ラプンツェルの翼
1:少女育成計画《オペレーション》 ⑤
少女はブリッジをして遼一の体を浮かすと、
腕の痛みと、押しつけられた少女の太ももに
ゲホゲホと
「ま、まさか、ちょっと待て……」
遼一は悲鳴と共に
「格闘技番組も視聴した。深夜番組」
少女はいつの間にか机に上っている。机の上から体を投げだしてのプランチャでフィニッシュするつもりだ。
「わかった、プロレスごっこも終わりだ」
「……終わりか」
少女は机からストンと降りた。
「格闘技見たからってそれはねえだろうが」
「明らかに異常。私と君の筋肉を比較すると、格闘戦で私が勝てるはずがない。しかし事実はこう。私の存在には何か秘密があるはず」
少女は乱れたワイシャツを直している。
「だったらなおさらだろ。ここにいても、たぶん何も解決しない。それか秘密を知りたいとかなら、ひとりでやるべきだろうが。
「勘違いしてる。私は協力を求めてない。
少女が遼一を見つめた。
「……どうするつもりだ」
「今後のためにも、人の殺し方を学習しておく必要がある、かも」
少女は先ほどまでプリンを食べていたステンレス製スプーンを、紙のようにくるくると丸めて床に放り投げた。鉄塊となったスプーンが遼一の足下に転がる。
「書籍やテレビ番組で、人間が一番恐れているのは死だと教えられた。そして、こんなシーンでは、殺さないでくれと人間は泣き叫ぶ」
少女が歩み寄ってくる。遼一の心臓がどくどくと高鳴った。
「私は思う。
少女の冷たい視線に汗が噴き出て全身が
まただ、と、思った。何かの
「……どうした?」
少女がこちらを
「……違うね。その意見は違う」
「死はスイッチのような単純なものだよ。死の向こう側なんて存在しない。テレビを消すようにシンプルなシステムだ」
「
「人間なんて簡単に死ぬからな。生きてる意味がないくらいに」
遼一はあっけなく事故で死んだ両親を思いだした。そんな
「じゃあ何故、君は生きている?」
少女が聞いた。
「ただぼんやり道を歩いてるだけのことだ。そいつにどこに向かって歩いている? って聞いても答えなんか出てこない」
どこを歩いているかもわからない。道の先がどこなのかもわからない。何もわかっていないのだ。自分すらも……
少女はじっと遼一を見ていたが、床に投げ捨てた本を拾ってベッドに座った。
「どうした、殺すんじゃなかったのか?」
「計画変更する。いつでも殺せるなら生かしておく。この生活に、まだ君は必要」
「警察に届けるかもしれないぞ」
「監視する。常に私は君のそばにいる。そして、私に害をなす行動をしたときに殺す」
「勝手だな」
遼一は重い息を吐いて出窓に座った。
暗くなった外を見ながら呼吸を落ち着ける。
彼女は人間ではないのかもしれないと、そんな
「……遼一」
少女が呼んだ。視線を向けると、少女は辞書をパラパラとめくっていた。
「さっきの私の行動、悪かった。私は自分が何か知りたいだけ」
「
「私は今の時点で
「脅して
「世界規模で考えた。無駄な争いは両者にとって損失。歴史の本で読んだ。イラン・イラク戦争、朝鮮戦争、米ソ冷戦などお互い
正直どうでもいい気がした。世界的規模で考えた。投資により
「それまで、私は
少女は無感情な視線を向けている。
「……いつでも殺せるように、ずっと君のそばにいる」
少女──相沢奈々はそう言った。
*
奈々との生活は
奈々は相変わらず本を読みニュースを見て、パソコンでネット上の情報なども調べるようになっていた。しかし、徐々に知識以外のことにも興味が向いていた。
現在の奈々はベランダでケージの中の
「……遼一」
ベランダから奈々が声をかけてきた。
「どうした?」
「お
遼一は渋々立ちあがって冷蔵庫を見たが、食材はほどんどなくなっており、調味料の
「もう食べ物がないんだ。外に買いに行かないと」
「外……もう少し知識を仕入れてからでないと怖い。慎重に行動したい」
奈々はベランダの向こうに気になるものがあるのか、ぴょこんと片足を曲げ鉄柵から身を乗りだしている。シャツの
台所の棚からインスタント
お湯をカップ麵に注いでいると、ベランダから奈々が戻ってきた。
「……インスタント食品。栄養価が低くて体に悪いとテレビで言ってた」



