アトリウムの恋人
1 Sports & Simulation Society ③
前田は一年生の教室がある廊下を走り、一年四組の教室のドアを乱暴に開け放った。しかし教室の中には誰もいない。しばらく探し回り、やっと一年四組が校庭にいるという情報を得る。校庭に出ると、
「あれ、
前田に声をかけてきたのは
「なに校庭でバーベキューとかやってんだよ」
前田は一年四組のイベントに
「テスト終了パーティをぱあっとやろうってことになりまして。それより、僕に用ですか?」
「そうなんだよ。ちょっと困ったことになった」
前田は他の生徒から少し距離を置いて雪村に事情を説明した。
「……東京スフィアのチケットですか」
雪村は複雑な表情をしている。
「それで、俺たちのサークルに入部したいとか言いだしてた」
前田が
「そういえば、遙花さんは部活もサークルにも所属してませんでしたね。でも、なんで先輩に相談したんですかね。オンラインゲームサークルだけの
「ああ、そうだ。あの遙花が、なんのつもりなんだろう」
「まあ、でも
前田はうなずいた。確かにそのとおりだ。
基本的に五人以上のメンバーを集めて
そして、同じ種類のサークルを複数設立してはいけないという規定もある。乱立を防ぐためとの処置だが、
「正式に活動していたらサークルで協力してくれた? とか聞いてたけど、仮登録じゃ無理だからな……」
前田は自分で言ってからどきりとした。
「なあ、
「うーん、ちょっとそれは難しいと思いますよ。名義貸しを防ぐために立ち上げは五人で、三ヶ月のテスト運営期間を
「あ、心配することまったくなかったか」
前田は
「でも、どうしてチケットを手に入れたんですかね」
「そうだよなあ。ちょっとこれから
「あっ、前田
近寄ってきた女子生徒が、
「サンキュー、火があるとやっぱりマシュマロ焼いちゃうよなあ」
「なんか平和な感じですねえ。今日は部活もなくて校庭ががらんとしてますし」
「そういや
「うーん、運動部の上下関係があまり好きじゃないんですよねえ」
「おっと、そろそろ表面が
雪村と並んでマシュマロを焼いていた前田は、はっと動きを止めた。
「遙花さんですね」
雪村も気づいたようだ。校舎の出入り口に彼女の姿があった。遙花は他クラスの女子生徒と立ち話をしている。
遙花に話しかけられていた女子生徒は、じっと遙花の後ろ姿を見ている。その後、ちらりとこちらに視線を向けてから校門へ向かった。
「……なあ、まさか」
前田と雪村は顔を見合わせた。遙花が話しかけていたのは二年生ナンバーワンの頭脳と評価される生徒なのだ。ちなみに前田がカンニングペーパーを買ったのも彼女からだ。例えば遙花がサークル正式設立のためのメンバーを探しているとするならばまずいことになる……。
「こうなったらあの人に相談しますか? あの人、生徒会の副会長もやってますし、直接言いに行きましょう」
「あの人か……」
三年の
「でも、あの人ちょっと
「このことをはっきりと言えばいいだけですよ。
「そうだよな、ビシッと言うべきだよな……あっ」
火にくべていたマシュマロはほとんど溶けて
「確か、結城さんは三年一組ですね」
「三年は忙しいからもう帰ってるんじゃないか?
廊下はほとんどの生徒が帰宅しているため静かだった。前田は一組の教室の前に立つと、大きく深呼吸をした。
「せめて
「機嫌の
「なあ雪村、いきなりボコられることはないよな」
「そこまで不条理ではないでしょう」
前田は扉を少しだけ開けて
「失礼します」
雪村ががらりと扉を開けたので、前田はつんのめるように教室の中に入ってしまった。
「……あ」
前田は間抜けな声を出してしまった。放課後の教室はがらんとしていた。窓
「結城さん」
雪村が彼女の名前を呼んだ。彼女はしばらく反応せずにいたが、エンターキーを
「前田じゃないか。まさか、私に会いに来てくれたのか?」
女子生徒は長い髪を払い
「受験勉強忙しくないんすか? こんな時間まで残ってて」
「受験のほうは
「生徒会のホームページを作ってるとか? なんか今日はいい天気ですね」



