見て、アイドルと見紛われるレベルのSSS級美少女(星ヶ崎さん)を、貧相で目つきの悪い陰キャ(俺)が泣かしている構図だ。
下手すれば通報まであり得る。というか店員さんがもうスマホを手にしてるし!
「と、とにかく、こっち来て!」
この場で俺にできるのは、可能な限りの早さで自分と星ヶ崎さんの分の会計を済ませて、彼女を店の外へ連れ出すことだけだった。
3
「……少しは、落ち着いた?」
「……ぐす……うん……」
『alone』から少し離れた小さな公園。
そこのベンチで、顔をうつむかせた星ヶ崎さんと、俺は二人きりで並んで座っていた。
まだ彼女の目はウサギのように赤いものの、さっきまでのように泣いてはおらず、ひとまず小康状態を保っている。
とはいえ何を話したものか。
これまで星ヶ崎さんと会話を交わしたことなんて当然一度もなかったし、そもそも今の星ヶ崎さんは教室にいる時とぜんぜん違う。



