学年で一番かわいい星ヶ崎さんと友だちになったら毎日密着が止まらない

第一話 星ヶ崎さんと出会い ⑤


「わ、わたしと……と、──」


「あ、それはごめん」

「即答!?」


 秘密を聞いてしまった負い目はあるものの、さすがにその提案は拒否せざるを得ない。

 それとこれとは別問題だし、そもそも俺は友だちは作らないと決めている。


「俺、高校では友だちを作らないことにしてるから」

「え、作らな……え、なんで?」

「……」


 その質問には答えずに、俺は星ヶ崎さんに背を向けた。


「とにかく、そういうことだから……!」

「あ、幸村く──」


 懇願するような星ヶ崎さんの声を背中に受けながら、俺はその場から小走りで立ち去ったのだった。


 翌日。

 俺はいつも通り学校へと向かった。

 昨日の星ヶ崎さんとの一件が若干頭の隅に残ってはいたものの、実のところそこまで気にしてはいなかった。

 確かに……打ち明けられた悩みの内容は大きなものだ。

 正直なところ、俺一人で抱えるのには重すぎるくらい。

 だけどだからといって、学校での星ヶ崎さんと俺の関係が一朝一夕にそうそう変化するとは思えなかった。

 それくらい、星ヶ崎さんと俺との学校での関係性は天と地ほど開いているのだ。

 きっと昨日までと同じように星ヶ崎さんはクラスの一等星で、俺は教室の片隅で盆栽のように日々を過ごしていく。

 星ヶ崎さんも学校では演技をしていると言っていたし、その日常を崩すことは望まないはずだ。

 だからまあ、色々あったけれど、何だかんだで大勢は変わらないだろう。

 そう割と楽観的に思っていたのだけれど。

 そんなことはぜんぜんなかった。


「──あ、幸村くん、おはよ!」


「……!」


 教室に入るなり、耳通りのいい澄んだ声が飛びこんできた。

 教室中の視線がこちらに集まる。


「昨日はありがとう! 色々、親身になってお話を聞いてくれて! あんなの初めてだったから助かっちゃった!」

「え、あ、いや……」


 まるで昔からの親しい友だちに対するみたいな物言い。

 さらにはなぜかその白魚のような両手で俺の手をぎゅっと握りしめている。

 周囲からの視線がさらに強烈なものになるのを感じた。

 それはそうだろう。

 これまで風景の一部のようにぼんやりとそこにいるだけだったクラスの陰キャに、その真逆の存在とも言えるようなまばゆい一等星が親しげに声をかけているのだから。衆目を集めるなという方が無理な話だ。

 その予想通り、教室の各所からはささやき声が聞こえてきた。


「え、何で星ヶ崎さんが挨拶してんだ……?」

「あいつ、だれだっけ、眼鏡しか覚えてないんだけど」

「ええと、ほら、あれだ、自己紹介の時になんかすげーやる気のなかった……」


 やめてくれ、俺は目立ちたくないのに……

 周囲からの視線とささやきを遮るように机に向かい、そのまま突っ伏す。

 だけどこの悪夢は、泣きたくなることに、朝だけでは終わらなかったのだ。


「ねえねえ、次は移動教室だよね! 音楽室、行こ!」

「幸村くん、いっしょにお昼食べないかな? 今日は学食のカレーにゆで卵が無料でついてくる日なんだよー!」

「さっきの英作文の課題、すっごく難しかったよねー! あ、幸村くんはちゃんと試験勉強してる? よかったら今度いっしょにやろっか?」


 あろうことか、星ヶ崎さんは事あるごとに親しげに声をかけてきたのだった。

 しかも全てにおいてやたらと距離が近い。

 その度に、教室中の視線が針のように容赦なく突き刺さってくる。

 いやマジで勘弁してくれ……



「……どういうつもりなのか、説明してくれ」


 放課後。

 精神的に摩耗しきって一ヶ月台所で放置された人参のようになった俺は、星ヶ崎さんを屋上まで呼び出していた。

 もちろん、一連の彼女の行動を問い質すためだ。

 星ヶ崎さんは、少しだけ傾いた日に照らされて、つややかな長い髪を風に揺らしながら、女神のようにたたずんでいた。

 やっぱりオーラがあるというか、絵になる。

 思わず見とれてしまうくらいだ。

 こうして見ていると、昨日の残念極まりない姿が本当に夢だったのではないかと思えてくる。

 だけど非常に遺憾なことに、現実は残酷だった。


「ど、どういうつもりって、そ、そのぉ……」


 おどおどと話し出した星ヶ崎さんの姿は、間違いなく昨日邂逅した距離感のおかしい残念女子そのものだった。


「幸村くんに、友だちになってほしかったから……」

「……それは昨日、断ったと思うけど」

「わ、わかってるよぉ……でも諦めきれなかったの……わたしがあんなことを話したのは幸村くんにだけだし、その……」

「?」


「……わ、わたしの素の粗大ゴミみたいなキャラを見ても引かなかったのって……そのままでもいいって言ってくれたのは……幸村くんだけだったんだもん……」


 胸の前で指をくるくると回しながら、ちらりとこっちを見る。


「わたしは……初めてを幸村くんに捧げました……」

「誤解を生むような言い方はやめような!?」

「ね? だ、だから、まずはお試しとかでもいいから……! ちょっとだけでいいから、先っぽだけでいいから……!」

「だから言い方!?」


 これ、わざとやってるんじゃないのか……!?

 思わずそう疑ってしまう俺に、星ヶ崎さんは続ける。


「じゃ、じゃあ……親友からでいいから。ね? お願い……!」


 ぜんぜん「じゃあ」の意味がわからない。

 これだけ友だちにはならないと言っているのに、どうしてわかってくれないのか……

 だけど星ヶ崎さんにまったく譲る気はないようだった。


「どうしても……だめ……?」

「ああ、悪いが……」

「わ、わかった……い、いいもん……と、友だちになってくれなかったら……幸村くんが、わたしの友だちだって、クラスで言いふらしちゃうかも……(ちらっ)」

「え」

「き、既成事実……?」


 それはまずい。

 この(表向きは)輝く星であり陽キャの頂点である星ヶ崎さんに公式で友だち認定をされてしまったら、それこそ夜のコンビニの誘蛾灯のように注目が集まってしまう。

 それだけは避けたい。絶対に避けたい。


「ど、どう……? わたしは幸村くんが普通に友だちになってくれたら、それだけでいいんだよ。そうしてくれたら、このことは二人だけの〝ヒミツ〟にするから。ね?」

「ぐ……」

「と、友だちor既成事実……?」


 何だこのどっちを選んでもロクなことになりそうにない究極の二択は……

 悩んだ末、俺が選択したのは。


「……よろしく、お願いします……」


 そう、力なく頭を垂れることだった。


「ほ、ほんと……!」

「……ああ……」

「わ、わたしと、と、に……なってくれるの?」

「……そういうことになるな……」


 その言葉に、星ヶ崎さんがぱっと表情を輝かせる。


「わ、わ〜い……! と、友だち……初めての友だちだ……!」


 テンションがダダ下がる俺とは対照的に、本当にうれしそうにぴょんぴょんと飛び跳ねながら喜ぶ星ヶ崎さん。

 スカートの裾をパタパタさせるそのリアクション自体はとてもかわいくて目の保養にはなったのだけれど、心中はこの上なく複雑だ……

 眼鏡を押さえながら俺がため息を吐いていると。


「あ、あのさ……」

「……?」

「じゃ、じゃあ、LIMEの交換、しよ……?」


 スマホを胸元に持ってこっちを見上げながら、星ヶ崎さんがおずおずとそう言ってきた。


「ほ、ほら、やっぱり友だちっていったらLIMEは交換するものだって思うし、何かあった時に連絡できた方がよくない? ……だ、だめ、かな……?」

「あー……わかったよ」


 さすがに〝友だち〟としてこれは避けられないだろう。

 半ば諦めの境地に入って、LIMEの友だち追加画面を出す。

 にこにこと上機嫌な表情でそれをせっせと操作する星ヶ崎さん。

 と、そこでちらりと彼女のスマホの画面が目に入ってきた。