学年で一番かわいい星ヶ崎さんと友だちになったら毎日密着が止まらない
第一話 星ヶ崎さんと出会い ④
どういう風に接すればいいのか、宇宙人を目の前にしたレベルで、まるでわからない。
悩んだ末に、とりあえずストレートに訊いてみることにした。
「えっと、あのさ、さっきの」
「え……?」
「さっき『alone』で話してたの、その、仲のいい友だちだったのか?」
だとしたらあれくらいで──や、星ヶ崎さんの誘い下手っぷりもけっこう大概だったとは思うけど──それでも明らかにドン引きした様子で去っていったのは少しひどいかもしれないと思う。
その俺の問いに、星ヶ崎さんは首を横に振ってこう答えた。
「う、ううん……今日初めて話した人……」
「それは引かれるよ!」
むしろあれだけ気を遣ってくれてめちゃくちゃいい子だよ!
というか初めて会話をした相手にあんなグイグイと重いことを提案してたのか、うわぁ……
「で、でも、瑞季ちゃん、『桜色フルール』が好きだって……」
「や、それはそうかもしれないけど」
「だ、だから、おそろいのグッズをそろえたり、いっしょにライブに行ったり、お泊まり会ができたら楽しいかなって……ほ、ほら、二人で共有する時間が長ければ長いほど、仲良くなって友だちになれるっていうし……」
「うーん……」
論点がズレている気がする。
そこじゃない感を強く感じる。
おそらくだけど、目的じゃなくて手段に大きな問題があるからだろう。
それにさっきから……というかあの他校女子と話している時から、やたらと一つの単語に力が込められているのが気になった。
「あのさ、違ったら申し訳ないんだけど」
「……?」
「星ヶ崎さん、もしかして友だちになりたくて、あの女子を誘ってた……?」
「……!」
その言葉に、星ヶ崎さんが激しく反応した。
明らかに動揺した様子で目を泳がせながら尋ね返してくる。
「ど、どどどどうして、そ、そう思ったのかな〜……?」
「え、だってずっとそういう素振りをしてるように見えたし、あまりにもわかりやすかったから、そうなのかなと」
「あうぅ……」
頭を抱えて丸まってしまった。
まるで警戒しているハムスターのよう。
それはそれでかわいらしい姿だったけれど、果たしてこの現状をどうしたものかと途方に暮れる俺の耳に、小さな声がぽつりと響いた。
「……そうだよ……」
「え?」
「……幸村くんの言う通りだよ……わたし……」
「……わたし……友だちが、友だちがほしいんだよぉ……」
ほとんど泣きそうな声で、星ヶ崎さんはそう口にした。
「え、でも星ヶ崎さん、友だちならたくさんいるんじゃ」
何せLIMEの友だち登録者数が1000人越えだと言われているくらいである。
事実、クラスでも常にだれかに囲まれているし、月ノ森さんとか、親密そうな相手だって何人もいる。
だけど俺のその言葉に、星ヶ崎さんは頭を振った。
「あれは……演技してるだけだもん……」
「演技……?」
「そ、そうだよぉ……学校っていうパートで、あらかじめ用意した台本に合わせて、明るくて元気で空気も読める『星ヶ崎陽菜』っていうキャラを必死に演じてて……その作った『星ヶ崎陽菜』にみんな仲良くしてくれてるだけなんだもん……」
弱々しい声でそう力なくつぶやく。
演技って、マジか。
あんなキラキラ陽キャお姫様を演技で作り上げることができるものなのかと思いつつも、そういえばそういったことをやっていた人物に思い当たる節がないわけでもない。
だから俺が訊きたかったのは、〝どうやって〟ではなくて〝どうして〟だった。
「星ヶ崎さんは、何のためにそんなこと……」
「……だってそうしないと……だれもわたしと仲良くしてくれないから……」
「え、いやそれはないだろ──」
言いかけた俺の言葉を、星ヶ崎さんが素早く遮った。
「……あ、あるんだよぉ。素のわたしは人見知りで、陰キャで、コミュ障で、空気が読めないゴキブリみたいな劣等種だから……素のままで接しようとすると、みんな離れていっちゃう……今まで、ずっとそうだったんだもん……」
「……」
それはそうかもしれない。
いやゴキブリうんぬんのところではなく、さっきのやり取りを見ている限り、素(?)の星ヶ崎さんのコミュニケーションには大変問題があるのは確かだ。
距離感がおかしいというか、思いが重いというか、圧が強いというか……
確かにあれじゃあ、だいたいの相手は友だちになる前に離れていってしまうだろう。
「も、もう、疲れちゃったの……いつでも空気を読まないといけないし、いっつも気を張ってなきゃいけないからヘトヘトだし、好きな推しキャラの話も自由にできないし……だから学校ではもう無理だけど、せめてそれ以外のところでは演技しないで、そのままでいられる友だちがほしかった……友だち『0』から卒業したかっただけなんだよぉ……」
そこで星ヶ崎さんは立てたヒザの間に顔を埋めると。
「友だちが……ほしいがさき……」
「……」
やっぱりもう帰っていいかな、俺。
まあそこは置いておくとしても、とても学年で一番かわいいと言われていて、クラスでも常に人の壁に囲まれている人気者とは思えない発言だ。
とはいえ気持ちはわからないでもない。
学校でのあのキャラが全部作られた演技であって、こっちの、その、少しばかりネガティブ(婉曲)で、人見知りで、そしてちょっとばかり愛が重いキャラの方が素であるのなら、それはしんどいだろう。
「で、でも……こんなミジンコみたいなわたし、みんな求めてないよね……? どこかの沼の隅でひっそりと一人で光合成でもして酸素を吐いてろって思うよね……? わたしもそう思うよ……だってみんなが友だちだと思ってくれてるのは、明るくて楽しくて人気者な『星ヶ崎陽菜』だから……」
言いながらどんどん声のトーンが暗くなっていってしまう。
それだけ星ヶ崎さんの悩みが、彼女の中で深刻なものであることがうかがえる。
だけど俺は、それに対して一つだけ言っておきたいことがあった。
「……あのさ、俺は別に、それはいいと思う」
「え……?」
「それは相手によっては星ヶ崎さんのキャラに引くやつもいるとは思う。だけどそうじゃないやつも絶対にいるはずだ。だってそれって……星ヶ崎さんがそれだけその相手と仲良くなりたいってことだろ? だからその素直な気持ちまでは否定することないんじゃないか?」
確かに星ヶ崎さんの距離感はおかしい。圧倒的におかしい。それは知り合ったばかりの俺でも断言できる。
だけどそれは裏返してみれば、それだけ相手に対して興味を持っているということだし、知りたい知ってもらいたいという気持ちの表れでもあるはずだ。
だったらそこはキャラとアプローチの違いというだけで、それ自体は否定すべきものではない……と思う。
いややり方は絶対に変えた方がいいとは思うけれど。
「あ……」
俺の言葉に、星ヶ崎さんは驚いたような表情を浮かべながら目を瞬かせていた。
ぱちぱちと、何度も何度もその大きな瞳を閉じたり開いたりしている。
「そんなこと……初めて言われた……」
っと……柄にもなく踏み込んだ物言いをしてしまった。
これ以上深く関わると、図らずも関係性ができてしまいそうだ。
「まあそんな感じだ。あー、それじゃあそろそろ俺は行くから。星ヶ崎さんも気をつけて帰りなよ──」
「あ、あの……っ……!」
ベンチから立ち上がろうとした俺を、星ヶ崎さんが両手でがしっと腕をつかんで引き留めた。
「星ヶ崎さん……?」
「あ、あのね、幸村くん……!」
「……」
「よ、よかったらなんだけど……!」
何だか悪い予感がする。
星ヶ崎さんの目の奥のやたらとキラキラしたきらめきと、何かを期待するような声音には、どこかやばめなテンションが宿っているように見える。
そして悪い予感というものはだいたい当たるもので。



