学年で一番かわいい星ヶ崎さんと友だちになったら毎日密着が止まらない

第二話 星ヶ崎さんとデート ②

 星ヶ崎さんが大人しかったのは昼休みくらいまで。

 何ていうか目が合う回数が増えてその度に何やらそわそわと落ち着かない素振りをしていたあたりから、イヤな予感はしてたんだよ。

 午後にはすでに俺の机の周りをわざとらしく行ったり来たりしていたし、放課後になる頃にはもう普通に話しかけてくるようになっていた。


「今日、あっついねー。カーディガンはもういらないかも」

「ねえねえ、けーくんって犬派? 猫派? わたしはねー」

「駅前のカラオケが十八時までフリータイムなんだって! もしかしたらこの後いっしょに行っちゃう? 行っちゃう?」


 にこにことうれしそうに俺の顔を覗きこんでくる星ヶ崎さん(近い)。

 ……ええと、朝に話したこと、覚えてるよね……?

 これはあれだ。どこかで既視感があると思ったら、子どもの頃に近所で飼われていたサモエドのトシ子のムーブにそっくりなんだ。

 とにかく人懐こくて、顔見知りを見つけるとちぎれそうになるほどシッポを振って猛突進してくるアクティブな性格。

 そのまま覆い被さってきて、顔を全力でペロペロしてくる。

 本人(本犬?)が満足するまで止めやしない。

 子どもの俺は押し倒されてケガをしそうになることもあった。

 それを飼い主にこっぴどく怒られると、その時はものすごく申し訳なさそうな顔でしゅんと困り顔で落ちこむ。

 だけどしばらくすると怒られたことをすっかり忘れて、またうれしそうに犬まっしぐらで突撃してくるのだ。

 その無限ループ。

 最初は何とかしようと色々試みてはみたけれど、そのうち諦めた。

 子どもの力ではできることにも限りがあったし、まあしょせんはワンコのやることだ。モフモフも気持ちよかったし。

 だけど星ヶ崎さんはトシ子じゃないし、今の俺は子どもでもない。

 それに何より……


「え、また星ヶ崎さんが幸村と仲よさそうにしてる……」

「昨日も話しかけてなかったっけ……? 何で……?」

「ほら、星ヶ崎さんはやさしいから、ぼっちになってる子を見たらほっとけないんじゃないかな?」

「そっか、そういうことならわかるかも。ぼっちはかわいそうだもんね、うんうん」


 周囲からの視線とささやきがとても痛い。

 だから……俺は……目立ちたくないんだよ……



 帰りのホームルームが終わって、俺は星ヶ崎さんを屋上に呼び出した。

 何だかほんの一日前にもまったく同じシチュエーションに遭遇した気もするけれど、今はそこを気にしてる場合じゃない。


「……どういうつもりなのか、説明してくれ」


 ため息を吐きながらそう問い質した俺に、星ヶ崎さんは叱られたトシ子と同じような表情でこう言った。


「うう……だってけーくんの顔を見てると、脳内にうきうき仲良し友だち汁がいっぱいあふれてがまんできなくなっちゃうんだもん……」


 何だその汁……


「ほ、ほらぁ……けーくんはそうじゃないかもしれないけど……わたしにとってはやっとできた友だちなんだよ……? 初めての人なんだよ……? やっぱりもっともっともっともっとたくさん触れ合って、親密度を上げて、そのうち旅行とかお泊まり会とかをして無二の親友になって、そのままずっとずっとずっとずっとずっとずっとずーっと一生のソウルメイトとして来世まで添い遂げたいよぉ……」


 なんか最後に、いや最後だけじゃないが、とんでもないことを言ってなかったか……というのはスルーするとして。


「とにかく……これ以上、他のクラスメイトがいる前で話しかけてくるのは勘弁してくれ」

「で、でもぉ……」

「でもも何もない。これが守れないようなら、残念だけど友だちになる話もナシにしてもらう」

「あうぅ……」


 オットセイみたいな声を上げる星ヶ崎さん。

 しばらくの間、顔をうつむかせたまま悩んだ様子を見せていたが、やがて絞り出すようにこう口にした。


「わかったよぉ……学校でみんながいる前でけーくんにお喋りするのは諦める……不本意だけど、すっごく不本意だけど……」


 未練たらたらな様子で恨めしそうに見上げてくる。

 ともあれ提案を受け入れてくれるのなら俺としては文句はない。

 ホッと胸をなで下ろしかけたところで。


「そのかわり……!」


「え?」


 突然、そんな爆弾が投げこまれた。


「けーくんの言う通り……学校では親しくするのガマンする。でも学校ではダメでも、お休みの日にいっしょにどこかにお出かけしてお喋りしたりカフェでお茶を飲んだりショッピングしたりするのは……友だちとして……ありだよね?」

「それ、は」

「ありだよね……?」

「う……」


 その大きな瞳の端に涙をにじませながらじ〜っと見上げてくる星ヶ崎さん。

 ちなみにきれいに爪の先まで手入れがされたその白い指は、しっかりと俺の制服の裾をぎゅっと握りしめていて、ハイかYesの返事がくるまで絶対に離さないという強い意思が感じ取られた。

 やがて俺は根負けした。


「……はい……」

「や、やった〜! それじゃあ今度の日曜日に二人でお出かけね? 約束だよ?」


 ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶ星ヶ崎さん。

 というわけで二人で出かけることが決まったのだった。

 何だかとても良くない方に流されているような気がする……


 日曜日は、雲一つない快晴だった。

 窓を開けるだけで気持ちがよくなるようないい天気で、見上げれば視界一面に青空が広がっている。天気予報では午後からは少しだけ崩れるかもしれないと言っていたが、出かけるのには悪くないコンディションだと言えるだろう。

 休みの日にだれかとどこかに出かけるなんていつくらいぶりだろうか。

 支度をしながら考える。

 今のポリシーを貫いてきていたので、それこそ小学生の頃にまで遡るかもしれない。

 そう考えるとおよそ三年ぶりか……

 その相手が(一見)クラスの人気者であり学年で一番かわいいと言われている星ヶ崎さんだというのだから人生何が起こるかわからない。

 クローゼットからめったに着ない外出用の服を引っ張り出して、家を出る。



 休日ということもあり、待ち合わせに指定されたターミナル駅はたくさんの人たちでごった返していた。

 どこを見ても老若男女あらゆる人であふれていて、ただ歩いているだけでもだれかにぶつからないようにするのに難儀するくらいだ。


「待ち合わせは駅ナカのモニュメント前だっけか」


 行き交う人を避けながら構内を進んでいくと、やがて目的地が見えてきた。

 とはいえ少し早く着きすぎてしまった。

 スマホを確認すると、まだ約束の時間の三十分前。

 だれかと出かけることに慣れていないため、ついつい早めの行動をしすぎてしまったみたいだ。

 さすがにこの時間では星ヶ崎さんはまだいないだろうから、待ち合わせ場所の確認だけして、どこかカフェにでも入って時間を潰そう……などと思っていたら。


「……」


 ……いる。

 待ち合わせスポットとして有名なフクロウのモニュメントの前。

 そこに……辺りを埋め尽くすような人混みの中でも瞬時にわかるほど目立つ星ヶ崎さんの姿があった。

 俺が見てもわかるくらいにセンスのいい私服に、それに負けない圧倒的な本人の素材の良さが、道行く人たちの視線を一点に集めている。

 こっちには気づいていないのか、手元のスマホに目を落としながら、何やらせっせと熱心に操作をしているのが見えた。

 あの様子だと今さっき着いたばかりというわけでもなさそうだ。や、いったいいつからいたんだ……?

 そういえば今朝の五時くらいに『今日楽しみだね、けーくん! 一生の思い出に残る二人だけの最高の記念日にしようね!』なんていうメッセージがきてたけど、まさかな……などと思いつつ、ともあれ声をかけようと足を踏み出す。

 と、そこで、星ヶ崎さんと俺との間に割りこんでくる人影があった。