ラプンツェルの翼
1:少女育成計画《オペレーション》 ④
「い、妹なんだ。ほら、昔事故があって、親が死んで母方の
「……
美穂がはっと目を
「そうそう、奈々だよ。美穂が会うのは小学生のとき以来だったよな」
「そっかあ、そうなんだ」
「そうだよ、そうなんだよ」
「そっか、奈々ちゃん久しぶりだねえ…………って、なわけないじゃない。だって、だって奈々ちゃんは……」
美穂が表情を
「これは犯罪だよ。こんな小さな女の子を……」
「泣くな、泣いたってこの状況は変わらない」
「でも、私まだ迷ってる。悪いことをした友達をかばう正義を取るか、社会的な倫理を優先するか……私はどうすればいいの」
遼一は泣く美穂の手を取った。
「わかった、泣くな、泣かないでくれ」
本当のことを言おうと思った。あまりに突飛な出来事だったが、美穂には……
「実は……」
そのとき遼一の手がぎゅっと握られた。はっと振り向くと、少女が手を握ってこちらを見つめていた。
「……お兄ちゃん」
少女が無表情でこちらを見ている。
「奈々ちゃんなの? 本当に奈々ちゃんなの?」
美穂が硬い表情を向け少女に聞いた。
「私は奈々だよ」
少女は、はっきりと言った。
*
下落する内閣支持率、都庁の
変化はなし。出窓からの景色もベランダの
外が暗くなり、少女の姿が窓に映る。少女は壁を背にして座って、ぼそぼそと何かつぶやいている。
「十一種類のビタミンをはじめ、六種類のミネラル、タンパク質、脂質、糖質を手軽に
少女はカロリーメイトの黄色い箱を手に持ち、その説明書きを読んでいた。言葉の学習をするかのように、やたらに音読を繰り返している。
「なあ、おまえは
「……
少女は平然と答え、今度は
「あのときはそう言ってくれて確かに助かった。でも奈々のわけがない。妹とはもう十年以上は会ってないんだ。交流はない」
妹が母方の
「……なおのこと都合がいいのでは?」
少女の口調もそうだが、教科書にじっと視線を向けるその表情には子供らしさがまったく感じられない。
「あの状況は収束した。雨降って地固まる」
「その
少女はすっと立ちあがると、教科書をベッドに放り投げて本棚から別の本を取りだした。
「言葉、最初は使用不可。その後、テレビを見て学ぶ。NHKが一番学習効率がよかった」
だからこんな硬い口調になってしまったのだろうか。
「とりあえずトランクに入った
「……経緯? 私の
「どういうことだ?
やはり犯罪がらみなのか。そのときのショックで記憶を失っていると。
「記憶喪失? その感覚わからない。でも、トランクから出たときの私は……真っ白。視界も音も
「だったら、生まれるってのは母親のお
「……私も自分がわからない。テレビや本を読んでも解答は出ない」
「
遼一にトランクを押しつけたあの女が犯人なのだろうか。
「私は……なんなのだろう」
少女はテレビに映る女性タレントをじっと見ている。
「ていうか、その言葉遣いをどうにかしろよ。もっと子供らしい話し方があるだろうが」
「テレビのアナウンサーはこのような感じ。全国的に晴れ間が広がるでしょう、
「ニュースばっかり見てたからひねた口調になったのか」
「……何してるの?」
少女が外出の用意をしている遼一に視線を向けた。
「やっぱり届けようと思ってさ。このままじゃ
「私を届ける? 宅配便? 速達?」
「警察に届けるって意味だ。そのほうがおまえにとってもいいぞ。親が見つかるだろうし」
正直これ以上の介入は無理だった。ひとりで抱えるには問題が大きすぎる。
「……
「こっちが困るんだよ。これ以上無理だ」
「私はここにいると、意思表示してる……その意見、拒否」
「おまえが選べる立場じゃないだろうが」
遼一は少女を
「選ぶ立場じゃないのは君のほう」
少女は遼一の視線にひるむことなく視線を返した。
「警察にあることないことを言うとか? そんな
「……もっとシンプルに脅す」
「どういうことだ?」
「武力行使」
少女は立ちあがると、ぽきっと指を鳴らした。そんな彼女を見て
「へえ、武力行使ってどうやんの、
遼一は両手を
「警告します。それ以上近づくと
少女はテレビで見たらしい
「ああっと怪獣が生意気な子供を
遼一は少女の
「必殺キューティーアタック」
同時にドスッと鈍い音がし、遼一はベッドに吹っ飛んだ。抱え上げていた少女が遼一の胸を
「わかった、わかった。怪獣ごっこはやめよう」
遼一が言うと、少女は蹴るのを止めた。
その
「ごめんなさいは?」
遼一は少女にまたがって両手をがっちりと押さえて言った。
「怪獣ごっこはやめようと言ったのに」
少女ははだけた胸元を気にすることもなく冷たい視線を向けている。
「次はプロレスごっこだよ」
「……プロレスか」



