地球篇

1-5 西暦2446年、滅亡まで622年(俳優はかく語りき)


※西暦2446年3月、ボストン・タイムズに掲載されたインタビューより抜粋



インタビュアー(以下、イと表記):ではトム。カミングアウトから一か月経ちましたが、ご自身の生活で変化はありましたか。


トム・イーストウッド(以下、トムと表記):特に変わらないね。これは自分でも予期していなかったよ。こんなことならもっと早くにカミングアウトすべきだった。


イ:ご自身が監督となって映画を作るという噂がたっていますが事実でしょうか。


トム:それは事実だ。ゾンビを主題にした映画を撮りたいと思っている。コンタクトも化粧もしない、ありのままのゾンビの生活を映したドキュメンタリーだ。現在オーディションで出演してくれるゾンビを募集中だ。もっとも、今のアメリカの法律ではR18にせざるをえないけれどね。


イ:「ありのままのゾンビの姿を上映することは青少年の育成に悪影響を及ぼす」という世間の風評に対しどう思われますか。


トム:馬鹿げてるね。今や人類の四人に一人がゾンビだ。犯罪に手を染めたわけでもない我々がなぜこそこそ隠れて生活しなければならない? 人間たちに言ってやりたいよ。「僕たちが毎日コンタクトをはめるように、君らも毎日深紅色のコンタクトをはめるべきだ」って。


イ:ご自身がコンタクトをはめるのをやめたのは、そういった考えに起因するものですか。


トム:そうだね。そういう思いは前からあった。実際のきっかけは彼かな。リク・ムカイ(※1-4参照)。


イ:リク・ムカイ?


トム:昨年話題になった日本のコメディアンだ。君も見覚えがあるんじゃないか?


イ:ああ、彼ですね。コメディアン・グランプリのさなか、コンタクトを外しゾンビであることをカミングアウトしたという。


トム:彼は素晴らしくユーモアのある人間だよ……いや、ゾンビか。彼はゾンビであるというネガティブな事象を笑いに変えたんだ。ニュースでリクの存在を知った時、僕は悟ったんだ。自分を偽って生きることの虚しさに。すぐさまオオサカ行きのチケットを取って彼に会いに行ったよ。彼のパートナーのサキも素晴らしかったな。「彼がゾンビか人間かどうかなんてさほど重要じゃない」って言うんだ。そんな女性に僕も巡り合いたいと思ったものだよ。リクは幸せ者だね。


イ:ご自身の離婚の原因はゾンビ化にあるとお思いですか?


トム:その件についてはノーコメントだ。


イ:失礼しました。そろそろお時間ですが、ファンに一言お願いします。


トム:僕の行動は誰かを失望させたかもしれないが、それ以上に誰かの希望となるはずだという確信がある。どうか見守っていてほしい。


イ:――ありがとうございました。

刊行シリーズ

はじめてのゾンビ生活の書影