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蒼剣の歪み絶ち蒼剣の歪み絶ち

著  那西崇那/イラスト NOCO著  那西崇那/イラスト NOCO
絶対に助ける……例えそれが彼女を消すことになっても。絶対に助ける……例えそれが彼女を消すことになっても。
少年は「生きたい」と願った──。願いの代償に、運命を破滅させる魔剣に。少年は「生きたい」と願った──。願いの代償に、運命を破滅させる魔剣に。
第30回電撃小説大賞《金賞》受賞作第30回電撃小説大賞《金賞》受賞作
30回電撃小説大賞受賞作特設サイト
金賞
電撃文庫より2024年3月8日発売予定電撃文庫より2024年3月8日発売予定
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あらすじあらすじ

《歪理物》──この世界の歪みを内包した超常の物体。青年、伽羅森 迅が持つ呪われた剣もその一つ。願いの代償に持ち主を破滅させるその《魔剣》に彼は「生きたい」と願った。引き換えに、生きながら周囲をも呪う運命を負わされて。《本》に運命を縛られた無機質な少女・アーカイブと共に彼は《歪理物》が関わる凄絶な事件と、それを狙う者らとの戦いの日々へ身を投じる──彼の歪みに巻き込まれ、アーカイブの依り代とされてしまったあの少女を救うために。かつて希望を見せてくれたあの少女を……。二人の呪われた運命の歯車は、一人の女子高生と《文字を食らう本》に出会い急速に動き出す。その先に待つ未来は破滅か、それとも   ──。
《歪理物》──この世界の歪みを内包した超常の物体。青年、伽羅森 迅が持つ呪われた剣もその一つ。願いの代償に持ち主を破滅させるその《魔剣》に彼は「生きたい」と願った。引き換えに、生きながら周囲をも呪う運命を負わされて。《本》に運命を縛られた無機質な少女・アーカイブと共に彼は《歪理物》が関わる凄絶な事件と、それを狙う者らとの戦いの日々へ身を投じる──彼の歪みに巻き込まれ、アーカイブの依り代とされてしまったあの少女を救うために。かつて希望を見せてくれたあの少女を……。二人の呪われた運命の歯車は、一人の女子高生と《文字を食らう本》に出会い急速に動き出す。その先に待つ未来は破滅か、それとも   ──。

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 薄暗い廃墟で響いたその音は、建物の悲鳴そのものだった。しかし、それは朽ちる運命にある床や壁が自然に崩れた音ではない。何者かが起こした破壊の音。
 何かの工場跡地と思われるその場所はどこもかしこも錆だらけ。残された機材は崩れ落ち、剥がれ落ちた天井材が床に散乱している。もう何年も人に踏み入れられていないその場所は、先ほどから続いている轟音と振動に軋みを上げていた。
 くぐもった破裂音が連続して重なる。
 銃声だ。
 続けて爆発音が響き、その音たちは徐々に建物へ近づいてくる。
 突如、爆発と見まごう勢いで工場の壁が破られた。
 現れたのは、ワニのような大顎を持った四足獣。しかし、その姿は既存のどの動物とも似つかない。何よりその体は錆まみれのガラクタでできていた。鉄材、コンクリート片、大型の歯車。すでに役目を終えた人工物たちが寄り集まって体高三メートル近くの生物となっている。
「落下物に注意!」
 巨大な四足獣を追って入ってきたのは、フルフェイスのヘルメットを被った武装集団。雪崩れ込むように壁穴から入ってきた彼らの数は五人程度。小型のサブマシンガンや真っ黒に染められた装備からは軍隊というより特殊部隊の印象を受ける。
 サブマシンガンの下部に取りつけられていた筒が暗がりに光る。
 放たれたのは三七ミリグレネード。目視も難しい速度で放たれたそれはガラクタの怪物に着弾すると同時に爆発する。
「ギガァッ!」
 鳴き声にも聞こえる金属が擦れ合うような音が反響する。
 怪物の体を成していたガラクタが飛散し、壁面や機材に突き刺さる。
「アーカイブ! 今だ!」
 ひと際若い青年の声が響いた。
 瞬間、巨獣の前に巨大な黒い網が出現する。よく見ればその黒い網は無数の文字の集合体。明らかに世の理外にある物体だった。
 突然現れた文字の網に反応できず、巨獣は網に激突する。
 不可思議な文字の網の強度は相当なもので、巨獣の激突に耐えるどころか激突してきた巨獣の体が切り裂かれるほどだった。
 耳障りな金属音が鳴り響き、錆まみれの金属片が周囲に散らばる。
 ガラクタの塊でできた獣は悲鳴もあげない。代わりに自らの正面、黒い網の向こうで佇む一人の少女を睨みつけた。
 地上五メートルほどの高さの作業員用の足場。そこに立っていたのは金髪の少女だった。肩口にかかる程度のミドルヘアと切れ長の釣り目から、冷たい視線をガラクタの獣に向けている。彼女は赤い麻紐を綾とりのように幾重にも指に通して掲げていた。
「ガガギィガァ!」
 ガラクタでできた獣の吠えたような動きとともに耳障りな金属音が室内に響き渡る。固い網など構うものかと少女に襲い掛かろうとするが……
「畳みかけるぞ!」
 再度青年の若い声が工場に響いた。その声を合図に巨獣の周囲に展開していた武装集団たちが一斉にグレネードランチャーを放ち、巨獣の体を四散させていく。
 巨獣の体を作っていたガラクタが宙を舞い、爆音に破砕音が重なりその体が崩れ落ちる。
「ありました!」
 金髪の少女が透き通った声をあげて、巨獣の体を指さす。彼女が示した先は崩れた巨獣の頭部の中。ガラクタ塊の中に赤く光る古ぼけた歯車があったのだ。大量の爆撃を受けたはずなのに、その歯車は不気味なほどに傷一つついていない。
「伽羅森さん!」
「おうっ!」
 声とともに一つの影が風のように飛び出す。
 それは武装集団の先頭にいた青年だった。歳は一七歳ほどだろうか。ややくせ毛気味の黒髪と若干口角が上がった顔立ちが特徴的だ。
 一人だけヘルメットを被っていないことといい、ボディスーツに身を包んでいる彼は他の隊員と比べ比較的軽装だった。
 駆け抜ける彼はその現代的な装備とは不釣り合いな一本の剣を右手に握っていた。
 鞘に収められたままのその剣は、一目には儀礼用の剣ではないかと思うような派手な剣であった。何せ柄から鞘まで金一色。その鞘にもこれでもかというほどに宝石が散りばめられているのだから。柄頭からは武骨な鎖が伸びており、抜刀を恐れるかのように鞘に巻き付けられていた。
 半壊した体で狂ったようにのたうち回る巨獣。青年はそれに臆すことなく足を止めずに鞘に収まったままの剣を構える。狙うはむき出しの赤く光る歯車。
 振るわれた巨獣の尾をすんでのところで躱し、鎖の巻きつけられた剣を半分ほど鞘から抜く。
 しかし、その瞬間巨獣が不快な声で叫ぶ。
 すると古ぼけた歯車が放つ光が一層強くなり、廃工場の機材や天井の鉄骨までもが突如としてバラバラになった。ネジやボルト、支えとなっていた建材のかみ合わせも全て解かれ、光を浴びた人工物は単なるガラクタへとなり下がる。
 新たに生み出されたガラクタは落下の軌道を変え、弾かれたように巨獣へと向かっていく。
「チッ。また再生かよっ!」
 剣を携えた青年が苦い顔をする。先ほどから追い詰めるたびにこれで埒が明かない。しかも、突如大部分を分解させられた廃工場そのものが地鳴りを上げて崩壊の悲鳴をあげている。
 青年の視線が周囲に走る。
 目の前のチャンスと崩れゆく工場。隙なく構えるフルフェイスの仲間達。
「全員退避! ここは俺が仕留める! 急げ!」
 武装兵達が逡巡したのは一瞬。「了解」の声を残し、彼らは落下物を避けながら外へと駆けていく。
 降り注ぐ瓦礫の雨の中、仲間を背に青年は巨獣へ向けて地を蹴った。
 赤い歯車はまだ見えている。集められていくガラクタで今にも隠れてしまいそうだ。
 だが、
(俺のほうが先に届く!)
 直線距離にして二メートルもない。新たなガラクタが歯車を覆いつくすより先に、あの背の上にたどり着ける。
 引き延ばされる時間。研ぎ澄まされた神経が一瞬を長くしていく。
 青年の記憶ではこの廃工場は三階建て。瓦礫が頭に当たるだけでも重傷。運が悪ければ即死。そうでなくとも生き埋めとなって死ぬだろう。
 つまり、
(俺には当たらない)
 これから起きうるであろうことにも構わず青年は駆ける。降り注ぐ瓦礫。鉄骨や天井材が床に激突し、何重にも破壊音が反響する。
 青年が鞘から剣を引く。抜ききらぬように慎重に。
 蒼。
 僅かに覗いたその刀身は、灰でも被っているかのように、暗く鈍い色をしていた。
 この刀身を全て出しきれば、化け物になるのは彼のほう。
 瓦礫の間を縫って差し込んだ陽光に、刀身が鈍く煌めき青年の頬を巨大な鉄骨が掠める。
 蒼刃が赤く光る歯車に届いた瞬間、廃工場は完全に崩落した。


 完全に崩れ去った廃工場。周囲に土煙が立ち込め、地響きがいまだ周囲の建物のガラスを震わせている。地面に突き刺さった鉄骨や、遠くまで飛散したガラス片がその倒壊の凄まじさを物語っている。
 しかし、土煙が晴れた先には、倒壊のど真ん中だったはずの場所に一人佇む青年の姿があった。体の各所に傷を負ってはいるものの、命に係わるような怪我はない。青年は自分の頬を伝う血をぬぐった。
 彼の左右では太い鉄骨が交差するように地面に突き刺さっており、傘のようになって彼を他の瓦礫から守っていた。
 とはいえ……
「たまたま最初に落ちてきた鉄骨が傘代わりになり、たまたまそれ以外の瓦礫もあなたを逸れた……ですか。相変わらずですね。伽羅森さん」
 いつの間にか伽羅森と呼ばれた青年の隣に金髪の少女が来ていた。少女の言うように青年の周囲にだけ不自然に瓦礫が少なかった。
 青年は目を細める。
「そう言うお前も、なんで服だけがボロボロなんだよ。アーカイブ」
 アーカイブと呼ばれた金髪の少女もまた服が傷だらけになっていたものの、体には傷一つついていない。
「私は今日死ぬ運命ではありませんので」
 少女は乱れた前髪を整えながら淡々とそう答えた。血の汚れすらない眩しい肢体が露わになっているが、恥じらう素振りは全くない。
 青年はため息をついて空を見上げた。
「ハァ……運命ね……」
 彼は自分の右腕を見る。袖口からわずかに覗いているのは青黒く変色した自身の肌。炎のようにうねった痣があった。
「運命、運命……俺たちはそればっかだな」
「……少なくとも私の運命は呪われてはいませんがね」
「でも、自分の方がマシだなんて思ってないだろ」
「…………」
 何も答えなかった少女に青年は自身の上着を掛ける。
「ま、少なくともお前だけは解放して見せるよ。絶対にな」
 青年は袖を引っ張って炎のような暗い痣を隠した。
 金髪の少女は長いまつげを伏せて「ご自由に」とだけ答えた。そのまま彼女は手に持った赤い紐で綾とりを始めてしまう。
「大丈夫ですかっ?」
 退避していた隊員が青年の下へ駆け寄ってくる。青年は片手をあげてそれに答えた。
「大丈夫っす。施設の制圧は?」
「済んでいます。組織員らしき人物は数名拘束済みです。どこの組織の傘下かはこれから聞き出します」
「『墓上の巣』あたりっすかね。最近西側で騒いでる『ネオK』とかかも……」
「どちらにしても、切り捨て前提の末端組織の可能性が高そうなので、大した情報は得られなさそうです。ノアリーの名すら知らなかったので」
「ああ、そうなんですか。有名企業なのになぁ」
「ハハ、流石に表での名前は知っていると思いますが」
「はは、そっすね。……っと失礼」
 青年が眉を上げると、ズボンの左ポケットから携帯端末を取り出した。羽根のストラップがついたその端末は「着信中」の文字を表示して何度も振動していた。画面に映った着信者名を横目に見ながら青年は通話ボタンを押す。
「……なんですか。難波さん」
『こーらこらこら、上司はそんなに邪険にするものじゃないぞー?』
 青年の面倒くさそうな声音を跳ね返すようなハイテンションな口調だった。中年程度の男性の声だが妙に声が高くハリもある。
『ちょうど任務が終わったところでしょー? さすが私。Nice timing!』
 最後だけやたら発音のいい英語だった。
 青年はうんざりした表情を浮かべる。
「……前から頼んでた件、進展があったんですよね?」
『おー流石だねぇ。ご希望通り、あの本の件は君の担当になったよ』
 その言葉で一気に彼の顔が引き締まった。彼の視線が隣で待機する金髪の少女に移る。 
『根回し頑張ったんだよー? ……まあ、ただし破壊任務だ』
 青年の表情が曇った。
「でも、難波さん……」
『だーめだよ。大きな実害が出ているんだ。ノアリーとしては、あれを保管するという選択肢はない。私も頑張ったが……流石にそこは覆せなかった』
「…………」
『あの子を助ける手がかりを見つけたいというのは分かる。望みを叶えたいなら破壊しない理由を見つけなさい』
「……わかりました」
 その後簡単なやり取りをしたあと、青年は通話を切った。彼は目を細めながら自らの右手に持つ豪奢な装飾が施された剣を見た。
 青年はフルフェイスの隊員に会釈をする。
「すみません。それじゃあ俺達次の任務に行くんで、後片付けお願いします」
 隊員は鋭い敬礼でそれに答えた。
「了解。……ノアリー最上級調査員『金死雀』の方々と一緒に任務ができて光栄でした」
「いやあ、そんな。こちとらただの高校生ですよ。そんな畏まらなくっても」
 ヘルメットの奥から笑い声が漏れた。
「一級の軍人ですら普通はなれない役職にいる高校生を『ただの』とは言わないでしょう」
「ハハハ……まあ、そうっすね……」
 なんとも言えない苦笑いを返し、青年は金髪の少女へ口を開く。
「アーカイブ。行こう。新しい任務が入った。場所も近い。連続だけど大丈夫か?」
「問題なく。そこに理の歪みがあれば赴くだけです。それが我々金死雀の仕事なのですから。行きましょう」
「いや、やっぱ待った。その前にお前は着替えろ。服持ってきてやるから」
 吹いた風は土煙を攫い、どこか遠くに運んでいく。
 倒壊してもなお壊れた機械に嵌り続けている歯車が、静かに軋みをあげた。
 これは運命に縛られた青年と少女の物語。
 決められた結末に向かい、それでもなお足掻いた先で変わるものはあるのだろうか。

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書籍情報書籍情報


  • 書影:蒼剣の歪み絶ち

    少年は「生きたい」と願った──願いの代償に、運命を破滅させる魔剣に。

    ISBN 9784049155273
    発売日 2024年3月8日発売 定価 770円(本体700円+税)
    ISBN 9784049155273
    発売日 2024年3月8日発売
    定価 770円(本体700円+税)

    少年は「生きたい」と願った──願いの代償に、運命を破滅させる魔剣に。

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