内幕隼
うちまくはやぶさ。東京の刑事さん。妖怪嫌われ体質以外はいたって普通な公務員。あと感性が若いのか、年端もいかない少女達となんか仲良くなる。ちなみに実家はインテリビレッジと呼ばれる超高級ブランド田舎にある酒造所。
菱神艶美
ひしがみえんび。謎の女子中学生で、自称フリーランス。いわくありげな殺人事件の現場にふらりと現れる推理マニア。
過去に言動やファッションなどで黒歴史あり。また『菱神の女』の一員で、その才能が開花すると地球人類の四分の一が死滅するのだとか。
一日目
午後五時
【隼の手帳】
・車で山道を行く。
・私道のトンネルを潜った先で艶美を発見。トラブルかと思って拾う。
・真後ろで轟音。トンネル内で崩落発生、孤立状態に。
・携帯電話は通じない。
・山の斜面に屋敷が見える。固定電話を求め、ひとまず二人でそちらに向かう。
隼
「しれっと『拾う』で済ませているけど、実際には声掛けた瞬間錆びた刃みたいな目をしたクソガキからいきなり側頭部に一発もらった訳だ、馬鹿でかい懐中電灯の底でな!」
艶美
「やっ、やだなあ。そりゃいたいけな女の子が山道とぼとぼ歩いている最中に素性も分からない大人に車から声掛けられたら防衛本能が働くものだって! 刑事さんも刑事さんでさっさと警察手帳を見せてくれれば良かったのに」
隼
「あと、やっぱりしれっとしているけど、何でこの推理マニアが一人で山道を歩いていたのかは大きなポイントだ」
艶美
「そういう刑事さんこそ、これってお仕事? それともドライブかにゃ?」
午後五時~六時
【隼の手帳】
・洋館に向かう途中で天気が急変、嵐に。
・艶美と二人で洋館に到着。
・門を叩くと顔面包帯の謎の執事が応対。
・招かれて館内に入ると、そこは外壁と屋根以外の床、壁、天井などが全て透明な強化ガラスでできたイカれた内装だった。
【えんびめも】
・謎の執事wと艶美ちゃんは知り合いだよ。
・刑事さんは電話を貸してもらおうと思ったみたい。→ でも固定の黒電話(!)も不通だよ。
・館の夫人、星見明逢(ほしみあくあ)が執事やメイド(キラキラ)が止めるのも聞かずに、自由気ままに模様替えをしてる。桐のタンスとかも動かしてた。(← 意外と力持ちだな)
隼
「お前……当時は終始ピリピリの仏頂面だった割にメモ書きはカワイイな」
艶美
「艶美ちゃんは頭の先から足の裏まで全部可愛いだろ! あっ、何そのため息は刑事さん!?」
隼
「そんなこんなで館には入れてもらえた」
艶美
「むむう……! と、ともあれ、これが噂の透輝館。ちなみに建築士のウェブサイトにはこう紹介されているね」
『当事務所が携わらせていただいた、過去のお仕事履歴(いずれも家主様の許諾済み)』
夏川(なつかわ)建築設計事務所ではお客様のニーズに応え、住居を単なる生活の場ではなく心を満たし精神とマッチしたオーダーメイドの空間芸術とみなしております。
東京西部の山中に聳える件の透輝館もまた、外から見れば美しい、しかしそれだけの館に思えるかもしれません。実際には屋根、外壁、地階床など外枠を除く内壁、床、天井の全てをガラスにした一見珍しい造りではありますが、ご依頼のお客様の家訓に則った最適の形を具現化したものであり、異質な中にも基本を忘れず精神の充足を叶えられるよう徹底的に配慮した設計でもあります。
艶美
「私が執事さんとフツーに会話している事から分かる通り、私は元々この館でお世話になっていたんだよ。つまり迷子とか遭難とかじゃなくて、散策だったんだね」
隼
「あと、館の見取り図についての説明がいくつか。ただ、正直これはどうでも良い」
艶美
「見取り図がないと解けない事件じゃなかったからね」
隼
「それと、何気に夫人の模様替えはのちのち大きく響いてくる」
艶美
「ええと、トンネル崩落後に嵐が来ているのもチェックかな。つまり、災害で崩れた訳じゃない」
午後六時~六時三〇分
【隼の手帳】
・リビングで館に住む家族や来客などの紹介を受ける
・星見収斂(ほしみしゅうれん)
56歳、男性。透輝館の主人で、上得意専門の顧問占い師。
・星見明逢(ほしみあくあ)
36歳、女性。収斂の妻。分類では専業主婦だが、家事は使用人に任せている。
・星見導入(ほしみどうにゅう)
27歳、男性。星見家の長男で、やはり占い師。
・星見看破(ほしみかんぱ)
20歳、女性。星見家の長女で、やはり占い師。足が悪いのか、車椅子で生活。
・狩場咎(かりばとが)
40歳、男性。透輝館の執事。料理人も兼任。
・松島恋(まつしまれん)
22歳、女性。透輝館のメイド。
・八井敏(やついとし)
72歳、男性。総合商社『八井商事』の一線から退いた名誉会長。
・松島涼(まつしまりょう)
17歳、女性。女子高生。大手ゼネコン『松島建設』の次期トップ。
・初友鳴(はつともなる)
19歳、女性。女子大生。金融機関大手『初友信用銀行』頭取兼代表取締役の隠し子。
・豊川龍(とよかわりゅう)
25歳、男性。国際自動車メーカー『トヨカワ自動車』の会長秘書。
艶美
「色々あって目が回るけど、ひとまずここだけ押さえておこう!
『占い師の一族がいるぞ』
『大企業の関係者がツノを突き合わせているぞ』
『つまり、館の内部と外部、グループは二つに分かれるぞ』
……これだけでオーケー」
隼
「まあ他にも分かりやすい違和感はあるがな。奥さんの歳と子供の歳を考えると……とか、隠し子って自分から言うかね……とか、何で本家直系なのに秘書やってるのかな……とか」
午後六時四〇分
【隼の手帳】
・自己紹介の過程で、艶美が『菱神』姓だと判明する。
【えんびめも】
・内幕隼職業は刑事ですと名乗った時に場がざわつく。特に星見導入がロコツにビクビク。
艶美
「これもひどい話だよね。刑事さんたらクソガキクソガキばっかりで、相手の名前も知らなかったんだから」
隼
「でもまあ驚いたのは事実だわな。菱神グループって言えばテレビを点ければどこでもCMを流している超巨大企業だ。大体こんな感じの、企業傘下をずらずら並べるような。そこまでのビッグネームなら、こういう集まりにいるのもまあ頷けるか」
『菱神グループ、企業間想定CM(月曜九時台全国放送、独占的スポンサード、一二〇秒広告)』
小さな菱を組み合わせて大きな神に。
あなたの生活に寄り添う菱神グループです。
弊社グループの歴史は幕末にまで遡り、倒幕と維新の変化をいち早く掴んだ創業者が来たる通訳の時代のスタンダードとなるべく模索を始めたところが契機となります。
二度にわたる大戦終結後に財閥は解体され、企業連合体としてのグループに生まれ変わりました。
現在は九部門五八社が加盟しており、その従業員総数は二〇万人強。常に新たなフロンティアを切り拓く菱神グループは、斬新で大胆な切り口と堅実できめの細かいケアにより、国際的にも優れた地位を確立しております。
艶美
「けっ」
隼
「おいおい」
艶美
「何よー、自分で自分を神とか呼んでるモンスター企業なんてろくなもんじゃないでしょ!」
隼
「こっちもいつか決着つけないとなあ」
艶美
「いいよ別に! ていうか私やお姉ちゃんみたいな『菱神の女』コレクターっていうか、ド級の超戦力ハーレムの道を突っ走りそうだし! 夢とか籤とか天とか、あの辺をケータイ一つで自由自在に呼び出す召喚デカなんて目も当てられないっ!」
隼
「まあそれはともかく、だ」
艶美
「本題は挙動不審な星見導入について。こいつは狩猟マニアで部屋にいくつもクロスボウを持っているの。滑車を使わないと弦を引けないような超大型から、カメラバッグに入っちゃうピストル式まで。山で空き缶撃っていたのが咎められないかビクビクしていたんだよ。当然シロ、ただの杞憂。いわゆる幻覚犯ってヤツだね、紛らわしい」
隼
「つまり、冒頭で艶美が山道を歩いていたのはこれの調査だな」
艶美
「クロスボウが実際に使われていた痕跡を調べていたんだよ。計画殺人にしてもぶっつけ本番はないだろうしね」
隼
「にしても、またあからさまな危ないオモチャだよな。でも実際、大それた事件になるなんて思っていなかった。壁、床、天井、どこも透明で隠し事ができないんじゃ、エモノがあってもこっそり計画なんてできない。……と考えていたんだが」
午後六時四五分
【隼の手帳】
・八井敏、豊川龍などが何か勘違いしてこっちに噛み付いてくる。
・どうやら占い師一族と大企業関係者の間で揉め事があるらしい。
・執事の狩場咎やメイドの松島恋は占いについてはチンプンカンプンで、会話についていけない。
・豊川龍はズボンのポケットに片手を入れている。
【えんびめも】
・実は星見収斂を害する脅迫状が届いていたよ。大企業側は、刑事を呼んで → 身を守るつもりかって収斂に詰め寄り中(じりじり)
隼
「初耳だぞ……脅迫状だなんて」
艶美
「そりゃ言える訳ないでしょ。向こうは政治家や大企業専門の超高額顧問占い師。包丁一本抱えて突っ込んでくる刺客も見えませんじゃ商売上がったりだもん」
隼
「その胡散臭い占い稼業も問題だよな」
『損害賠償判決が確定した写真週刊誌の特集記事』
休日、東京西部の山奥にひっそりと向かう黒塗りの高級車。鬱蒼と茂る深い森の中にはあまりに不釣り合いなその車に乗っていたのは、経済の世界では名の知れた自称『有識者』のA氏であったという。
占いと言えば雑誌や朝の情報番組でもお馴染み。ただしVIPのための特別なサービスがあるとしたらどうだろう。
この日は悪名高い誤爆仕手戦、ブラックミニッツ勃発の前日となり、そのプログラム売買の惨憺たる結果は言うに及ばず。
もしも決定に件の占いが関与していたとしたら?
どうやらここ最近の国際問題は、料亭の外で決められていくらしい。当然、どこであっても問題だろうが。
艶美
「ようは、政財界のあちこちに信奉者を作って、『占いの結果』とやらで各人の動きをコントロールできるんだからね。こんなの株価の不正操作なんてやりたい放題、惑歌のヤツが聞いたら卒倒するかも」
隼
「法律はどうなっているんだ。こんなのインサイダーとか風説の流布とかじゃないのか」
艶美
「株価情報じゃなくて、あくまでも占いってのがポイントだよねえ。宗教や思想には口出し無用がこの国のルールだし」
隼
「で、いい加減にしろと怒鳴り込んできたのが大企業組の面々。そりゃみんな真面目に働いているのに、横から出てきて水晶に手をかざしてムニャムニャ言うだけでGDPだの国際収支だのがガラリと変わるって話なら当然か。下手すりゃ億飛び越えて兆に踏み込む世界の問題な訳だし!」
艶美
「ちなみに艶美ちゃんとしては、『菱神の男』が作ったグループなんか興味ない。脅迫状の件に興味を持って、勝手に潜り込んできたってだけだよ」
午後六時四五分
【隼の手帳】
・激昂した八井敏が投げた灰皿の狙いが外れ、艶美に向かう。
・とりあえず灰皿を片手でキャッチ。
【えんびめも】
・やめてよデレちゃうでしょ! (でも記念日だ! めもめも)
隼
「……おい」
艶美
「何よ」
隼
「いくらなんでもちょろすぎやしないか!」
艶美
「うっ、うるさいな! 心の中が傷だらけで人の愛情に飢えている孤独な女の子をナメるなよ! がるがる!!」