アトリウムの恋人
1 Sports & Simulation Society ④
「なあ、会話をしようじゃないか」
繭子はくすりと笑いながら
「
「スフィアを調べるためにサークルを正式登録しようと言いだした、と?」
前田と雪村は顔を見合わせた。
「彼女なら、さっき私のところに相談に来たよ」
「……で?」
前田はゴクリとつばを飲み込んだ。
「私もメンバーに誘われてね。だから入ることにした。生徒会でも承認してやることにしたよ。メンバーの五人も集まったようだしな」
「そうじゃないでしょ」
繭子の言葉に前田は首を振った。
「
「元から部員だった僕は抜かしたとしても、こうもピンポイントでメンバーを選んだのはすごいですね」
前田の気持ちをよそに、
「遙花は、なんで繭子さんまで
前田は視線を
「体育祭や文化祭のイベントで私と遙花は仲のよい先輩後輩なのだよ。そして、彼女はできれば私が卒業するまでの一年間、
「もしかして、遙花さん知ってて誘ったんじゃないですかね」
「それは私にはわからないよ。だからこそ、サークルを稼働させ
「まだ、正式に認められた
前田は顔を上げた。できればサークル活動は避けたいところだ。
「条件はほぼ満たしているからね。あとは中間テストの点数次第だな。五人の全教科の平均が八十点以上ならその時点で認められるだろう」
こんなことなら追試になったほうがよかったかもしれない。いや、それは消極的なことだろうか。目の届かないところで
「それで、遙花さんは?」
「前田君が喜んでくれるかなあ、と笑いながら
「……わかりましたよ」
前田はそう
*
前田が出ていったあとも、
「
「そんなに心配か? まあ、基本的に駄目な要素が多い人間だからな」
「確かに先輩は、いい加減で生活にだらしなくて自分勝手でわがままでいて人に頼ってばかりのところがありますが、それでも僕の先輩ですから」
雪村は先ほどから遙花の行動の意味を考えていたが、断片的な情報はどうしても形にならなかった。
「
雪村が聞くと、繭子はふうっと息を
「対話をしたいならそれなりの情報を自分で手に入れるんだな。でないとフェアな会話が成り立たないだろう」
雪村はもしもサークル活動が始まったらどうなるだろうかと考えた。遙花の目的はまだわからないが、サークルは
もしかしたらサークル活動は変化のきっかけになるかもしれない。ぎこちない関係が修復されるか、それとも悪化かするか。歯車は動きだすのか、
「私は彼女に
繭子はこちらを見ずに言う。確かに彼女の言動に
「遙花さんを調べておいたほうがいいんでしょうか」
「今のお前にとって遙花はただの学校の上級生にすぎないだろ。彼女はただ、仲のいいお友達とサークル活動を始めたかっただけだ。それ以上でも以下でもないぞ」
「……何かあってからじゃ遅いと思いますが」
「自分の力でどうにかできるとでも思うのか? そういうのは勝手に自然な形になるものだ」
「運命みたいなやつですか?」
「じゃあ、僕はこれで失礼します」
雪村は頭を下げてから扉に向かった。
「……まだサークルが正式登録されるかは決まっていない」
教室から出ていこうとした雪村の背中に声がかけられた。
「決まるのはテストの返却が終わる一週間後だろう。お前が言う運命的なものがあるとしたら、サークルは正式登録されるだろう。そして何かが始まり、何かが変わるのだろうね」
繭子はパタンとノートパソコンを閉じて笑ってみせた。
*
──そして一週間後。
『サークル名・3S』
部室のプレートにはそう表記があった。
部室は、北校舎の
サークル名の3Sとは、sports & simulation society の略らしい。オンラインゲームサークルでは学校への印象が悪かったらしく、
「俺がカンニングでテストの点を上積みしたばかりに」
「ぎりぎり八十点超したようでしたからね」
「カンニングをしなければ三十点ぐらいだったんだよ。そうすれば、同好会設立もうやむやになったかもしれないのにな。あと誤算はあいつだよ。本当に満点取るから……」
「そんなに
「断れるわけないだろ。
遙花がサークルに興味を持ったことは七組の生徒たちから見ても驚く
「まあまあ、できちゃったのはしょうがないですよ」
「そうだよな。こうなったらもっと楽しもうか。この部室を秘密基地みたいにして遊ぼうぜ。ゴミ捨て場から冷蔵庫を拾ってきてビールを飲めるようにしよう。いや、近所のバーがつぶれるらしいからビアサーバーをもらってきて設置しちゃおうか」
「部室にゴミを持ち込まないようにな」
部屋に入ってきたのは
「とりあえず、内容はオンラインゲームサークルだから、パソコンぐらい置きたいよな。繭子さん、なんとかしてくださいよ。生徒会役員でしょ」



