学年で一番かわいい星ヶ崎さんと友だちになったら毎日密着が止まらない
第二話 星ヶ崎さんとデート ⑤
「やっぱり友だちと二人でお出かけっていったら映画だよね! ホラーにするか恋愛ものにするか意見が分かれて、それで悩んだ末に結局どっちでもないのになるんだけどそれが意外と面白くて盛り上がって、そのあとにカフェで感想会をやるまでがセットっていうか!」
という星ヶ崎さんの主張。
何がやっぱりなのかはいまいちよくわからないが、妥当な選択ではあったので、特に反対はしない。
窓口で二枚チケットを買って星ヶ崎さんに渡す。
と、そこで星ヶ崎さんが何やらもじもじしながらこっちの様子をうかがっていた。
「? どうかした?」
「あ、うん、えっと……」
また何か独自の友だち関連の謎理論(?)だろうか。
若干警戒する俺に、星ヶ崎さんは遠慮がちにこう切り出した。
「あ、あのさ、い、いっしょにポップコーン、シェアしたいな……?」
「ポップコーン?」
「う、うん。あの二種ミックスのやつ、食べたいなあって。今までは映画館に来るのも一人だったから、ああいうおっきいのは食べきれなくて買えなくて……だから、映画を見ながらだれかといっしょに食べるの、ずっと憧れだったり……」
困ったような笑みを浮かべてそう言ってくる。
確かにあの量は一人で食べるのには明らかに多すぎるだろう。
「……わたしとポップコーンをシェアしてほしいがさき……」
「……」
それ、気に入ってるのか……?
それはともかくとして、申し出自体は別に断るようなことでもなかった。
「わかった、味は塩味とキャラメル味でいいよな?」
「え、い、いいの?」
「ああ、シェアくらい大したことじゃないから」
「ほ、ほんと! じゃあ聴いてる音楽のプレイリストとか、スマホの写真とか動画とか、けーくんの現在の位置情報とかもシェアしていい?」
「それは大したことだから!」
何でちょっと油断するとすぐとんでもないことを言い出すかな……
眼鏡のリムを押さえつつ、ポップコーンと飲み物の載ったトレーを持って、二人並んでシートに座る。
休日ということでそれなりの人の入りだったけれど、両隣二席分は空いていて、快適だった。
やがて上映開始時間になり、シアター内が暗くなる。
本編が始まる前の予告編を見ながら何となく周りの様子に気を配る。
と、前の席にいた女子三人組が話しているのが聞こえてきた。
どうも今流れている予告アニメのキャラの一人の声がいいということについて話をしているみたいだ。
確かに透明感があって、耳通りの良い声だった。キャストはだれだろう?
「え、えへへ、そ、そうかな……?」
「?」
隣で、なぜか星ヶ崎さんが恥ずかしそうな様子で両手を自分の頰に当てていた。
映画の内容はよくあるものだった。
特別な状況下で出会った男女が、いくつもの困難を力を合わせて乗り越えて、最終的には結ばれるというもの。
万人受けしそうではあるけれど、同時に少しばかりありきたりとも言える。
だけど星ヶ崎さんは、終始食い入るようにスクリーンに視線を送っていた。
シーンに合わせて笑顔になったり、険しい表情を浮かべたり、時には泣きそうになったりと、くるくると表情が変わって実に忙しい。
こうしてみると子どもみたいだななどと思いつつ、ポップコーンを食べるために左手を伸ばす。
(……?)
と、何やら温かで柔らかなものが触れた。
明らかにポップコーンとは違う肌触りだ。
不思議に思い目を遣ると……
カップの上で……星ヶ崎さんと手が触れてしまっていた。
(……っ……!?)
いやこれはよくないだろう。
映画の暗闇に乗じて手を握ろうとしている軟派男に誤解されてしまう恐れすらある。
慌てて引っこめようとして、気づいた。
星ヶ崎さん、気づいてない……?
眼前のスクリーンに夢中で、意識が完全にそっちにいってしまっているようだ。
それどころか、ぎゅっと力強く握り返してくる。
今はちょうど緊迫したシーンだから、おそらく無意識にやっているのだろう。
そうなると逆にこっちからは離すに離せずに現状を保つしかなくなってしまう。
しばらくの間、左手に星ヶ崎さんの少しばかり体温高めのホカホカした温もりを感じていると。
(あっ……)
と、そこでようやく星ヶ崎さんも事態に気づいたようだった。
(え、な、なんでわたし、けーくんの手を握って……! む、無意識……!? 友だちマグネットパワー……? ご、ごめんなさい……っ……!)
(あ、いや、これはむしろ俺が……)
(わ、わたしの手、き、気持ち悪くなかった……? 手汗がナメクジが吐き出す粘液みたいにねっとりしてて、今すぐアルコール消毒をしたくなるほど不快じゃなかった……?)
(それはぜんぜん大丈夫だから!)
どういう比喩をしてるんだよ。
(そ、そっか、ならよかったよ……)
心底安心したように息を吐く。
だけど少しして、ちらりとこっちを見た。
(あ、で、でも……)
(?)
(あのね……)
と、そこで星ヶ崎さんはそっと俺の耳元に顔を近づけて。
(こ、こういうハプニングも……なんか、友だちと二人で来てるって感じがして……いいかも……へへ……)
そう、少し照れたようにささやいた。
まあ確かにそれはそうかもしれないんだが……
それよりも、俺には気になったことがあった。
なんかゾクゾクする……
耳元でささやく星ヶ崎さんの声がなんかやたらと色っぽい。
これはあれか、暗闇ということも相まって、ちょっとASMR的な効果が発揮されているのか……?
(それにけーくんの手、あったかくてなんか安心できるし……も、もうちょっとこのままでもいいかな〜、なんて……)
(……)
(けーくん……?)
(……っ……)
ビクリと身体が反応してしまった。
するとそれに気づいたのか、星ヶ崎さんがにんまりと笑った。
(あれ、なんかすっごい反応してる? けーくん、もしかして耳弱い? えへへ〜、だったら……)
(……ふぅ……っ……)
(……っ……)
さらに息を吹きかけてくる。
甘やかな吐息がスルスルと耳の奥にまで滑りこんできて、思わず小さく声を上げてしまう。
(えへへ〜、けーくんの弱点、見つけちゃった♪)
そう言って星ヶ崎さんはちょっとだけうれしそうに笑うと、
(……ふうぅ……)
(……!)
(ふぅうう……)
(……!!)
(ふぅうううううううううううううううう……っ……)
(……!!!)
まさかの連続耳吹き。
まるで心地よい春風が耳から全身に吹き抜けていくかのようで、力が抜ける。
(ちょ、星ヶ崎さん、何して……)
(え〜、だってびくんびくんってするけーくん、かわいい……♪)
(か、かわいいって、あと言い方……!)
なんか絶頂に達してる人みたいになってるから!
(ふう……っ……♪)
(!?)
た、頼むから人のことを弄ばないでくれ……
その後も映画が終わるまで、星ヶ崎さんは手を握ったまま、幾度となく時折耳吹き攻撃を仕掛けてきたのだった。
5
「──今日はありがと、けーくん」
映画館を出た後は、星ヶ崎さんのお望み通り近くのカフェで感想戦をして。
その後は買い物をしたり、プリクラを撮ったり、近くの公園を適当にブラブラ散歩したりして過ごし。
やがて解散の時間になり、別れ際の駅の改札で星ヶ崎さんが満面の笑みでそう言ってきた。
「お出かけ、けーくんのおかげですっごくすっごくすっごく楽しかった! 今まで生きてきて楽しかったことランキングトップ3入り! 今日のことはもう一生の思い出にするよ! きっと走馬灯を見ることになったら真っ先に思い出すと思う!」
「あ、いや……」
あいかわらず重い。
成人式とかの人生の一大イベントとかじゃないんだから。
とはいえ……思いのほか楽しかったのは俺にとっても同じだった。



