わたしで童貞捨てたくせに

第一話 幼馴染の裏表 ⑤

 外では誰にも見せることのない気を緩んだ姿を見せるのは、宏太が幼馴染だからだろう。それも筋金入りで、こってこての。

 同じ日に同じ病院で生まれ、住んでいる家も隣同士というだけでなく、互いの部屋も窓を開ければ目と鼻の先。家族ぐるみの付き合いの中、二人一組で育てられ同じ杯ならぬ哺乳瓶を交わし合い、兄妹以上に姉弟な間柄。

 一緒にいる時間を重ね過ぎ、それぞれのことは家族以上に知り尽くし、距離感が近いとかでなく、もはや隣にいるのが当たり前。

 学校では猫を被っている咲良だが、宏太にだけは明らかに態度が違う。

 事実、中学に上がり周囲が色恋沙汰のアレコレを意識するようになると、皆から付き合っていると思われるようになった。

 お互い、特別で掛け替えのない相手だと思っている。

 また、年頃の男女でもあるという認識もあった。

 ――一度、恋人として付き合ってみない?

 咲良からそんな提案が飛び出したのは、当然の帰結といえよう。

 そして盛大に歯をぶつけ合うぎこちないファーストキスを合図にして、実際に付き合ってみた。

 去年の夏の終わりから、期間にして半年ほど。

 待ち合わせて買い物に出掛けたり、映画やアミューズメント施設に遊びに行ったり、祭りなどのイベントにはいつもと違う装いで赴いたり。もちろん、デートの際には手も繋ぐしキスもした。

 おおよそ、カレシカノジョらしいことは一通りこなしただろう。

 その時のことは今思い返しても、どれも楽しかった記憶で溢れている。

 だけど、どうしてもお互い最後まで異性として見ることができなかった。それこそ二人の同じ誕生日に童貞と処女を交換して以来、幾度となく身体を重ねても、これまでと同じ幼馴染以外の認識に変わらなかったのだ。

 お互い恋愛対象にはならない。

 そのことを思い知った宏太と咲良は、高校二年に進級する際に恋人関係を解消し、元の幼馴染に戻っている。

 普通、付き合って別れた相手とは気まずくなるものだろう。

 だというのに、現在宏太の部屋に流れている空気はこれまでと変わらない。

 きっとそれはやはり、咲良が相手だからだろう。

 つくづく、自分たちは幼馴染なのだと思う。

 いつしか宏太はテストの問題を見直し終えていた。咲良の教えの甲斐もあり、全て正解だ。

 開放感から、「ふぅ~~」と大きく息を吐く。

 するとこちらに気付いた咲良がベッドで寝ころんだまま、漫画からこちらへ顔を向けてきた。


「どったの? 終わった? わかんないところない?」

「終わった。んで今のは、咲良のはしたない恰好に呆れてただけ。もう少しこう、恥じらいをだな」

「今更でしょ。それに、そういうのは学校でお腹いっぱい」

「目のやり場に困るって言ってんの!」

「あはっ、そういや宏太は私で興奮しちゃうんだったね。見る? ちょっとくらいならサービスするよ。カレシじゃないから、ヤラせてあげらんないけど」

「こら、やめなさい」


 今さら宏太に下着を見られることぐらい何とも思わない咲良は、しなを作ってスカートを捲ってくるので、慌ててその手を押さえて止める。

 一度恋人関係を持ってしまい、握られる弱みを増やしてしまった幼馴染にジト目を向けるも、咲良はただくつくつと愉快そうに肩を揺らすのみ。

 そんな咲良を見て宏太はガリガリと頭を掻き、心の中で日頃から思っていることを毒づいた。

 

 ――これだから、幼馴染って厄介だ。


 


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