天才失格 -堕ちた魔王、探偵となる-
閑話 優しき呪い ③
玖全の両親は、あのマンションの家にほとんど来ないみたい。両親の関係は冷え切ってて、どちらも子供に愛情もなく、でも世間体として離婚もしない状態らしい。そんな中で、どちらも子育てをしたくないから、結果として玖全は小学生にしてあの家で一人暮らしさせられているらしい。
もちろん、すごくグレードの高いホームAIと、その物理端末のロボを置いて、身の回りのことは完璧にやらせているし、お金も十分にもらってるみたいだけど……。
近年問題になってるAIネグレクトっていうやつだ。
子育ても全部AIとロボットに任せちゃうってやつ。
AIは確かにいろいろやってくれるけど、人間が育てないせいで、愛着障害とか、精神的な問題が起きやすいらしい。普通はそれで問題が起きて……というかAI側が病院の診断を勧めて保護されるケースが多いんだけど……玖全の場合はそうならなかった。
それは玖全が強かったおかげ……ううん。強かったせい、が正しいんだと思う。
HATの才能抜きにしても、年齢不相応に頭が良くて、なんでもできて……だからこそ、この異常な家庭環境に、玖全は適応できてしまった。
その能力の高さは、きっと手放しで褒めちゃいけないことだった。けど、当時のアタシは、そこまで考えられなかった。
ただ、珍しく悲しそうに話す玖全を元気づけたいって、そう思った。
だから、「ていうわけで、俺は一人なんだよ」と、言った玖全に、アタシは……、
記憶の中のアタシの口が開く。
「だ、だいじょうぶだよ! 玖全すごいし!」
言っちゃダメ。その先は、言っちゃダメ。
そう願っても、過去は変えられない。
アタシは、玖全に向かって、こう言った。
「玖全ならさ、きっとさ……一人でも生きていけるよ!」
「……!」
その言葉を聞いた玖全は、雷に打たれたみたいな衝撃を受けた顔をしていた。
そして……、
「そっか……。そうだよな……」
その日から、玖全の心から『他人』の文字は消えた。
元々他人と関わろうとする人間じゃなかったけど、今まで以上に一人でなんでもやって、特に誰かに頼るということを強く嫌うようになった。
遠ざけるわけでもないけど、人と深く関わろうとしない。人に頼ることも、人を知ることもなくなって、何もかも全部ひとりでやるようになった。今まで以上に。
人は一人で生きるものだって、そのころから言うようなった言葉の通りに。
なんでも全部自分一人でやるなんて、普通はできないはずなのに、玖全は一人で普通の人の何倍も早く、高いクオリティでできた。玖全の能力と、HATによる能力の拡張がそれをできるようにしてしまった。
でも、根っこのお人よしなところは変わってない。
蜂の囮役をやったときもそう。『もらったアプリの試運転』とか言いながら、結局囮役を買って出た。
探偵になることを渋ってたのに、突然「やる」って言いだしたのも、きっと才能を盗られたアタシのことが心配だったからだ。……実際は、才能盗られるどころか、死んじゃってるんだけど……。
自分がどれだけ困っても人の手を借りずに生きて来たからこそ、一人で生きる大変さを玖全は知ってる。だから、自分なら困らないことで困ってる人を見てイラつきつつも、それを見捨てられないんだと思う。
玖全は、自分で孤独になろうとしてる。
あれだけ能力があって優しいのに、それはもったいないし、悲しいことだとアタシは思う。
アタシの言葉だけが、玖全を今の性格にしたとは思わない。
でも、あの時のあの言葉が、引き金になったことは間違いない。
玖全の中で積み重なっていた、自分が他人よりずっと優れてるっていう自信と、頼りにできる人がいないっていう絶望に、アタシがとどめを刺したんだ。
だから、これは呪いなんだ。
アタシは、玖全を一人にしたくない。
玖全を
あと、アタシたち二人なら、マジでなんでもできるしね。それも楽しい。
結局玖全は、なんだかんだ言って付き合ってくれる。しかも、やれば楽しんでくれるし。
だから、アタシがいなくなったら、玖全は本当に一人になるし、一人でい続けていいってままだと思う。
それは、嫌だ。絶対に嫌だ。
アタシの呪いのせいで、そんな結末になるなんて、絶対嫌だ。
だから、アタシは、玖全にかけてしまった呪いを解くまで、死んでも死にきれないんだ。



