わたしで童貞捨てたくせに

第一話 幼馴染の裏表 ③

「でもでも、あんな風に情熱的に助けられたら、女子的にちょっと嬉しかったり、胸がキュンとしたりしなかった?」

「しません」

「ホントにぃ~、少しも~? 宮町くんってクォーターだし、結構イケメンだしさ」

「はい、まったく、これっぽっちも。宏太くんの顔が、客観的に見ていいのは認めますけど」

「むぅ、あたしだったらさ、テンション上がってお礼にほっぺにチューくらいするなー」

「っていうかですね、私としては普通に背中に負ぶって欲しかったです」


 はぁ、と咲良はこれ見よがしに大きなため息を吐く。

 それに対し、陽菜子もケラケラと笑いながら揶揄うように言う。


「ま、結構な騒ぎになっちゃったもんね」


 宏太がバツの悪い顔を作っていると、隣の涼介ふとした疑問を零す。


「でもさ、実際宏太的にも、実はわざとお姫様抱っこしたんじゃないか?」

「ないない。背負おうとすると、咲良から動いてもらわなきゃだろ? もし大怪我だったらことだし、直接抱えた方が効率的ってだけ」

「ホントかぁ~?」


 宏太が片手を振りながらそれは違うと否定するも、涼介はなおも訝しむ目を向けてくる。

 しかし代わりに咲良が呆れた声で、宏太の意見を肯定した。


「それ、本気で言ってますよ。宏太くん、昔からそんなでしたし」

「さすが、咲良はわかってくれているようでなにより」

「褒めてませんっ」

「あははっ」


 咲良からもそう言われると、涼介も肩を竦めて引き下がるしかない。

 それでも少し残念そうに、感じていたことを漏らす。


「そっかぁ。オレはてっきり、宝仙寺は俺のだぜアピールかもって思ったんだよな~」


 すると陽菜子も涼介の言葉に同意を示す。


「あ、それあたしも思った! 普段からイチャイチャしてるし!」

「「してない(ません)!」」


 すぐさま声を重ねる宏太と咲良。

 その様子を見て、ほらやっぱりと言いたげにニヤニヤした目を向けてくる涼介と陽菜子。


「だってなぁ、オレらからしたらそれでまだ付き合ってない、っていう方がおかしいくらい」

「うんうん、てか今日のお弁当だって咲良ちゃんと宮町くん、同じ内容だしさ」


 そう言って陽菜子は宏太と咲良の弁当箱へと目を向ける。

 本日の二人の弁当内容は、どちらもオムライス。彩りと栄養面も考えて、ミニトマトとブロッコリー、それからカットされたリンゴも添えられたものだ。

 宏太は少し得意気になって答える。


「そりゃ、今日の弁当は俺が作ってるからな。いつも咲良と交代で弁当用意してるし。今日のオムライスの出来は自信があるんだ。ったく、咲良の寝坊が俺の担当の日でよかったな」

「むぐっ」


 宏太がついでとばかりに今日の寝坊を茶化せば、咲良が拗ねたようなジト目を向けてくる。

 そんな二人を見て涼介と陽菜子は「「説得力ッ」」と声を重ねて突っ込む。

 とはいえ、友人たちの気持ちはわからないでもない。周囲で自分たちが付き合っているという噂があるのも知っている。咲良とも顔を見合わせ苦笑い。

 それでも宏太は、一応とばかりに言葉にして形作った。


「ま、幼馴染だからな。それ以上の目で見られないんだよ。咲良は可愛いと思うけど、咲良は咲良。ほら、美人は三日で飽きるとかいうだろ?」

「そうですね。私も宏太くんが生まれてからずっとすぐそばに居てこうですから、色々と諦めてますので」

「おいおい、諦めてるって」

「そっちこそ、飽きるっていう方が酷くないですか⁉」

「美人ってのは否定しないんだ?」

「~~もう、揚げ足を取る! バツとして食べ終わったら、生徒会の仕事を手伝ってください!」

「はいよ」


 お箸を持つ手で鼻先を突いてくる咲良に、宏太は降参とばかりに軽く両手を上げる。

 そして二人は残りの弁当を素早く平らげ席を立ち、涼介と陽菜子に「それじゃ」と声をかけ、連れ立って教室を後にする。

 一連の阿吽の呼吸とでもいうべき流れを見ていた涼介と陽菜子は、嘘だろうと言いたげな顔を見合わせた。


「息ピッタリで出ていったな……」

「あはは、あれで付き合ってないって言われてもね……」


 

 

 咲良は生徒会役員の庶務である。

 その仕事内容は備品の管理や部室等での違反がないかの見回り、会議のセッティングに告知ポスターの張り出し、他には各部活や委員会との折衝など様々。ある意味、何でも屋だ。

 生徒たちと顔を合わせる機会が多いことから、生徒会の看板的存在ともいえるだろう。咲良の名が学園内で知れ渡った一助にもなっている。

 そして宏太はそんな咲良の生徒会庶務の仕事を頻繁に、それこそ毎日のように手伝っていた。

 周囲からは咲良と同じ生徒会のメンバーと思われているが、あくまで協力者。所属はしていない。もちろん、咲良からも内申点的にも正式に入ればと誘われている。しかしなんとなく咲良の手伝いはいいけれど、生徒会として仕事をするのが、宏太的にしっくりこなかったのだ。

 この日の昼休みの庶務仕事は、図書委員から申請されていた本が入荷されたので、それを引き渡すというもの。

 宏太と咲良はまず職員室へ訪れ、手続きをして届けられた本が入った段ボールを受け取った。


「本は俺が持つから、咲良は書類回り頼む。って、結構重いな?」

「荷物、よろしくお願いしますね」


 宏太と咲良はそんなやり取りをしつつ、肩先を並べて、廊下を歩く。

 すると宏太は、ふいに隣から漂う香りがいつもと違うことに気付く。


「あれ? 咲良、もしかしてシャンプー変えた?」

「よく気付きましたね?」

「そりゃ昔からそういうの、咲良に鍛えられてるからな」

「ふふ、それはなによりです。先日美容院で、お試し用を貰いまして。どうですか?」


 そう言って咲良は機嫌良さそうに、こちらへ頭を向けてくる。宏太は躊躇なく咲良の頭に顔を近付け、すんすんと匂いを嗅いだ。


「ん、仄かにベリー……イチゴか? 甘酸っぱくて、春らしくていいんじゃない?」

「そうですか、よかったです」


 咲良は機嫌良さそうに、ふにゃりと頬を緩める。

 宏太も釣られてニコリと笑みを零す。

 そんな他愛のない話をしながら、図書室へ向かう。

 昼休みの校内は勉強から解放され、一時の自由を謳歌する空気が流れていた。

 グラウンドで部活動の練習に励む人たちや、中庭で飲み物片手に談笑する人たち。

 時折、咲良に片手を上げたり頭を下げたり挨拶する生徒ともすれ違う。宏太に覚えはないものの、生徒会の仕事で知り合ったのだろう。相変わらず人気のようだ。

 あちこちの教室から聞こえる賑やかな声から遠ざかるように、校舎の隅の方へ。

 お昼の喧騒から切り離された物静かなところに、図書室はあった。

 両手が塞がっている宏太は、咲良に扉を開けてもらう形で中へと入る。

 図書室にはあまり人がおらず、自習で利用している生徒が片手で収まるくらいの数がいる程度。閑散としたものだ。

 受付では図書委員と思しき男子が二人、それぞれ文庫本を読んでいたようだった。彼らは珍しい来客に気付き入り口に目を向け、咲良の姿を捉えた瞬間、目を丸くして相好を崩す。

 咲良もまた彼らにニコリと笑みを浮かべ、片手を上げながら受付へ移動する。宏太もその後に続く。


「生徒会です。こちら、頼まれていた本が届きました。目録の確認と、間違いがなかったらサインをお願いします。えっと、宏太くん?」

「はいよ。これ、どこに置けばいい?」


 名前を呼ばれた宏太は、本の入った段ボールを少し上に掲げてアピールする。


「あ、ありがとうございます。ではそちらに――」


 図書委員の指示に従い、受付の隅の方へと荷物を置く。彼らは早速段ボールを開け、咲良が持っていた書類とにらめっこしながら、不備がないか検める。

 彼らの様子が少し興奮気味なのは、自分たちが望んだ本が届いただけじゃなく、咲良と話せるからというのもあるだろう。


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