学年で一番かわいい星ヶ崎さんと友だちになったら毎日密着が止まらない

第二話 星ヶ崎さんとデート ③

「ねえねえ、お姉さん、何してるの?」

「ずっとスマホいじっててヒマそうだよね?」

「おれたちといっしょにいいとこ行かね?」


 大学生くらいの男三人組。

 見るからにチャラそうな雰囲気で、どう見ても星ヶ崎さんの知り合いではない……というか、わかりやすいナンパだった。

 まあ……さっきも言ったが、星ヶ崎さんは美人だ。

 学校では知らない者はいないしどこぞの芸能事務所に所属しているという噂があるくらいだし、あの残念な中身さえ知らなければ、普通に街を歩いていて十人中十人が間違いなく振り返るレベルだ。


「高校生? だったら普段はどんなとこで遊んでんの?」

「会員制のクラブとか行ったことないでしょ? おれらなら顔パスだから」

「ほら、いいから行こうって」


 そういうわけだから男たちのやる気もなかなかだ。

 これはさすがに放っておくわけにもいかないだろうと思い、足早に近づこうとしたところで、星ヶ崎さんはきっぱりとこう言い放った。


「あー、うん、ごめんね、悪いけど今日はNGなんだ」


 笑顔だけどそれ以上の追及を寄せ付けない物言い。

 男たちが怪訝な顔になる。


「ダメ? 何で?」

「彼氏と待ち合わせでもしてんの? そんな風にも見えないけど」

「絶対おれたちと行った方が楽しいって」


 そんな男たちの問いに。


「え、知りたい? ふふ〜、えっとね」

「?」


 星ヶ崎さんは声を弾ませながら両手を腰に当てて上体を盛大に後ろに反らすと。


「今日はこれから……特別で大事な〝友だち〟と約束してるから!」


 ものすごいドヤ顔でそう口にした。


「と、友だち……?」

「うん、そうだよ! えへへ〜、すごいでしょ? 〝友だち〟だよ、〝友だち〟。その〝友だち〟──けーくんっていうんだけど、もう毎日おはようからおやすみまでずっとずっとLIMEするほど仲良しで、〝友だち〟レベルでいうと99を超えてカンストしちゃってるくらいなんだから! それにけーくんにとってもわたしが初めての〝友だち〟で、お互いなくてはならない運命みたいな〝友だち〟なんだよ〜。えへん、なんていうかもう〝友だち〟の中の〝友だち〟って感じ? 親友も超えちゃってる? 心の友? はぁ、〝友だち〟っていいよね……」


 ここぞとばかりの友だち連呼。

 LIMEは一方的に星ヶ崎さんがひたすら送ってくるだけだし、なくてはならないと思っているのは友だちに激しく飢えている星ヶ崎さんだけでは……という俺の心の中でのささやかな突っこみもあったけれど、その怒濤の勢いに男たちも何かヤバいものを感じ取ったようだった。


「あ、ええと……」

「なんかよくわからないけど、そ、そんなに大事な友だちを待ってるんだ? ハハ……」

「すごいね……」


 そろって乾いた笑い声を浮かべる。

 と、そこで男たちの肩越しに星ヶ崎さんと目が合った。


「あ、けーくん!‌!‌!」


「わたしここだよ! けーくんの〝友だち〟の中の〝友だち〟で、今日一日濃厚な〝友だち〟お出かけタイムを過ごそうって約束してる心の友の星ヶ崎陽菜だよ〜!」


 一年ぶりに再会したトシ子みたいな勢いで心の底からうれしそうにぶんぶんと手を振ってくる。

 周りからの突き刺さるような視線が痛かったのですごく他人のふりをしたかったが、ここでそれをやってしまうとヘタしたら星ヶ崎さんが全力で泣き出しかねない。

 仕方ないので、小さく手を振り返して近づいていく。

 男たちは俺を見ると、「あ、これが……」という少しだけ気の毒そうな視線とともに静かに立ち去っていった。


「えへへ〜、今、けーくんとわたしがどれくらい深い絆で結ばれた歴戦の〝友だち〟なのかを説明してたところだったんだよ! あの人たち、すっごいびっくりした顔してた。きっとわたしたちの〝友だち〟強度の高さにおそれをなして撤退していったんだよね!」


 俺は星ヶ崎さんのそのメンタルにおそれをなしているよ……

 そんな俺の内心などまったくどこ吹く風で、当の星ヶ崎さんはひたすらに無邪気な笑顔を浮かべているのだった。



 待ち合わせからして前途多難だった俺たちがまず向かったのは、駅近くにあるカフェだった。

 主に学生と思われる若い客層で賑わっているその店は、何でも『アイドル・セブンス・カラーズ』のキャラクターとコラボをしているということで、星ヶ崎さんがご所望したのだ。


「そういえば星ヶ崎さん、アニメ好きなのか?」


 入り口で案内を待ちながらそう尋ねる。

 初めて『alone』で遭遇した時もそんな話をしていたし。

 その質問に、星ヶ崎さんが声を落とした。


「え? あ、う、うん。へ、変、かな……?」


 うかがうような調子でそうこっちを見上げてくる。


「いや、いいんじゃないか。『アイドル・セブンス・カラーズ』は俺も見てるし」

「!」


 それを聞いた星ヶ崎さんはぱあっと表情を輝かせた。


「え、そ、そうなんだ! あれめっちゃいいよね! 今期で一番っていうか、歴代で見てもかなり上位に入る感じ! あ、けーくんの推しは?」

「主人公の日向かな。不器用だけど一生懸命がんばってるところが見てて好感が持てる」

「わ、わたしも! 特に日向と向日葵の関係性が尊くて尊くてもう胸がきゅんきゅんしちゃうよね〜! わ、わ〜、わかってくれる人がいるなんて思わなかった! やっぱりけーくんとは相性ぴったりの心の友なんだよ! 好き!」


 だからそこでナチュラルに抱きついてこようとしないでくれ……!

 興奮して闘牛のように真っ直ぐに向かってくる星ヶ崎さんを制止しつつ、案内された席に着く。

 カフェ内はほぼ満席で、たくさんのお客で賑わっていた。


「このお店、SNSでも有名なんだよ。コラボドリンクを頼むと限定グッズがもらえるんだって! あ、すみませーん」


 うきうきした声で店員さんを呼び止める星ヶ崎さん。

 注文したメニューはすぐに運ばれてきて、鮮やかな色をしたドリンクと、コラボグッズのアクスタが星ヶ崎さんの前に並んだ。


「ふふ〜、これこれ。あ、写真撮っていいかな?」

「え? ああ、うん」

「やった! じゃあ、はい、けーくんもいっしょに♪」


 ぐいっと顔を近づけてくる星ヶ崎さん。

 その大きな瞳が触れてしまいそうな距離まで無防備に迫り、ふわりと石けんのような甘い香りが辺りに漂う。ち、近いな……

 そのままスマホのシャッター音とともに、星ヶ崎さんと俺とアクスタがいい感じに並んだ写真が撮られた。


「うんうん、映える感じに撮れてる撮れてる。それじゃちょこちょこっと加工したらアップしてっと……」


 何やらいそいそとスマホを操作する星ヶ崎さん。


「それ、もしかして何かのSNSに載せたりとか……?」

「そうだよ、インステに載せようと思って! え、えへへ〜、こうやって友だちといっしょの写真をアップするの、ずっとずっと夢だったんだ〜」


 本当にうれしそうにそう言う。

 だけど気になることがあった。


「それだと、俺といっしょに出かけたことが周りにバレるんじゃないか……?」


 いくら加工をしているとはいえ、見る人が見れば一発で俺だとわかってしまうはずだ。

 それはあまり都合がよろしくない。

 だけどその言葉に、星ヶ崎さんはふっと視線を遠くに送ってこう口にした。


「……だいじょうぶだよ……インステのフォロワー、『……」


 死んだ魚のような目。

 こっちも『0』なのか……


「……中学までは、その、お仕事の関係でこういうSNSは禁止されてたし、やり始めてからも鍵付きにしてるし、特に告知とかもしてないから……」

「仕事……」


 って、もしかして噂になっていた芸能事務所とかだろうか?

 それならSNS禁止とかもあり得るのかもしれない。

 少しだけ気になったが、あまり興味を持っているように思われてこれ以上親しくされても困るので、そこについては深く突っこみはしない。