「……そういえば、このクエストの名前ってなんだっけ」
 俺の問いに、アルゴがウインドウを開き、答えた。
「《西の魔女と三つの宝》だってサ」
「……普通だなあ。展開はこんなにシュールなのに……」
 アルゴにとっては二日ぶり、俺とアスナには十五分ぶりの地面をしっかりと踏みしめて立つ三人の前には、次なるキーキャラがゆらゆら体を揺らしている。
 しかし、そいつはまたしても人間ではない。木の棒を十字に組み合わせた胴体と、麻布に詰め物をした丸い頭を持つ人形──すなわち案山子だ。ユーモラスな外見だが、これでも立派なモンスターである。ホラー系フロアによく配置されている、《スケアクロウ》系のMod。
 お出迎えは、案山子だけではなかった。左隣には、中身のない全身鎧である《リビングアーマー》系モンスター。そして右隣には、人の体にライオンの頭が乗った《ワーライオン》系モンスター。三体とも、攻撃してくる様子はない。カラーカーソルも非アクティブ状態を示す黄色のままだ。
 さてどうしたものか、と思っていると、いきなり案山子が喋った。
「おお、お待ちしておりましたのことですよ!」
 その台詞を合図に、案山子の頭上に浮かぶ《!》マークが、クエスト進行中を示す《?》に変化する。同時に、ワンコロの頭からはマークが消滅。
「待ってた……といいますと?」
 俺が一応それらしい返事をしてやると、案山子はいっそう激しく頭を揺らしながら猛然と語り始めた。要約すると、内容は以下のようになる。

 ──我々《カカシ》《ブリキ》《ライオン》は、人間になるために旅をしていたが、その途中に仲間の女の子が《西の魔女》にわれてしまった。助けたいのだが、カカシは頭の中身を、ブリキは心臓代わりの宝石を、ライオンは勇気の源である金色のたてがみを魔女に奪われて戦えない。そこで、一緒に魔女と戦ってくれる剣士を招くため、女の子の飼い犬である《トト》に竜巻の呪文をかけ、壁の向こうに送り出したのだ。

「は、ははあ……なるほど……」
 頷き、俺はちらりと後ろを見た。
 マップによれば、現在地は同じ二十二層の北西部だ。切り立った垂直の崖に囲まれていて、徒歩での進入は不可能なエリア。カカシの言う《壁》とは、あの崖のことだろう。
 クエストの設定はどうにか把握できたが、しかし全体的に妙な話だという感想は変わらない。だいたい、魔法が存在しないはずのSAOで、《魔女》だの《竜巻の呪文》だのが出てくるのは問題なのではあるまいか。それに、カカシとライオンはともかく、なぜリビングアーマーの名前が《ブリキ》なのだ。
 ──というような、どうでもいいといえばどうでもいい疑問に俺が頭を悩ませていると、隣で突然アスナが呟いた。
「……わたし、解った。このクエストが何なのか」
 続けて、アルゴも頷く。
「オレっちも解ったヨ。道理で家が飛ぶはずだヨ」
「へ? どういうことだ?」
 左右を順に見ながら訊ねると、アスナがにっこり笑いながら、まったく思いがけない言葉を口にした。
「キリトくんも、子供の頃に読んだと思うよ。細かいとこはあれこれ違うけど、このクエスト……《オズの魔法使い》が元になってるんだわ!」
「……あ、ああ、なるほど、そういうことか!」
 と、叫んではみたものの、正直その物語を端から端まで思い出せはしなかった。主人公の女の子と飼い犬が、家ごと竜巻に飛ばされて、落ちた先が異世界で、カカシやブリキ人形やライオンを道連れにあれこれ冒険して、最後にはまた現実世界に戻る──というようなストーリーだったはずだ、多分。
 そうと解れば、リビングアーマーが《ブリキ》なことにも納得が行くが、同時にこの先の展開も非常に思いやられる。
「……となると、このクエ、猛烈に長いんだろうな……」
 ため息混じりにそう言うと、アスナが「なんで?」というような顔をするので、肩をすくめて続ける。
「だってさ、展開的に、これからカカシの脳ミソとブリキの心臓とライオンのたてがみを順番にゲットしなきゃいけないんだろ? 一つに何時間かかることやら……」
 俺がボヤくと、アスナとアルゴは顔を見合わせ、なぜかにんまりと笑った。
「キー坊、さては元ネタがうろ覚えだナ?」
「う……いや、まあ、その通りですけど……」
「ふふ、キーアイテム集めは必要ないと思うよ。そこはすっ飛ばして、さっそく魔女のお城に乗り込みましょ!」
「え、えええ!?」
 俺の叫び声に合わせて、カカシ・ブリキ・ライオンの三名も「えええー」という顔をしたような気がしたのはきっと気のせいであろう。

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