ラプンツェルの翼
2:課程《プログラム》 ①
ガラステーブルの上にアイスコーヒーを置くと、女性が軽く頭を下げた。ライトブラウンのロングヘアーに整った顔つき、チェックのスカートからすらっとした足が
とりあえず
「どこから話せばいいでしょうかね……」
女性は困ったように頭を
「君の名前は?
「私はリサと言います。あなたは
リサと名乗った彼女はにこりと笑った。
「プロフィールは調査済みです。相沢遼一、十六歳。十月二十七日生まれ、血液型B型。高校二年生でロッククライミング同好会に所属。趣味は映画鑑賞と
リサはトートバッグからファイルを取りだしてパラパラとめくっている。細かな情報に遼一は
「両親は遼一さんが小学一年生のときに交通事故で死亡。遼一さんは父方の
リサがちらっと遼一を見た。
「よく調べているけど、俺のことはいい。問題は君と、あの子のことだ」
遼一は壁に寄り掛かっている奈々を指さした。
「彼女には名前はないのですよ」
奈々は口を挟むことなく、じっとリサを観察するように立っている。
「順を追って話しましょう。まず、トランクをあなたに渡したときのことからですかね」
遼一の脳裏にあの場面がフラッシュするかのようによみがえった。血と悲鳴の中、ただ立ちつくす自分自身。頭がズキンと痛んだ。
「あれはなんだったんだ?」
額の汗を
「あれはですね、
リサはさらっと言った。
「へーえ」
「ご安心ください、私は人間を守る天使サイドですから。私たち天使は、人間界の秩序を守るために、格安の料金で働いているわけなのです。まあ一番苦労しているのは、現場の私たち
リサは指をくるくると回しながら説明している。
「とりあえず、憎き
リサがちらっと遼一に視線を向けた。
「天使と悪魔、ね」
遼一はコーヒーを飲みながらつぶやいた。
「ネーミングはちょっとアレですけど。まあ企業のような団体ですから。天使カンパニーみたいなノリでしょうか。臨海地区のユーロランドのメインスポンサーですよ」
「でかい企業じゃないか……」
ユーロランドは湾岸のレジャーランドで、スタッフが美女
「ちなみに、正式には悪魔はバグといいます。バグはプログラムの
社会の
「私たち天使は
「私たちの構造っていうと?」
「私たちは、体は人間ですが精神内部は違います。表現するならプログラムデータでしょうか」
「それで、あのときの戦いは
「そのバグ、は、人間を攻撃するの?」
それまで
「基本的には
「そんな存在がいたとしたら、もっと大げさなニュースになってるだろ。そして、社会全体で対策が取られるはずだろ」
バグに食われた人間の話など聞いたことがない。
「あなた方が思う以上にバグはたくさんいるのですよ。そして、ひっそりと社会に寄生して人間を食べています。彼らは知能が高く社会に順応しているのです。見た目は人間と同じで区別がつかないのです。私たち
「だったらなおのこと、世間に広めて対策を取るべきだろ。今言ってることが本当だったらの話だけどな」
「本当だとしたら、対策の取りようがないわよ。言ってどうする? パニックを引き起こすだけだわ。人間同士が
「彼女の言うとおりです。ですから私たち
遼一は、リサがバッグから取りだしたDVDを受け取るとデッキに差し入れた。
「これはですね、バグを捕らえたときの映像なのですよ」
再生ボタンを押すと真っ黒な画面が表示された。奈々もテレビの前に立ってじっと映像を見つめている。そのまましばらく待つと、
蛍光灯に照らされ冷たく光を反射するコンクリート。
不意にアングルが変わる。コンクリートの部屋の中で、カメラは何ものかを
「……なんだ?」
遼一は顔をしかめた。カメラが捉えたもの全体にモザイクがかかっていた。揺れ動くモザイクとしか見えない。目がチカチカとする。
「バグを映しています。いろいろ問題があるため、モザイク処理をしているのですよ」
カメラアングルが少しずつ動いて部屋の様子が確認できた。人がいる。
「彼は身元不明の犯罪者なのです」
「モザイクがバグ? 犯罪者はどうなるんだ?」
「社会的モラルに反していますが、バグ研究のために仕方ない側面もあるのです」
「……まさか、
遼一はリサの説明にどきりとした。
しかし違和感があった。椅子に縛られた男性は
「そろそろですよ」
リサが言うと同時に、モザイクが男性に近づいていく。男性は薄笑いを浮かべたまま、モザイクに向かってなにやら言葉を発している。音声はなかったが、唇の動きから何か
モザイクが男性と重なった。男性にのしかかっているような感じだろうか。
「首筋に
悲鳴を上げる口から



