学年で一番かわいい星ヶ崎さんと友だちになったら毎日密着が止まらない
第二話 星ヶ崎さんとデート ④
「……だからフォローしてる相手もいないし、これからも特に予定はないからだいじょうぶだよ……きっと一生、永遠に、変わることなく『0』のままだから……あはは……」
目はハイライトのままそう笑う星ヶ崎さん。
なんかさすがにちょっとかわいそうになってきた……
「あー、えっと、それなら告知すればだれかは気づいてフォローしてくれるんじゃないか?」
「え、わ、わたしごときがそんな大それたことしないよ! このアカウントはひっそりこっそりモグラみたいに地下に潜ってやってくつもりだから……」
「? 何で?」
友だちがほしいなら告知をした方が絶対いいだろう。
そうしないということは何か深い理由でもあるのだろうか。ああ、もしかしてそれも仕事関係で制限されているとか……
「え、だ、だって……」
すると星ヶ崎さんは胸の前で指をくるくると回して。
「だ、だって……告知して、もしもだれにもフォローされなかったら、こわい……」
とんでもなく浅い理由だった。
ネガティブすぎる……
「いやそんなこと……」
「あ、あるもん……! わたしみたいなシンクの隅の水垢がいきがって勘違いした映えな写真を上げてるとか思われるかもしれないし、そもそも告知してもだれも見てくれないかもしれないし……」
「……」
何でこの人はこんなに自己評価が低いんだろう……
「それならまずはだれかをフォローして、フォロバしてくれるのを待つとか……」
「じ、自分からフォローしにいってフォロバされなかったら、それこそいたたまれなくて死んじゃうよぉ……! そ、それにいったんはフォローしてくれても、そのあとにカスだって見限られてブロックされたりしたらもうわたしのライフはゼロどころかマイナスでゾンビになっちゃう……! ……あわわわわわ……」
「……」
なんかもう重症だ。
SNSに欠片も向いていないと言わざるを得ない。
「あ、そ、そうだ……!」
と、そこで何かを思いついたかのように星ヶ崎さんが声を上げた。
う、なんか良くない予感が……
星ヶ崎さんは手元で素早くスマホを操作すると、こっちを見てにっこりと笑った。
「え、えへへ、けーくんのこと、フォローしたよ! けーくんも……よ、よかったら、フォロバしてくれる……?」
「何でそうなる!? ていうかどうやって俺のアカウントを見つけたんだ!?」
「え、LIMEのアカウント名からアナグラムとかをだいたい推測して、検索をかけた中から総当たりして、過去一年くらいの写真を全部チェックしたらそれっぽいのを見つけたから、これかなって……」
「……」
何で当たり前のように言ってるんだろう。
それ特定班とかストーカーとかの技術じゃないのか……?
呆れを通り越して半ば感心してしまうも、そんな考えに浸る間もなく、星ヶ崎さんは迫ってくる。
「フォロバ、してくれるよね……?」
「う……」
「してくれるよね……?」
「……」
「くれない……の……?」
そこはかとなく瞳を潤ませながらじっとこっちを見上げてくる星ヶ崎さん。
見た目(だけ)はまるでダンスのエスコートをお願いするお姫様のようにいじらしいからタチが悪い。
俺は無言で……フォローバックのボタンに指をやった。
「わ〜い、けーくんのインステ、ゲットだぜ〜♪」
着実に〝友だち〟地獄への道を歩んでいるような気がする……
4
「えへへ〜、インステでも〝友だち〟できた♪」
スマホ片手に上機嫌の星ヶ崎さんといっしょにカフェを出た後も、色々な場所を回った。
適当に街を歩いて買い物をしたり、ゲーセンでクレーンゲームをやったり、途中にあった店でアイスを買って食べ歩きをしたりして、時間を過ごす。
「ねえねえ、このマンホールのかたち面白くない? 写真撮っとこ〜」
「わ、すごいすごい! けーくん、クレーンゲームうまいね! コツ教えて!」
「『アイドル・セブンス・カラーズ』のソシャゲ、すごい楽しいからけーくんも今すぐ始めようよ! ……ほら、わたし、いっしょにやってくれるフレンド、いないから……」
「あ、そっちのってチョコミント味? ひと口も〜らい♪」
最初はどうなることかと思ったけれど、それ自体は意外と楽しい時間だった。
星ヶ崎さんは、時折アレな面が顔を出したりはするものの、基本的には明るく人懐こくコミュ力が高く、色々なジャンルの話題に精通していて、話していて退屈することはなかった。
副産物としては、いっしょに歩いていると頻繁に周囲から視線が飛んできて、さらに「あの子、めちゃくちゃかわいくない?」「ほんとだ。芸能人とかかな?」「隣にいる男がうらやましい……」などの声が聞こえてくることもあったが、それ自体は別に特には気にならなかった。
ただ……
「ん、どうしたの、けーくん?(じ〜)」
「……」
「あ、見て、あっちで面白そうなキッチンカーが出てる! 行ってみようよ!(ぎゅっ)」
「……」
「ほら早く早くー!(ぎゅぎゅっ)」
「……」
「れっつごー!!(ぎゅぎゅぎゅぎゅっ)」
「…………」
近い。
とにかく距離が近い。
全ての場面で近すぎる。
今さらといえば今さらであるが、星ヶ崎さんは話しかけてくる時に真っ直ぐにジッと目を見てくるし、高い頻度でボディタッチもまじってくるし、そもそも絶対的に距離が近い。……喋っている時に、常に相手の顔が二十センチほどの至近距離にあることなんて、なかなかないと思う。
しかもそのことに、星ヶ崎さんがどうも自覚がないようだった。
「……あのさ、星ヶ崎さん」
「?」
「ええと、距離が近いって、言われない?」
「! え、あ、わ、わたし、またやっちゃってた……?」
言われて初めて気づいたような顔で、ビクッと身体を震わせながら俺から離れた。
「む……昔から会話の射程距離がおかしいって言われて……ぜんぜんそんなつもりはないんだけど……うう……」
「……」
まあ……そうだよな。
気づいて意識的にそれをやれるような性格なら、すでに友だちなり恋人なりできているだろう。
それができていないことが、何というか一つの答えだ。
「でも……」
「?」
と、そこで星ヶ崎さんはその大きな目を瞬かせた。
そのままじーっと真っ直ぐに俺の顔を見ると。
「なんだかけーくんは他の人とは違うんだよね。いっしょにいると安心できるっていうか、知れば知るだけ前よりもぐーんと近づきたくなっちゃうっていうか……ん〜、何でだろ?」
あいかわらず整った顔をぐいっと近づけながら、口元に手を当てて何やら考えこむような仕草を見せる。いやだからそういうところ……
「あ、わかった! けーくんとわたしの友だち運命力が高いからだよ!」
「は?」
「運命力が高いからお互いに引き寄せ合って、それでついつい距離が近くなっちゃうの! うんうん、実はけーくんを初めて見た時からなんかびびび! ってきたんだよね! きっとこの人は一生わたしの傍にいてくれる、特別で大切で唯一無二の〝友だち〟になれる相手だって!」
「……」
また新しい単語が出てきた。
友だち運命力って何なんだ……?
「え、知りたい? あのね、友だち運命力っていうのは友だちになるべく定められた二人に生まれた時から定められてる友だち係数のことなんだよ! この友だち運命力が高ければ高いほどその二人は友だちとして巡り合う可能性が高くて、さらには巡り合った後も運命の友だちとしてたくさんのイベントを発生させてくれるの! それだけじゃなくて──」
俺は意識を会話の外に逸らした。
よくわからない友だち運命力についての話をキラキラと目を輝かせた星ヶ崎さんに三十分ほど聞かされた後に、向かったのは映画館だった。



